2012/08/22

おしゃれで軽快...日常は小説なり

異国のおじさんを伴う
異国のおじさんを伴う
  • 発売日: 2011/10

『異国のおじさんを伴う』森絵都⑤
[14/149]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

不思議な、そして惹きつけるタイトル。考えてみたら「森絵都」さんという名前を初めて知ったのは、本書の新聞広告、でした。本書はタイトル作含めて10の短編集。仕事、恋愛、日常を綴った作品で構成されています。

エキサイティングな、どんでん返しがあるようなストーリーではありません。主人公が、その人に絡む他者とのやり取りの中で、ちょっとした違和感を感じつつ、それを受け入れるのか排除するのか、そんな小さな葛藤が生まれます。それは普段日常生活で起こり得るような小さなもの。けして「小説的」ではなく、どこにでもあるような葛藤、決断の場面だったりします。

人が生きている中で、他人と関わらない場面はありません。「自分一人で」生きているような人だって、他人が作ったものを消費し、他人と言葉を交わし、他人に影響を与えられながら生きているのです。そんな中で、自分とは異なる人間である他人とのやり取りの中生じる「違和感」は誰にも起こります。自分なりに解決(違和感の払しょく)するのか、時間の経過に任せるのか、それは違和感のレベルや、その時自分がどのような環境で生きているのか、つまり余裕の度合いによっても変わるでしょう。

こんな日常が小説になるなんて、しかも飽きることなく読めるような「作品」になるなんて、改めて著者の筆力の素晴らしさを感じます。多分、本書の各短編は、しばらくすると自分の記憶からはずれていまうかもしれない。でもそれは、うすっぺらい内容だったから、ではなくて、あまりにも「日常」だったから、です。読後感も正直あまり深いものはないのですが、けして「くちあたり」の悪いものではないのです。

10の短編のうち、いつくかは「外国」が舞台になっています。登場人物も外国人がいます。これが後押ししているのかもしれませんが、とてもセンスのよい「おしゃれ」な読後感を持つ。自分には「おしゃれ」は不向きですが、でも押しつけがましいものではなく、心地よいのです。
どちらかと言えば著者の場合は「長編」の方が個人的には好きなのですが、たまにはこんな短編もいいなあ、と思える一冊。


【ことば】たとえばある日、突然、それまでなにげなく見過ごしていた「やぶさめ」という儀式が気になりだす。理由はわからないが猛烈に気になる。仕方がないのでやぶさめについて調べ...気がつくと『YABUSAME!!』とい題する小説を書いていた。

タイトル作の主人公の行動。著者自身が同じなのかは不明ですが、確かにこういうことって起こる。きっとどこかに「理由」はあって、それを紐づけられないだけなんだろうけれど、それを「カタチ」にするってことも、そのために動くってことも大事なのかも。

異国のおじさんを伴う


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読書三昧
時折書房
 
 

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