2011/10/27

夕焼けが見える。温かさに包まれる

夕映え天使 (新潮文庫)
夕映え天使 (新潮文庫)
  • 発売日: 2011/06/26

『夕映え天使』浅田次郎③
[13/186]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

浅田さんの短編を読むのは初めて?かもしれない。それにしても、深い。味わい深いのである。何かしら「後ろ」を持っている人物。大人の事情なのか、時代の象徴なのか、「何か」を引きずりながら、それを超えて生きている人々。そんな人物がある種の「人間臭い」部分を持ちながら行動する。そこにドラマがあるのだけれど、必ずしも「解決」して物語が終わるわけではない。ハッピーエンドもなければ、どんでん返しがあるわけでもない(ひとつだけ、想定外の「大」どんでん返しがありますが)。そこは「小説」なのだが、考えてみれば、現実の人生だって、何か明確な「最終回」で区切られているわけではない。小説の世界でそれをいってはいけないのかもしれないけれど、人生に起こることすべてが「言葉」にできるわけではなくて、言葉ではない人間関係、環境、気持ち、思い、そんなものが交錯するのが、すなわち生きることであったりする。なので、この本の中の物語も、読み手がそれぞれの結末を作り上げればいいし、そもそもそんな「まとめ」なんて不要だったりするかもしれない。
個人的には、これまで読んだ本の中で一番は、著者の『天国までの百マイル』であって、それ以外の作品も楽しく読んでいるファンである。短編もこれだけ「浅田さんの世界」が堪能できるとは...プロですねー。
さびれた中華屋に住み込みで働きたいと現れた素性を知れぬ女性、旅先で時効直前の犯人に遭遇した警察官、学生たちと、そこに現れた神秘的な女性との出会い...「事情」を持つ人々は、その場面に現れて、そして去っていきます。現れた背景も、さっていく理由も、深くは描かれていませんが、そんな人たちが出会って、話をして、別れていく中で、ドラマが、人間ドラマが生じている。その人物たちが動くシーンが、ありありと想像できる文の流れに、いつのまにか引き込まれていく自分がいます。そして背景は「夕映え」。
こーゆー「わけあり」の人物が動く小説って、「小説の世界」として読み物として非常に面白いですね。でも考えてみれば、そこに踏みこまないだけで、実際の世界もそんなに離れていることではないのかもしれない。程度はどうあれ、人ぞれぞれ「事情」を持っているし。それらを(必要ならば)受け入れて、その上で共に時間を過ごす。人間関係ってそんなもんかもしれない。人と人をつなぐものが、うまく言葉にはできない「気」だったり「思い」だったりする。「金」でないことだけは確か、ですね。

【ことば】俺たちが五千年の歴史と信じている人類の時間も、実はその途中で起こった同じ現象の、一瞬の出来事なのだろう。

本書の中でも異色の短編『特別な一日』のラストシーン。これ、 SF=ファンタジーとして、傑作だと思います。この一編を読むだけでも十分な価値あり。日常と幻想の間にあります。

夕映え天使 (新潮文庫)

【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね


どくしょ。るーむ。
Aromatic Gardens

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