2012/08/28

人生は「勝ち負け」のみか否か

武士道シックスティーン
武士道シックスティーン
  • 発売日: 2007/07

『武士道シックスティーン』誉田哲也
[17/152]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

「剣の道」をス「トイックなまでに極めようとする女子高生と、「楽しい」から剣道をしている女子高生。相反するタイプの二人が、お互いに意識しながら「勝つ」ことについての意味を考えるようになって...

正直、この手の「YA」本は、異次元だという先入観があり好んで読まなかったが、これは面白い。そこから何かを得ようとか、そういう「重い」心構えではなしに、楽しむために読むのならば、十分に楽しめる。

小さい頃からの剣道エリート、香織は、「切るか切られるか」という時代的な思想を持ち、一度不意に敗れた早苗に立ち向かう。一方早苗はまったく正反対でけして極めつけの強者ではないものの、天性の動きとその素直さから、腕を上げている剣士である。

高校の部活動という環境の中、香織は自分の自分だけの剣道を追い求めていることに気がつき始める。個人戦はともかく、団体戦という競技の一員として試合に臨むにあたり、「自分の理想像」がぐらつい始める。その中で、「友達」「仲間」「家族」という、自分以外の大切なものに気づいていく...という、こう書いてしまっては陳腐なストーリーのように思えてしまうが、これがなかなかエキサイティングである。

「勝つか負けるか」という価値観だけで剣の道を進んできた香織が見出した方向性。「揺らぐ」ことも時には必要なのかもしれないなあ、という気持ちになる。高校生の年代に限る話ではなく、人生は「勝ち負け」のみであるという考えの元、「勝つ」ために行動している人もいるし、そうではなくもっと高みを目指して結果「勝つ」という人もいる。どちらが正解か、なんてわからない。

「勝ち負けだけじゃない」と言ってしまうのは、勝負をしていない段階では「逃げ」の言葉にもなってしまう。「勝つための」真剣勝負を経験してこそ、この言葉に重みがでてくるのではないかとも思う。
生きていく中で、この先も必ずぶつかる壁であろう。「負ける」ためにやることはない。でも負けたときに「次」を目指して顔をあげることこそが、負ける意味であり、やっぱり「勝ち」にこだわる姿勢が大切ではないかと思う。
 
誉田さんの本はこれが初めて。作者にしてみればそれまでの作品とは異質であるとのことだが、続編も出ているようだし、このシリーズを続けて読んでみたいと思う。

【ことば】...一つだけ、それに打ち勝つ方法を、見つけたんだ...それが好きだっていう気持ちを、自分の中に確かめるんだよ。その好きだって気持ちと、勝負の不安を天秤にかけるんだ...好きだって気持ちの方が重たかったら...そのときはもう、やるしかないんだよ。

そのことに全精力を傾けられるかどうか。これがポイントのような気がする。好きだって気持ち、不安、そしてもうひとつ、自分の環境、これもバランスの中に入れて考えることが、肝要だと思う。

武士道シックスティーン


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詩になるもの
奇想庵


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