- ヤッさん
- 発売日: 2009/10/28
『ヤッさん』原宏一
[10/145]Library
Amazon ★★★★★
K-amazon ★★★★☆
主人公は、会社勤めがこなせなかったホームレスの若者。同じくホームレスの「ヤッさん」に弟子入りすることになるが、「ヤッさん」はただのホームレスではなかった...
「喰うに困らない」ホームレスなのである。市場の仲買人とレストランの料理家を「情報」で結ぶ役目を担い、その報酬としての賄いで生活する。極めて「小説的」で現実味が薄い展開ではあるが、ヤッさんの「美食家」ぶり、食材料理に対する思い入れの強さがにじみ出てくる。
過去を語らず、「プライドを持ったホームレス」として生きる師匠についた主人公「タカ」は、次第にヤッさんの魅力に引き込まれ、意識も考え方、生き方も師匠についていくように。
彼らの位置づけが「ホームレス」であるだけであって、実質は「プロの仕事術」のようなものだ。互いに必要としている情報や、人とのネットワークをつなげるという、実は重要な「仕事」をしている彼らは、「報酬」としての現金をもらわないだけで(報酬は「賄い」である)立派な「仕事」といえる。ヤッさんが弟子に対して「ホームレスとして矜持を持たねばならぬ」といったセリフが、当初は「小説的」であったが、読み進むにつれ、本当の意味が伝わってくる。
このコンビに、蕎麦職人になりたくて家出した少女が加わり、いくつかの事件が起こるたびに、ヤッさんたちが活躍する。そもそもが読みモノとして非常に面白いし、ヤッさんが計画する「解決策」がナゾトキのような楽しさもある。過去を語らないヤッさんのミステリアスな部分、勢いのある「師匠」ぶりも、口は悪いけれども実は良い人かも、といった暖かさも感じる。
ストーリー的にしょうがないのだけれど、ヤッさんの過去や優しさが出てくるようになって、出だしの頃の「悪態」が減ってくるのが、後半の盛り上がりに不足が生じるところでしょうか。人を寄せ付けないほどの強烈なキャラクターが段々と薄れてしまうのが、少し残念に感じたり。
「ホームレス」という言葉とはマギャクのイメージがありますが、彼らはプロフェッショナルです。そのギャップが面白い。そして自分の報酬のために動いていない、人のために動いている、という姿勢が変わらないのが素敵です。
仕事はお金だけではなくて...云々といったビジネス書は多数ありますが、「架空の」話ではあるものの、そのメッセージを強化してくれる本書です。お金が不要なわけではありませんが、順序の問題かもしれませんね。人のために活動することが先にきて、その人が喜ぶ、満足することで対価を得られる。お金、情報、食事、時間...満足するポイントは結構あるんです。
【ことば】いまどきは腕の立つやつより弁の立つやつのほうがでけえツラしてやがる世の中だが、おれに言わせりゃとんでもねえ話だ。
弁の立つ人間が悪い、ということではなく、彼らは「腕の立つ人間」に敬意を払うべきだという話だ。腕の立つ人間は、常に自分の「腕」を信じ、磨き続ければよい。「弁」が起こす雑音を気にすることはないのだ。自分を高めていくこと、プロであることが必要だ。
ヤッさん
>>本書の感想文、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね <<
小野塚 輝の『感動仕入れ!』日記
ナナメモ
0 件のコメント:
コメントを投稿