2012/04/23

たかが野球、されど野球。

受け月 (文春文庫)
受け月 (文春文庫)
  • 発売日: 1995/06

『受け月』伊集院静②
[18/72]Library
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★★☆

7つの短編。それぞれの人生を抱えた人間の物語があるが、全てに共通しているのが「野球」。年齢を重ね、人生の折り返し地点を過ぎ、それぞれの人生を歩んできた男たち。「現役」か「以前」か、野球に関わっている人間が、「大人」になって野球以外の物事を背負う比率が高くなっても、「野球」という点に関しては、一瞬で「少年」に戻ってしまうようなキヨラカサを感じます。
ダイノオトナが、野球ということに関わった瞬間に、幼少の頃、野球を始めた瞬間に戻るようです。プロ野球を見るだけではなく、自分がする野球の方。今の時代はわかりませんが、少年にとって野球とは単なる競技を越えたものが含まれているような感じさえします。
かつて、何もかも見えずに没頭した野球。そこには自分の技を磨く努力や、チームの仲間、そして相手チームがあります。おそらくは、この「チームプレイ」というところが野球の最大の魅力なのだと思います。技術の高い人ばかり集めても、必ずしも常勝チームにはならない、という魅力です。逆にいえば、個々の技量が低かったとしても「勝つ」ことは可能だということ。
個人的には、「野球」で育ちました。小さい頃には町の野球チームに入りました。背番号「23」。レギュラーではありませんでしたし、それほど打ち込んだわけではありません。が、もう40年近く前のことも、こと野球に関してはすぐに思い出すんですね。不思議なほど記憶がよみがえるのです。日曜の朝に練習に行ったこと、父親とキャッチボールをしたこと、ジャイアンツの「岡崎モデル」のバットを買ったこと。
学生時代に野球をやったわけではない自分にしても、人生において小さくない位置を占めているのが、野球です。専ら「見る」方ばかりになりましたが、プロ野球でも「ダイノオトナ」が、たった一つのボールを追いかけて夢中になっている姿を見るのは、大好きなんです。球場に足を運んだスタンドの観客みなボールの行方を追う。ひいきのチーム、ひいきの選手に熱い声をあげる。
野球の魅力に見せられた「オトコノコ」は多いんでしょうね。角度は違えど、彼らはなんらかのカタチで引き続き「野球」に関わります。プロ野球の応援、草野球チーム。或いは球場で行われている試合(自分にはまったく無関係であっても)に足を止めて見入る。
この「野球x 人生」の関わりを描いた内容に、引き込まれてしまいました。全編、なんらか野球に関係しているのが、「次」を読みたくてしょうがなくなる気分にさせてくれます。野球が好きな人、好きだった人、せつない、あたたかい気持ちになれます。

【ことば】名選手にならなくたっていいんですよ。自分のためだけに野球をしない人間になればいいと思っています。

少年野球で、レギュラーになりきれない選手。監督は、しかし、ちゃんと見ています。野球は「自分だけ」でどうにかなる競技ではない。「一緒に「勝利」に向かう」チームメイトと同一になること、相手に対しても手を抜かない、全力を出すこと。ひとりではできないからこそ、魅力が増す。

受け月 (文春文庫)


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ひねもすのたり、読書かな
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