- 偶然の祝福 (角川文庫)
- 発売日: 2004/01
『偶然の祝福』小川洋子
[1/174]BookOff
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆
7つの短編集...と思いきや、いわゆる「連作」であることを途中で知る。話の中にでてきた飼い犬「アポロ」の名前によって。死んだ弟、不倫相手、失踪者...「失うもの」があって、主人公は哀しみ、それを受け入れ、乗り越えて生きる。そして、その対局にある「(なくしたものを)見つける」才能を持つ女性の登場...結果、彼女も去っていくのだが。
タイトルの「偶然の祝福」という第の短編はない。全編通して、その意味がわかる、ということであろうか。いわゆる「純文学」がフィールドにはない自分にはいまひとつつかみ切れず、短編ひとつひとつも、俗っぽい言い方でいえば「落ち」がないので、どうにも消化不良のところは、ある。おそらくは、前述したように「失うもの」と「見つけるもの」、どちらも「偶然」なのかもしれないけれども、「失ってはじめてわかるもの」新しく見つける中に見える「光」、これらがすべて、「今の自分」を作り上げているのだろう。
ちょっと前に読んだ『とげぬき』ほど主人公の強烈な存在感がなく、『潤一』のように、他者が軸になっているわけでもない。平坦な文調が続くが、(その3つの中では)もっとも「人間臭い」部分がでているような印象を受ける。
ご自身と重ねているかどうかは分からないけれども、孤独な小説家である主人公をとりまく人間たち。出会って、そして去っていく。それぞれ接した時間は短いのかもしれないが、ひとつひとつそれは「事実」であり、その出会いを経たからこそ、次の出会いがある。形はそれぞれだけれども、周りに存在する人は、ある意味その主人公の理解者だ。孤独な境遇ではそれも力になる。
...芥川賞作家、なんですね...存じ上げませんでした。次は長編『博士の愛した数式』を読んでみよう、と思ってます。
【ことば】...暖かい日差しが降り注いだ。息子が目を覚まし、もそもそと動き出した。私はカタツムリの縫いぐるみを、顔のそばに置いてやった。
『盗作』の最後の文。「文学的」表現ですねー。もちろんそれまでの経緯があってこそ、なんですが、こういう情景が浮かぶような、読んでいる自分の目の前に「カタチ」が現れるような。文章の力、言葉の力って、すごいですね。書き手と読み手が同じ世界に立った、そんな瞬間。
偶然の祝福 (角川文庫)
【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね
読書のあしあと
とみきち読書日記
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