2012/04/15

「読み応え」というのでしょうか、重量感と心地よさの同居。

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)
風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)
  • 発売日: 2009/04/10

『風に舞いあがるビニールシート』森絵都④
[11/65]BookOff
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

前に、『架空の球を追う』を読んで「森絵都さんは長編の方がベターかも...」と思っていました。そして本書は、直木賞受賞作品ではありますが、「短編」です。これも同じような感想に至るのか...
まったく異なりました。非常に「濃厚」な作品です。どの編も「濃い」のです。長さは確かに短いのですが、それを感じさせない、というかそれを越えた何かがある、というか。通常の日常生活とは少し離れた世界(国連の仕事や、仏像を修復する仕事など)を生業としする主人公を描く人間ドラマや、一般的なシチュエーションでありながら、「普通の人」の普通のヨコガオを描きながら、遠い昔の出来事を思い出させてもらったりとか。
いろいろな「世界」が繰り広げられます。これらが1冊の本に収まっている、というのをいつか忘れてしまいそうになるほど、個性的で魅力たっぷりの編が。だから短編であることが故の「消化不良」はまったく感じられません。かなりの秀作ではないかと思います。
人それぞれ、いろいろな思いを持って、いろいろな環境の中、生きていきます。それぞれの人が向かうべき「幸せ」はそれぞれ表面的には異なるけれど、「幸せを追い求める情熱」は誰も一緒なのかもしれません。大切なモノはなんなのか、ということではなく、大切なモノを追い求めることそれ自体が大事であることが、伝わってきます。
個人的には、仏像の修復師を主人公にした「鐘の音」が、ググっときました。最後の最後を主人公の「決め台詞」で締める、というパターンが妙に心地よい。背中がゾワっとくる感じです。これを小説で、1冊の中に何度も「決めて」くれちゃう著者の手法、みごとです。もちろん、表題作も感動です。どれも「はずれ」は一切ありません。
「人間が生きていく中で、『大切だと信じること』 を大切にする」という共通項を貫きつつも、主人公も様々、もっている仕事もさまざま、どれかに「自分に近い」ストーリーを見つけることができるかと思います。この世界に浸る時間を、つくってみても価値があると思います。

【ことば】残念ながら人間、そうそうひと思いに大人にはなれないものだと...思った。昔日の青臭かった自分との決別を図りつつ、望むと望まざるとにかかわらず失われていくその青臭さにどこかで焦がれている。

人生の「折り返し」を意識する頃になると、同じ風景であっても「往路」で見た風景と「復路」で見るそれとは違って見える。そして走り方も変えなきゃいけない。そんな気がするんだ。往路の反省はする必要はない。ひとつだけ、少なくとも折り返し地点まで来たのは「自分の脚で走ってきたから」ということを強く自覚すればいいのだ。

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)


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本を読む女。改訂版
今更なんですがの本の話

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