- おれのおばさん
- 発売日: 2010/06/04
『おれのおばさん』佐川光晴②
[15/150]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆
有名中学に合格し、「エリートコース」に乗りかけた中学生が遭遇した「事件」。父親の逮捕によって、家庭、家族、あらゆる環境が突然変わる。住居も失くし中学も転校せざるを得ない。母親とも離れてくらすことになり、その新しい環境は、「おばさん」の運営する施設。
そこでは、さまざまな理由で親元から離れて生きる中学生が共同生活を送る。同世代ということもあり、またお互いに普通ではない理由を持っていることを理解し合うこともあり、次第に「仲間」意識が芽生える。
その施設を動かす「おばさん」はけして彼らを「可哀そうな目」でみることはしない。他と同様の中学生として接するだけだ。彼らがここ(施設)にいる理由は彼らにはなく、彼らの親にあるのであるから、当然なのかもしれないが、一般社会=彼らの世界でいえば「学校」において、他の子ども或いは親、先生からそのような目で見られたり、同情されたり、誹謗中傷されたり、というケースは当然に考えられる。その際に、自分で自分を支えられるだけの「強さ」を持っていられるか。おばさんの指導はそこに真髄があるように思える。
淡々と暮らす主人公の中学生だが、表面的には「淡々」だが、やがて強さを身につけ、仲間の大事さに気づき、そして「家族」の本当の姿を探すようになる。その「成長」ぶりが伝わってくるのだ。中学生の主人公、もうひとりの主役である「おばさん」、友達らが、いきいきと描かれ、彼らの楽しみ、悲しみ、夢、そんなものが伝わってくるのが暖かい気持ちにさせてくれる。
おばさんの素性も徐々にあきらかにされていくが、それを知っていく過程においても主人公の心の変化に大きな影響を与えているのだ。過去を引きずらないようにみせるおばさん、本当に大事にするもの、捨てられない夢を抱いて生きるおばさんの姿から、たくさんのものを得ていくのだ。
逮捕されても父親を待ち続けると決めた気持ち、意気消沈しながらも自力で立て直そうと努力する母親を支えようとする気持ち。おばさんと仲間に囲まれながら、「家族」に対する気持ちを高めていきます。おばさんと過ごす施設での生活も、カタチは違えど「家族」と同じように暖かいものであったのです。だからこそ、両親の大切さに気づき、成長するきっかけを得られた。
現実としてこのような環境にいる中学生を取り囲む施設や行政がかなりの課題を抱えていていること、一般の人の理解や学校での課題も含めて、このストーリーからそれらを知ることもできる。著者の本は2冊目だが、そのような「機会がなければ知ることのない、でも実は知っておくべき社会問題」を含ませる手法は見事です。押しつけがましくなく、でも子どものいる親として考えることは、やはり心に残りました。
一気に読める読みやすさ、エンターテイメント、すこしハラハラする展開。そしてなにより応援したくなる人々。温かい読後に浸れます。
【ことば】...本当はずっと前からおかしくなっていたのが、たまたまあの日、一挙に表に出たのだ。それなら反対に、地道につづけていた努力がとつぜん実を結ぶことだってあるはずだ。
父親の逮捕という予期せぬ事態が引き起こした突然の変化。それでもこの中学生は、前を向いて歩いていこうという気持ちを持ち続けている。 一気に失ってしまうこともある。逆に、それまで日の目を見なかったことでも、いつか目を出すこともある。そう信じ続けることが大切。
おれのおばさん
>>本書の感想文、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね <<
まどろぐ
PEPERONIの記憶の本棚
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