2011/10/28

コンセプトは○です。基本は「人」。

スロー・ビジネス宣言! (日経ビジネス人文庫)
スロー・ビジネス宣言! (日経ビジネス人文庫)
  • 発売日: 2005/01

『スロービジネス宣言!』阪本啓一
[14/187]Bookstore
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

「スロー」といっても、著者が意図しているのは、「ゆるい」「のろい」ということではなく、「ほんもの」とう意味合いです。また、突発的な花火ではなくて、息の長いビジネスを、という意味でもあります。
この単語の響きがいいかどうかはわかりませんが、「目先」だけではなくて、「先を見て」という意味として、解釈しました。一時的なヒットも大事だし、当面の数字も大事ですが、永く続いて行くモデルを作り上げてこそ「ビジネス」である、という著者の主張は本質的だと感じます。そのために必要なものは、個人の資質、商品の力、企業の考え方、この3つをあげています。こう書いてみると「当たり前」のように感じますが、短期的な直接的な結果を求めるあまり、「白か黒か」を明確に出せるようなこと、すなわち永続性がそもそもないようなビジネスをしている場面は、実は少なくありません。よくあるビジネス本の主張である「見える化」「数値化」というものを近視眼的にとらえるからでしょうか。直接的に数字に結びつかないものは「悪」とされることもあります。これをしたら「間接的に」プラスになる、ということが遂行しにくいこともあります。
短期を軸に考えると、今月どういう結果を出すか、今週は、今日は...という方向で物事を進めていくと、そのスパイラルから抜け出せなくなります。一年中、さらには一生おんなじことの繰り返し、という状況になってしまうかもしれません。そこに個人のレベルアップは生まれるのか、疑問ですよね。こんなサイクルでは、企業という枠にとらわれた「機械」になってしまいそうです。
本書は、そのような(結構どこにでもあるような)ビジネススタイルが、スロー=ほんものではない、という内容です。時代の流れは既に、そのようなスタイルが対応できないものに変わりつつあります。いや、もう変わっているのかもしれません。外的要因、あるいは内的な努力によってであっても、「ヒット」が出ると、その一時期の「よかった」空気にならされてしまい、そこから脱することができず、もはやその「ヒット」が通用しなくなっても、そのマインドが抜けきらずに「落伍」してしまうケース、結構ありますよねー。そうはなりたくない、すくなくとも、そのような環境に置かれていたとしても、自分は「スロー」スタイルを貫くべき。自分が「スロー」であれば、それを活かして貢献する場は、あるはずですからね。フィールドに合わせるのではなくて、(「ほんもの」である)自分に合わせた場を選ぶ、これでいかないと、これからは、ね。

【ことば】...コンサルタントが著作で「ビジネスとは...『キャッシュを生み出すマシン』である」と言っているのを読み、じんましんができるくらい違和感を持った...生活者・顧客の生活の質をあげること、ではないか。

ビジネスの本質だと考えます。何を提供して対価を得るのか。その提供するものは、それによって「質」をあげるものでなければならないんです。これってメチャ大事なポイントです。生活を豊かにする、という大枠ではない。お金を儲けて豊かにする、ではなくて、「質」をあげること、これだね。

スロー・ビジネス宣言! (日経ビジネス人文庫)

【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね


partsの工房日記
「30にして立つ」

2011/10/27

夕焼けが見える。温かさに包まれる

夕映え天使 (新潮文庫)
夕映え天使 (新潮文庫)
  • 発売日: 2011/06/26

『夕映え天使』浅田次郎③
[13/186]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

浅田さんの短編を読むのは初めて?かもしれない。それにしても、深い。味わい深いのである。何かしら「後ろ」を持っている人物。大人の事情なのか、時代の象徴なのか、「何か」を引きずりながら、それを超えて生きている人々。そんな人物がある種の「人間臭い」部分を持ちながら行動する。そこにドラマがあるのだけれど、必ずしも「解決」して物語が終わるわけではない。ハッピーエンドもなければ、どんでん返しがあるわけでもない(ひとつだけ、想定外の「大」どんでん返しがありますが)。そこは「小説」なのだが、考えてみれば、現実の人生だって、何か明確な「最終回」で区切られているわけではない。小説の世界でそれをいってはいけないのかもしれないけれど、人生に起こることすべてが「言葉」にできるわけではなくて、言葉ではない人間関係、環境、気持ち、思い、そんなものが交錯するのが、すなわち生きることであったりする。なので、この本の中の物語も、読み手がそれぞれの結末を作り上げればいいし、そもそもそんな「まとめ」なんて不要だったりするかもしれない。
個人的には、これまで読んだ本の中で一番は、著者の『天国までの百マイル』であって、それ以外の作品も楽しく読んでいるファンである。短編もこれだけ「浅田さんの世界」が堪能できるとは...プロですねー。
さびれた中華屋に住み込みで働きたいと現れた素性を知れぬ女性、旅先で時効直前の犯人に遭遇した警察官、学生たちと、そこに現れた神秘的な女性との出会い...「事情」を持つ人々は、その場面に現れて、そして去っていきます。現れた背景も、さっていく理由も、深くは描かれていませんが、そんな人たちが出会って、話をして、別れていく中で、ドラマが、人間ドラマが生じている。その人物たちが動くシーンが、ありありと想像できる文の流れに、いつのまにか引き込まれていく自分がいます。そして背景は「夕映え」。
こーゆー「わけあり」の人物が動く小説って、「小説の世界」として読み物として非常に面白いですね。でも考えてみれば、そこに踏みこまないだけで、実際の世界もそんなに離れていることではないのかもしれない。程度はどうあれ、人ぞれぞれ「事情」を持っているし。それらを(必要ならば)受け入れて、その上で共に時間を過ごす。人間関係ってそんなもんかもしれない。人と人をつなぐものが、うまく言葉にはできない「気」だったり「思い」だったりする。「金」でないことだけは確か、ですね。

【ことば】俺たちが五千年の歴史と信じている人類の時間も、実はその途中で起こった同じ現象の、一瞬の出来事なのだろう。

本書の中でも異色の短編『特別な一日』のラストシーン。これ、 SF=ファンタジーとして、傑作だと思います。この一編を読むだけでも十分な価値あり。日常と幻想の間にあります。

夕映え天使 (新潮文庫)

【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね


どくしょ。るーむ。
Aromatic Gardens

2011/10/25

遠い...遠い世界です。哲学って

人生をやり直すための哲学 (PHP新書)
人生をやり直すための哲学 (PHP新書)
  • 発売日: 2011/02

『人生をやり直すための哲学』小川仁志
[12/185]bk1
Amazon ★★★★★
K-amazon ★★☆☆☆

タイトルはいいですねー。やり直したい、そんな気持ちにもなるもんです、40代って。「不惑」ってやっかいですね。その真っ只中にいるんですけれども、「惑い」が生じるのがこの年代なんだろうと実感、故に「惑い」が生じても強く生きていこう、という意味合いなのだと解釈します。
哲学者、たる著者が、この年代に向けて、これまでの哲学の考え方をベースに、「お悩み解決」を披露してくれる内容です。日常の悩み、仕事、夫婦、社会、生きることそのもの、これらに対して哲学者の考えを用いながら、「どう考えるのか」というヒントを与えてくれています。人間とはなにか、人生とはなにか、という「哲学」ですね。哲学者の言っている内容と、日常にはかい離が大きいと感じていて、露ほども参考にしようという考えは浮かびませんでしたが、こういう解釈をすれば役立つ、っていうイメージです。
しかしながら、そもそも哲学者の言葉、というものの「和訳」に問題があるんじゃ、って思うほど、読みにくい。著者は極力「一般的」に、分かりやすく説明してくれているものと思われますが、やっぱり「遠い」んですね。言葉がそのまま入ってこない。高尚すぎて近づけないなあ、っていう印象は残念ながら、読む前と変わりませんでした...
心と体、これをどうとらえるかで、「一元論」「二元論」という議論があるようですが、個人的には「一元論」を支持します。心がすさむと、体が動かなくなる。これを実感する場面も最近はありますから...
難しいことはとりあえずいいや。大事なことは、「自分を見直す」「前向きに生きる」ということだと認識します。この世に生を受けて、またこの世に生を生み出した人として、何をなすべきか、何を残す(あるいは残さない)べきか。「哲学的」に考えずに、素直に、自分の「心」に聞いてみることにする。
「心が弱くなったときに読んで」というメッセージが冒頭にある。著者が、そういう環境に包まれた人たちに向けて、「心が張り裂けそうになったときの相手」として著した本書です。哲学者の言葉に包まれて、見えてくるものは...いずれにしたって、「行動」を起こすのは自分。読書は行動を起こすきっかけにすぎない。ならば行動せねば、だね。

【ことば】...生きるということが、自分という生き物を育てることだと気づいている人は少ないのです...大切なのは、自分の身体をもっと意識することでしょう...そしてもう一つ大事なことは、心も一緒だということです。

「残り時間」が妙に気になってくる年代。心を身体をムリヤリ動かすのは、、もうやめよう。そしてムリヤリ「動かされる」のは、今すぐやめよう。そんなムリのために生まれてきたわけじゃない。生きていくわけじゃない。

人生をやり直すための哲学 (PHP新書)

【書評家のご意見】
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つれづれ日記 
Maggot Brain Diary

2011/10/21

久しぶりに「面白い」と思える小説に出会った。

まほろ駅前多田便利軒
まほろ駅前多田便利軒
  • 発売日: 2006/03

『まほろ駅前多田便利軒』三浦しをん②
[11/184]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

まほろ駅前で、便利屋を営む主人公多田と、偶然に出会った元クラスメート行天との「個性的な」二人が出くわす事件。「便利屋」という時点ですでに「小説的」で、事件の発生を暗示させるものであるが、主人公の二人のキャラの「濃さ」の方が印象的です。最後には明かされますが、「過去」を引きずる多田、多田が「主犯格」として学生時代に起こした事件の相手である行天。「暗い」部分を持った人間が、便利屋稼業を遂行していく中で出会う「クセのある」人物たち...
「小説的」ですねー。現実とはかけ離れたドラマの世界。もちろんそこを受け入れたうえで、読めるんですね、非常に楽しくワクワクしながら読めます。その世界の中でうごいている人たちの「人間臭い」部分、主役以外も際立っています。続きが気になって読み続ける、なんていう体験を「小説」で実感したのって、久しぶりのような気がします。
発端は、「居場所」を失った行天と、主人公が出会うところから、ですが、便利屋という仕事をしている多田においても、実は「居場所」があるようなないような状態であって...水商売の女性や、10代のヤクザ、親に愛されない(と感じている)子ども、「居場所」を探している、探しながら生きている人たちが登場します。その中で、主人公はこれまで捨てきれずにいた「過去」を受け入れ、乗り越えられるような心情に移っていく。居場所を見つけにいくような準備が整いつつあるような状態まで「帰って」きます。
特に「心の病」って、時間が解決する、っていう簡単なものじゃなくて、やっぱり残るもの。それを「忘れようとする」のか「受け入れる」のか。受け入れたうえで、次に進んだ方がいい。多分完全に捨て去ることはできないのだから。妥協ではなくて、「次」の一歩を踏み出すために受け入れること、簡単ではないけれども、そう考えるべきかと思う。 どんなに苦い経験であっても、それは「今の自分」を構成している一部であるのだから...
まあ、こんな読み方をする必要もなく、シンプルに「娯楽」として読めば十分に楽しめると思います。著者の本は2冊目ですが、小説は初めて。軽快で、「続きが気になる」気持ちにさせてくれるスタイルはひきつけられます。多分、これから何冊か読んでいくことになるかと...本作のDVDは、見ないと思います。今読後のイメージのままでとどめておきます。

【ことば】不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはないと思う。どこで踏みとどまるかは北村クンが決めることだ。

主人公多田も、行天も、「内側」に問題を抱えている依頼者(あるいはその関係者)に対して、本質的な「言葉」を投げています。堅苦しくなく、嫌味でなく。この「ことば」を意識しながら読み進めるのも、面白い。

まほろ駅前多田便利軒 【書評家のご意見】
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映画な日々。読書な日々。
やおよろず書評



2011/10/19

今、必要な本でした。運命的な「出会い」かも。

適応上手 (角川oneテーマ21)
適応上手 (角川oneテーマ21)
  • 発売日: 2004/07

『適応上手』永井明
[10/183]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★★

「元」医者の著者が、人間としての生き方を教えてくれる、そんな内容です。よくも悪くも「ストレス」に囲まれている社会の中で生きていかねばならない、そんなときにそのストレスにどう対処していくのか。度々警告を発しているのが、「過剰適応していないか?」という指摘です。気がついたら、社会の中で、或いは会社の中で、家庭の中で、「縛られて」いることはないだろうか?現代の、そして都会の「スピード」に適応していくことが、ホントに100%の「善」なのか?そこにいる個人としての自分は、ハッピーなのだろうか?ということを深く深く考えさせられます。
不本意な気持ちを持ち、それでも会社、或いは社会という「外部」の都合に合わせようとする。その中で「適応」していくのにどうしたらよいのか、というのが、いわゆる「ビジネス本」に書かれているような、世渡り術。仮にこれを完璧に身につけ、お金、名声、立場...欲しているものが手に入ったらそれが「幸せ」なんだろうか?そもそも、それらを「欲している」というのは、自分が、自分の中から純粋に湧きあがってきた望みであるのか?もしかしたら、「外部」の価値観に基づいて作り上げたものかもしれない。
確かにお金はあった方がいいし、いつまでも若くいたい、という願望はある。もちろんね。でも、それを得るために、カラダをココロを酷使するのは、はたしてどうなんでしょ?数年先にそれらが得られたとして、それまでの時間は(無駄ではないけれども)もはや取り返すことのできないものでもあるわけで。一攫千金がいい、という話ではなく、「相応の」というやや曖昧なフレーズになってしまうが、「適度」は人それぞれ、あるんだと思う。お金も大切だけれども、時間、そして「今、この時間」はもっと大切なのかもしれない。
もちろん未来の「時間」も大切だろうが、見えない未来に向かって準備する、「過剰に」準備することがどれほど大事なのか。そのために失う「今」の方が、損失が大きい場合もある。そんなことをホントーに心底考えさせられる。
能天気に生きる、ということではない。「今」を一所懸命生きる、ということが大事であり、自分の「心を満たす」ポイントを見失わないようにすることが何よりも大切だ、ってこと。「投資」ももちろん必要、でもしれは何に向かって行動を起こすかってことを間違ってはいけない。自分の、自分だけのポイントはしっかりを持ち続けるってことだ。
ストレスも、プライドも、そこに向かって進むために持てばいい。それ以外は「過剰」であり、背負うものが多すぎれば、本来の目的地に歩む速度が遅くなるのは当然。適度な重みを感じながら、着実に前に進む。これがいい。


そして...著者がこの本が出たころに、亡くなっていたことを知った。運命的なメッセージなのか...答えは、自分自身のこれからの行動で出そう。


【ことば】自分が生きる上で、「利益」ということはさほど重要ではない。儲かる儲からない以前に、企業が目指すものとぼくのそれとは、大きく異なっている。また、別の面でも個人が生きる方法論と、企業のそれとは異なっている。

なんで今まで気がつかなかったのか、不思議なくらい。そう、異なっているんだよね。あたりまえなんだけど。どちらを優先して生きていくのか、そんなのことばにする前に明らかだ。明らかだから、その方向に進めばいい。今からだって方向は変えられるのだ。

適応上手 (角川oneテーマ21)

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らっぱぴょんの読書日記 
Pooh's Books

2011/10/18

素朴な展開に入り込んでしまっていた。

陰日向に咲く
陰日向に咲く
  • 発売日: 2006/01

『陰日向に咲く』劇団ひとり
[9/182]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

話題になってから随分経ってしまいましたが...著者のことはテレビで見かけるくらいで、そのパフォーマンスも、キャラクターもあんまり知りません。テレビに出ている人だから、お笑い系(?)だから、そのギャップを以て、評価が高いのかと思いましたが...
面白いです。淡々とした文調ですが、ストーリー展開の早さも、登場人物の魅力も、そしてその「つながり」も、読んでいくうちにどんどんハマっていく自分がいます。ホームレスに憧れる男、アイドルのおっかけ、悪者になりきれないギャンブル狂...世間一般の「勝ち組」や、そのためのセオリーからは少し外れた主人公たち。その「特殊な」世界に入り込みきれない人間性、そう、人間っぽいんですね、主人公が。
特殊な環境であって、少なくとも自分の経験した世界ではないし、周りで起こっていることでもない。でもなぜだか「近さ」を感じられるんだよなあ。通常ではない場面で通常ではない気持ちになって行動してしまうキャラクターたち。なんとなく理屈は付けられないけれど、感情移入できてしまう。著者が心理学的にどうこう、ということはないのだろうけれど、人間心理の描写が「入って」きます。たとえばギャンブルで借金を増やしていく男の話。競馬で「返済」を目論むけれど、「引き際」が実行できずに、勝手に思い込んだ理論でますます額を増やしてしまう...とか、最後の手段として「オレオレ詐欺」を試みるけれども、実際の老婆に感情が移ってしまいがちになるとか。どこかに「人間」が隠れていて、それが少しずつ顔をだしているようなイメージです。
人間の弱いところの描き方がとてもリアルに描かれているのですが、そもそも「弱い」ということが、そのヒトの本質であったり、もっといえば、「弱い」ということが「非」ではないのかもしれません。実は自分はこういう人間であって...というのが、「非日常」の行動の中から表面化されてくる、というか。
泣けるような話ではありません。ありませんが、全部読み終わった後に、タイトルを見返すと、その「深さ」に感じいる、「あー」と思っちゃいますね。
プロの芸人である故(?)「オチ」のうまさはさすがです。が、その「オチ」だけではなくて、ストーリー展開も含めて、「楽しめる」内容。芸人の書いた「タレント本」ではないですね。一読の価値、十分あります。

【ことば】それに、俺は返そうと思っている。今は金がないから、少しの間、婆さんに少し借りるだけ...毎日電話で話しているうちに婆さんの温かい人柄に情が湧いた。

「オレオレ詐欺」実行中の心情の描写。「返そうと思っている」と自分に言い訳、理由を作っているが、主人公の「本当の人柄」が表れている部分。もちろん、それを実行しようと行動し始めた時点で「悪」なんだけど、それになりきれない、そんなキャラクターも持ち合わせている「人間」が、リアルに感じられる部分ですね。

陰日向に咲く

【書評家のご意見】
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きつねの感想日記 
まったり読書日記

2011/10/17

教育...今もっとも関心の深い分野です。


『目からウロコの教育を考えるヒント』清水義範③
[8/181]
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

教育大学を出て、教員免許もお持ちの著者。アルバイトで塾講師をした以外には、「教育の場」に携わったことはないそうですが、経歴からも、またその著作にも「学校」「試験」を”パスティーシュ”した小説も多いことから、教育「論」の場面に引っ張り出されることも多いようです。学校の教員の経験がなく、またご自身のお子様もおられない環境ですが、「教育」に関する思いが非常に強いイメージを感じ取りました。それは日本の教育、とかいうデカいテーマのみならず、「子どもの目線で話す」「教育とは、常に変化するもので、問題があればそれをもとに改良していくもの」という考え方に現れています。
度々小説のネタにもされていますが、国語教育の違和感、著者の言い方からすれば、「道徳」が入り込んでいる、という内容に、自分も違和感を感じました。つまり、文学作品の一部を切り抜いて、その背景も理解する場を与えないままに、「作者はこういうことをいいたかったんだ」という「正解」を導きだす。「ヒトに親切にするのはいいことです」的な、道徳観を「解答」することを、正とする。言われてみれば...確かに、国語の教育においては、(道徳感が全くないというのも問題だが)、重きを置くのは、その表現の仕方であったり、大事なことを「どのような形で」伝えようとしているか、という方であろう。「作者がもっとも言いたかったことを選べ」的な設問では、それは生まれてこないよね。これでは「本を読む」ことと「国語のテストでいい点を取る」ことの距離は離れてしまうだろうなあ。
教育にたずさわる方々、つまり「大人」が、自らが「子ども」であったことを忘れてしまっているような...このところを作者が一番危惧されているようです。「最近の子どもは勉強ができなくなっている(しなくなっている)」のは、ゆとり教育のせいでもなく、「大人」が伝え方を間違っているから、なのかもしれない。何のために勉強するのか、勉強するとどうなるのか、正しく伝えられているだろうか。自分たちの世代とはまったく異なる世界観がこれから支配することになる。知識を詰め込むのが第一であった受験時代の勉強法は、これからは意味が薄れるだろう。知識をどのように「使う」のか、という点が大事なんだろうなあ。だから、社会の変化、というファクターも正しく受け入れて、理解したうえで、子どもの教育に当たるべきなんだろうと思う。
親と子は別人格。でも、自分の修正版を作ろうと考えていませんか?...ドキっとする指摘でした。特に「男の子」には、自分を重ねてしまう。自分ができたことがなぜできないのか。自分ができないこともできるようになれ。そんな気持ちがどこかにあるかもしれない。ある。あるんだなあ。でも、別の人格だし、生きていく環境も、そこで求められる資質も当然に違うわけで。あー、これまさに「目からウロコ」だわ。
学校、教育委員会、文部科学省...よくわからないし、わかりたいとも思わない。けれど自分の子どもや、なんらかで接する子どもへの「教育」(子ども、だけではないかもしれない)について、考える大きなヒントになった。もう10年前の本だけど、今、読んでヒントを得れば、全然遅くないです。

【ことば】...親たちが、ちゃんと自分に満足し、自信を持って生きているのかどうか...今の日本人は、ちゃんと幸福感を持って生きているのかどうかが問題なんです。

「幸福感」は人それぞれであって、それがお金のヒトもいれば、違うヒトもいる。自分なりの「幸せ」を見つけて、あるいはそれを迷わず追い求めること。これが、大人を「いい顔」にさせる要素であるし、さらには、子どもの教育にもかかわってくる。大人が「いい顔」をしているのが、子どもにとって一番、だもんね。

目からウロコの教育を考えるヒント (講談社文庫)

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holicなイチニチ
珍念のひとりごと

2011/10/14

真贋...本物か偽物か。それは同一の事物にも両面存在する。

真贋 (講談社文庫)
真贋 (講談社文庫)
  • 発売日: 2011/07/15

『真贋』吉本隆明
[7/180]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

初めて著者の本を読む。勝手な先入観=「難解」を持っていたが、著者自身の人生経験から得た「考え方」を易しく伝えてくれている内容。「真贋」=ほんものとにせもの。または、ほんものかにせものかということ。なんとなく、本書の中からは、同一の事物であっても、それを見る視点によって、あるいはそれに接するヒトの環境によって、「真」もあれば「贋」もある、というようなことかと思う。
自らの「作家」という例や、編集者という例もあげながら、ひとつの「職業」を取り上げ立って、いい面も悪い面もある(「悪い方は「毒」という表現を使っている。文学的...)。
世代的には、戦争の経験がある年代だし、本文にでてくる他の作家の方々も、太宰治とか三島由紀夫とか、自分らの世代としてはリアル感があまりない名前。でも、それだけ多くの方と接して、多くの経験を重ねて、そして文字で表現するというプロの、肩の力を抜いた感じの「エッセイ」(と呼べるのかわからんが)は、時代背景が多少異なろうと、すんなりと読めるものです。
本書の中に、大学教授の破廉恥事件とか、政治家のスキャンダル辞任についても触れられていますが、著者の見方として、その本業と、人間的な落ち度を並列に見ていいのか、という視点があります。「事件」の程度にもよりますが、政治家は「公」に対するマツリゴトを成し遂げるヒトであって、その能力に期待して、有権者は選ぶわけですから、女性問題や、過去のエラーを以て、辞任に追い込む、という、ここ数年の傾向に疑問を持たれています。これには同意します。その「エラー」を血眼になって捜すメディアの皆さまには、さらに疑問を感じています。それが「公」のために役立っているんでしょうかね?少し考えれば分かることだし、ウエからの指示でも、記者になる動機がそれでなかったならば、本来のものを追い求める行動をすればいい...個人的な考えですけど。
著者は、「人間の根幹をなす性格というものは、幼少期から思春期までで確定される」と考えます。それ以降、大人になって「自分を変える」努力はもちろん大事なアクションですが、そもそも根底的なものはそれ以前に出来上がっていると。違う視点から見れば、子どもの教育に関するもっとも重要なポイントであるかもしれません。自分に照らしてみれば、自覚はなくとも(薄れていつつも)、「そのころ」の状態が今も少なからず残存している気がします。
もう1点、日本社会の人間関係に関して、「会社での肩書」がすべてのキーになっている点について注意喚起されています。すなわち、管理職だから人間的にも優れている、故に、会社を離れた場所においても、「肩書き」にしたがった序列はそのまま維持される...これに関しては慣習的なところもあるし、また、おそらく「会社」或いは「肩書き」のステイタス自身が衰弱していくのは間違いないので、変わってくるとは思いますが...いずれにしても、人間的な魅力そのものよりも、肩書きが優先されている、というのは、なんとなくわかります。その違和感も分かります。本当に尊敬できる「人間」である場合しか、本心からの「敬い」は発生しませんけどね。「肩書き」にヘイコラしていても、舌を出しているのが事実で、それならば、オープンでいいんじゃね?と思いますね、確かに。
高名な大家の本、初めて読みましたけれど、ことばの重みも含めて、自分にプラスになるものが多いです。ことばの力、ってやはりすごいね。


【ことば】...人間はたとえ金銭的に恵まれて、何不自由のない生活ができるようになっても、それだけでは精神的にすまないものです。

作家がなぜモノを書くのか、という点で触れられたことばです。お金は大事。けれどもお金がすべてではない。お金「だけ」を追っかけると、追いつくときもあるけれども逃げれるときもある。気持ちよく歩いて行く途中で、もっと先に歩いて行けるお金が得られたら、それでいいのかもしれない。

真贋 (講談社文庫)

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ヒデヨシ映画日記
ぐうたら読書日記

2011/10/13

必要なのは「自立」

大震災の後で人生について語るということ
大震災の後で人生について語るということ
  • 発売日: 2011/07/30

『大震災の後で人生について語るということ』橘玲
[6/179]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

経済小説作家?という著者の本のイメージは、資産運用とか投資とか、そういう印象を持っていて、経論」めいたところもあるのではないかと期待を持って...
やはり中心は「経済」でした。金利とか為替とか、「その世界」の話なんですが、その根底にあるものは、震災を通じて身を持って感じている不安感、閉そく感、それらを乗り越えていくためには、誰にも頼ることなく(ましてや国、起業に)、自立することが肝要であること、それらのベースになるものが、「経済的な」自立であることを、本書の軸である、と捉えました。
それらは、前から言われていたことでもあります。国の財政状態や労働市場の変化についても、詳しくは分からないにしても、伝わってくるものは当然にありました。が、それが「震災」という大きな出来事をきっかけにして、「もはやまったなし」状態にまで迫ってきている、というわけです。
身につまされるものがあります。守るべきものがある以上、「経済」という基盤は軽視するわけにはいきません、当然。しかしながら残された時間(それほど多くはないです)に、自分はどういう生き方をするのか、それを考えるきっかけになります。これは、国債を買うとか、金を所有するとか、株式投資を始めるとか、そういったことの「前」の問題であって、世の中が、或いは自分の属する国が、これまでのように「全面的に」信用するに値するものかどうか、慎重に見極める必要がある、ということ。そしてこれからは、所与のものをどうこうする、という流れから、それらをどう「利用」するか、というのがポイントになる、ということ。
もうひとつは、そんな流れの世の中で、誰のために何を作っていくのか、これが最も重い、そして必須で考えるべき事項です。自分の存在、という大きな点にもつながること。「金がなくたって」というのは現実的ではない。重要なのは、その金が誰から、どのような流れで自分に託されたか、ということでしょう。「見えない」商いをしていても実現できないことです。得られた資金を、自分(の目的)にあった、スキームで運用すること。そして幸せになること。この基準は人それぞれでいい。
この新しいスキームに乗り、ストレスを軽減してゴールに向かうための条件。「知識」と「人脈」だと考えます。本書では「金融資本」と「人的資本」と表現されています。
年金だってどうなるかどうかわからない。でもそれを決めるセンセたちのマインドは何も変わらない。だったら、自分で生きていくしかない。
「新しい設計図」を手に入れよう、自ら書こう。

【ことば】...私たちは一人ひとりの金融資本と人的資本だけを頼りに、グローバルな市場経済と孤独に相対することを余儀なくされています。

国が企業が守ってくれる、という幻想はもはや持ちえない。必要なのは自分であり、超えていくのは孤独なのかもしれない。幼稚なことのようだが、「正しいこと」を実直に進行すること、これがコアになっていくんだと確信する。
大震災の後で人生について語るということ
【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね



ゆとりCFOのブログ

FF日記

2011/10/10

かっこいい「生き方」がここにある。

志高く 孫正義正伝 完全版 (実業之日本社文庫)
志高く 孫正義正伝 完全版 (実業之日本社文庫)
  • 発売日: 2010/12/04

『志高く 孫正義正伝』井上篤夫
[5/178]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★★

携帯電話事業参入、Yahoo!Japan、プロ野球...ここ数年で「ソフトバンク」って名前が急激に露出が増えて、孫さんの露出もそれに伴って増えている。増えているけれども、そもそもソフトバンクって?孫さんってどういう人なんだろうか?ってあんまり知りませんでした。同じように「急激に露出した」ホリエモンとの違いってなんだろう...本書を読む限りでは、「インターネットによる情報革命」という展開を軸としている点では変わりありません。孫さんが、事業展開を「革命のための社会インフラ」を整備するため、としているのと、もう一方が「金もうけ」によるものとの違いでしょうかね。ただ、孫さんにも「金もうけ」の意図があるだろうし、堀江さんにも「インフラ=社会貢献」の側面はあったかと思います。あとはもう、彼らが持っている「人としての」見られ方、という点になるのかもしれません(「情報」「インターネット」とは対極にある要素かもしれませんけれど)。
一気に名をあげたソフトバンク。その中心人物・孫正義氏の、高校中退からアメリカ留学、そこで目覚めたビジネス感覚、そして従来のビジネス常識を打ち破るスピード感を持った拡大展開...多くは孫さんの「ヒト」の部分にスポットが当てられています。ビジネスでの展開(たとえば買収や撤退)については淡々と事実を記載。それゆえに、歴史上の人物を書いた「伝記」のような感覚になります。400ページに迫る「分厚さ」ですが、その人物が魅力的であることが伝わってくるので、短時間で読めちゃうほど。
そんな文章的な展開も手伝いますが、本質は、孫正義氏に備わった魅力、なのだと思います。事業を実行すること、「情報革命」を起こす側の一員となることにまったく迷いがないこと、成功したと思われる今でも先を見続けていること。特に「インターネットというインフラ」という点については軸がぶれていません。考えてみれば、携帯市場だって、NTT、KDDIという「巨大企業」と真っ向勝負をかけて「純増数トップ」という位置を獲得しています。数年前に数人で始めた会社が、という事実を改めて考えると、自分にもなんかできるんじゃないか、っていう気持ちが湧いてくる。孫さんは「才能」はもちろんだけど、「努力」と「信念」で進んでいる方なので、余計にそういう気もちをもらえます。
ご本人ではなくて、親交のある作家の方がフラットに書いているスタイルも、孫さんの魅力を伝えています。ソフトバンクの名前を目にしない日がない、そんな今、読んでみるとビビッドに伝わってくるものがある。

【ことば】たとえばリレー競技で、ビリでバトンを受け取ったときこそ「わくわくする」と孫は言う...必ず追い抜く...ついには一番になる。

孫さんはけして、「見せ場」としてこういう場面を想定しているのではありません。携帯電話事業がまさにこれに当てはまりますが、「相手が二十年かけてやってきている」ことを尊重しつつも、「ならば自分たちは十年で成し遂げなければ」と、「ビリで受け取る」ことを刺激にして、自分たちを奮い起こす原点に置きます。これが原動力であり、この気持ちを持ち続けることが、成長、拡大につながる。

志高く 孫正義正伝 完全版 (実業之日本社文庫)

【書評家のご意見】
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ファイヤー読書
ひとりごと
rami's blog


2011/10/09

「いきすぎ」なければ、いい話。

ボクの教科書はチラシだった (単行本)
ボクの教科書はチラシだった (単行本)
  • 発売日: 2010/04/20

『ボクの教科書はチラシだった』金子哲雄
[4/177]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

テレビなどでおなじみ、らしい「流通ジャーナリスト」の著者。幼少のころから「買い物」に目覚め、チラシ情報を駆使して「安く買う」ことに魅力を見出して「役に立っていた」という背景を元に、大人になってからは「社会」に対しても、「買い方」指南をしているような...小さいころは、「買い物のお釣りをおこずかいとして」もらっていた、ということだから、これはご両親の教育方針。これになんやかやいうつもりは毛頭ありませぬ。むしろ、自分の家庭でもなんらか流用できないか...というふうにも考える。「買い物」って子どもにとっては「冒険」だし、エキサイティングだしね。「お金」を覚えることには一番よい「実地」なのかもれない。
敢えて、なのだろうけれども、「流通ジャーナリスト」として現在活躍されている姿を知らない自分にとっては、「ちょっといきすぎ」な感もある。「ケチ」とは違うんだろうけれども、「安い」ことがすべて、ではもちろんないわけで...「安いには理由がある」とか「遠くの安いものor近くの高いものか」すなわち、見た目の価格だけではなくて、お金に換算できない(しない)価値、というものも当然ある。著者ももちろんそれを無視しているわけではないだろうし、やはり「敢えて」本のテーマとして徹底している、という理解で。
世の中は「お金」の存在抜きには語れない。「キレイ」「キタナイ」という表面的なことのみならず、お金の大切さ、使い方、流れ、といったものは子どもの教育に絶対に必要なものだと思う。学校では(なぜか)教えない部分だったりする(今も、多分)んだけど、入ってくるお金、出ていくお金、意識を持つ機会、きっかけは必要だろう。著者は、その「きっかけ」が買い物であって、それはご両親のお考えのもと、なんだろう。「1円でも安いもの」を探して、修学旅行で見つけた安い野菜を、旅行のお土産として買ってくる、という話あたりなど(もしかしたら「笑わせる」ための記述かもしれないけれど)、「あまりにも...」という感じはぬぐえませんが、本書の中からは、お金の大事さを、いつどこでどのように知ることが大事か、という点だけを吸収することにしましょう。著者が「流通ジャーナリスト」として現在も、その「延長」として、また「プロ」として活躍されていることに、敬意を表します。

【ことば】金(きん)以外にもうひとつ、いつでも、どこにでも持って行ける財産がある。それは教育だよ。

著者が小学生の時、社会科見学で出会った中華街でベンツに乗る「成功者」の話。最新の何かを買っても、時間の経過とともに価値が下がってしまうかもしれない。でも「教育」によって得られた知識、教養は、それがカラダにアタマに沁み込んだものであればあるほど、価値は下がることはない。シンプルだけど、結構大事なポイント。

ボクの教科書はチラシだった (単行本)

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やまかん日記
日々雑感

2011/10/07

正直、深く考えたことのない分野でした


『憲法力』大塚英司
[3/176]Library
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★☆☆☆

日本国憲法...政治家センセたちが「改憲」「護憲」といっているのを(たまに)耳にする程度で、個人レベルでは学生時代以来目にしたこともないフィールドである。第九条の解釈をめぐっての議論については、(不謹慎ですが)どうもフルメカシサを感じつつ...(といってなんらかの「考え」を持っているわけではない。「平和ボケ」ですね)
本書には、どちえらかといえば副題の「いかに政治のことばを取り戻すか」というフレーズに惹かれた。「たかが言葉、されど」というのは(政治に限らず)感じるところがあるので。それと改めて憲法(解釈)についての考えを見てみてもいいかなって。あまりにも無関心であったので。
著者は「護憲」の立場ではあるけれども、改憲を全面否定はしていない。ただ、「悪文だから」「押し付けだから」という理由の元に改憲することに疑問を持っている、という立場だ。護憲、というと「カタイ」イメージがあるけれども、結構フラットな視点である。本書の内容は「ことば」を副題に添えているだけあって、「ことば」を駆使した(?)難解な文書が多いです。序盤の柳田国男さんを引き合いにだされている箇所は、正直何を言っているのか、言おうとしているのか理解できずに過ぎてしまいました。まあ、これは自分の読解力不足として...終始一貫しているのは、改憲にしろ護憲にしろ、まずは憲法について考えてみましょう、という点。「押し付け」だから変えよう、といっているのに、改憲の草案を官僚に任せてしまったら、「押し付け」と変わらないじゃん、という明快な論理です。じゃあ、自分で書いてみましょうか、っていう活動をされているようでして、中学生高校生レベルから、それを実践しているようです。その内容云々よりは、やはり「考えてみること」の重要性が大事なのでしょう。「草案を書いてみる」なんていう発想は、まったく持っていませんでした。本書を読んで「じゃあ」という「気持ちにもなっていませんけれどね。
改憲ありき、ではなくてその前に、今の憲法の精神に則った行動をしていますか?憲法を理解して(しよとして)それを解釈したうえでの「改憲」論なんですか?っていうのテーマは明快です。突き刺さります。それは明快なんだけど、そこからの展開が妙にわかりにくくなってしまうのが難点かな...きっと極めてアタマのよい方で、コトバを使いこなすことができる方なんでしょうけれども、それができない自分レベルにとっては、ハードルが高い、それが印象に残ります。肝心の「憲法を考えよう」よりもそちらのほうが....

【ことば】...今の憲法を変える前に、もう少しこの憲法を徹底して生きた方がいい、とぼくは考える...

ここでのテーマはもちろん「憲法」ですが、この本質的な考え方はすべてに通じます。ヒトは「変わる」ことは消極的ですが「変える」ことには魅力を感じる点もある。何がよいか悪いか、という点とは離れたところで「リセット」ボタンを押すのは「楽」だから、なのかもしれません。その前にすることもあるし、そして「変える」という結論が出たのならば、早い方がいい。すべてにおいてそうですよね。

憲法力―いかに政治のことばを取り戻すか (角川oneテーマ21)

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Sound and Fury メルの本棚
ファミレスは僕の部屋

2011/10/05

俄然ヤル気が...

週末起業サバイバル (ちくま新書 811)
週末起業サバイバル (ちくま新書 811)
  • 発売日: 2009/10

『週末起業サバイバル』藤井孝一
[2/175]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

今や「会社に属する」ことが、すなわち安定とは言えない社会になった。一昔前までは、そういう「警告」を発している人は少なからずいたけれども、時の経過とともに切実な問題になってきているのは事実だと思う。大企業だから、伝統企業だから、という「ブランド」はその意味を失いつつあり、小さくても、或いは個人でも、対等にわたっていける社会はむしろ歓迎すべき変換期なのだと思う。
属する先としての企業という集団(のブランド)よりも、「個」の方が重みを増している、ともいえる。個が確立していない限りは、どこに属していようと価値が薄れる、ってこと。これ自体は間違いないことであり、嘆くようなことではない。会社員であっても、そこに価値を生み出す個人である以上「そもそも論」でもある。
本書の内容は、「会社依存」ではリスクが高くなりつつある、個の確立、自立がなによりも必要である、というのが主題である。「企業ありき」というよりは、個人の、依存からの脱却、(経済的な意味も含め)自立。会社員であれば少なくとも「経済的」には...というのは、属している「今」だけの話。確かに身を持ってわかることでもある。
その前提の上での「起業」を、どのように進めていくのか、という方法論も展開されるが、前述の通り「起業ありき」ではないので、現在の就業を維持しつつ、ネットをはじめとする資金が少なくてすむところからの「スモールスタート」を推奨。資金だけではなく(むしろそれ以上に)「時間」という課題はありつつも、その捻出の仕方にも触れる。
個の確立は、「本業」にもいい結果を生み出す、といった「キレイゴト」も多少は書いてあるけれども、結果としての独立の時期などにも触れていて、終始「個」という軸が貫かれているので、まさにその渦中にいる(ど真ん中にいる)自分としては非常に興味深い内容である。
起業はもちろん楽ではない。ネット環境の普及で「会社という場所」にいる必要は確かに「表面的には」なくなったかもしれないが、やはり「顔を合わせる」という利点も存在し続けているのも確か。要は、起業に関する「アイデア」と、「本業」における内外両面での「人とのつながり」の重要性であろうと思う。後ろにある会社があっての付き合いなのか(もちろん最初はそうであろうが)、そこから発展して個人としての付き合いに高めていくのか。まさに「個の確立」であり、これは「会社員」であっても(あるからこそ)高められる資質であると思う。
アイデアと人脈とモチベーション、そして継続。起業(とそれをカタチにする)に必要な重要なファクター。が、考えてみればこれらって「起業」にだけ必要なことではないよね。「本業」にだって必要なこと。ただ、本書を読んでいて感じたのは、「本業で成し遂げてから」「準備が万端揃ってから」考え始めたのでは、遅い、ってこと。これは明確ですね。

【ことば】人は、変化を嫌います...行動しない道を選びがちです。しかし、その時楽な道を選ぶことが、後で大きな後悔につながることもあります。

なんど「後悔」したことか...動いて後悔したことも含めて、ですけれど。でも、自分から動かないことには周りは変わらない。「属する」ことの(自分にとっての)弊害があるのならば、動こうと思う。だって、もうあまり時間はないのだから...

週末起業サバイバル (ちくま新書 811)

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考えるための書評集
My読書レビュー

2011/10/04

不思議な世界が...全編通すと見えるものが...

偶然の祝福 (角川文庫)
偶然の祝福 (角川文庫)
  • 発売日: 2004/01

『偶然の祝福』小川洋子
[1/174]BookOff
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

7つの短編集...と思いきや、いわゆる「連作」であることを途中で知る。話の中にでてきた飼い犬「アポロ」の名前によって。死んだ弟、不倫相手、失踪者...「失うもの」があって、主人公は哀しみ、それを受け入れ、乗り越えて生きる。そして、その対局にある「(なくしたものを)見つける」才能を持つ女性の登場...結果、彼女も去っていくのだが。
タイトルの「偶然の祝福」という第の短編はない。全編通して、その意味がわかる、ということであろうか。いわゆる「純文学」がフィールドにはない自分にはいまひとつつかみ切れず、短編ひとつひとつも、俗っぽい言い方でいえば「落ち」がないので、どうにも消化不良のところは、ある。おそらくは、前述したように「失うもの」と「見つけるもの」、どちらも「偶然」なのかもしれないけれども、「失ってはじめてわかるもの」新しく見つける中に見える「光」、これらがすべて、「今の自分」を作り上げているのだろう。
ちょっと前に読んだ『とげぬき』ほど主人公の強烈な存在感がなく、『潤一』のように、他者が軸になっているわけでもない。平坦な文調が続くが、(その3つの中では)もっとも「人間臭い」部分がでているような印象を受ける。
ご自身と重ねているかどうかは分からないけれども、孤独な小説家である主人公をとりまく人間たち。出会って、そして去っていく。それぞれ接した時間は短いのかもしれないが、ひとつひとつそれは「事実」であり、その出会いを経たからこそ、次の出会いがある。形はそれぞれだけれども、周りに存在する人は、ある意味その主人公の理解者だ。孤独な境遇ではそれも力になる。
...芥川賞作家、なんですね...存じ上げませんでした。次は長編『博士の愛した数式』を読んでみよう、と思ってます。

【ことば】...暖かい日差しが降り注いだ。息子が目を覚まし、もそもそと動き出した。私はカタツムリの縫いぐるみを、顔のそばに置いてやった。

『盗作』の最後の文。「文学的」表現ですねー。もちろんそれまでの経緯があってこそ、なんですが、こういう情景が浮かぶような、読んでいる自分の目の前に「カタチ」が現れるような。文章の力、言葉の力って、すごいですね。書き手と読み手が同じ世界に立った、そんな瞬間。

偶然の祝福 (角川文庫)

【書評家のご意見】
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読書のあしあと
とみきち読書日記

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