2011/10/18

素朴な展開に入り込んでしまっていた。

陰日向に咲く
陰日向に咲く
  • 発売日: 2006/01

『陰日向に咲く』劇団ひとり
[9/182]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

話題になってから随分経ってしまいましたが...著者のことはテレビで見かけるくらいで、そのパフォーマンスも、キャラクターもあんまり知りません。テレビに出ている人だから、お笑い系(?)だから、そのギャップを以て、評価が高いのかと思いましたが...
面白いです。淡々とした文調ですが、ストーリー展開の早さも、登場人物の魅力も、そしてその「つながり」も、読んでいくうちにどんどんハマっていく自分がいます。ホームレスに憧れる男、アイドルのおっかけ、悪者になりきれないギャンブル狂...世間一般の「勝ち組」や、そのためのセオリーからは少し外れた主人公たち。その「特殊な」世界に入り込みきれない人間性、そう、人間っぽいんですね、主人公が。
特殊な環境であって、少なくとも自分の経験した世界ではないし、周りで起こっていることでもない。でもなぜだか「近さ」を感じられるんだよなあ。通常ではない場面で通常ではない気持ちになって行動してしまうキャラクターたち。なんとなく理屈は付けられないけれど、感情移入できてしまう。著者が心理学的にどうこう、ということはないのだろうけれど、人間心理の描写が「入って」きます。たとえばギャンブルで借金を増やしていく男の話。競馬で「返済」を目論むけれど、「引き際」が実行できずに、勝手に思い込んだ理論でますます額を増やしてしまう...とか、最後の手段として「オレオレ詐欺」を試みるけれども、実際の老婆に感情が移ってしまいがちになるとか。どこかに「人間」が隠れていて、それが少しずつ顔をだしているようなイメージです。
人間の弱いところの描き方がとてもリアルに描かれているのですが、そもそも「弱い」ということが、そのヒトの本質であったり、もっといえば、「弱い」ということが「非」ではないのかもしれません。実は自分はこういう人間であって...というのが、「非日常」の行動の中から表面化されてくる、というか。
泣けるような話ではありません。ありませんが、全部読み終わった後に、タイトルを見返すと、その「深さ」に感じいる、「あー」と思っちゃいますね。
プロの芸人である故(?)「オチ」のうまさはさすがです。が、その「オチ」だけではなくて、ストーリー展開も含めて、「楽しめる」内容。芸人の書いた「タレント本」ではないですね。一読の価値、十分あります。

【ことば】それに、俺は返そうと思っている。今は金がないから、少しの間、婆さんに少し借りるだけ...毎日電話で話しているうちに婆さんの温かい人柄に情が湧いた。

「オレオレ詐欺」実行中の心情の描写。「返そうと思っている」と自分に言い訳、理由を作っているが、主人公の「本当の人柄」が表れている部分。もちろん、それを実行しようと行動し始めた時点で「悪」なんだけど、それになりきれない、そんなキャラクターも持ち合わせている「人間」が、リアルに感じられる部分ですね。

陰日向に咲く

【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね


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