2012/04/19

「悩むこと」は悪いことではない。

「悩み」の正体 (岩波新書)
「悩み」の正体 (岩波新書)
  • 発売日: 2007/03/20

『「悩み」の正体』香山リカ⑥
[15/69]Library
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★☆☆

精神科医らしい著作になっています。「悩むこと」そのものを否定はしていません。人間が生きていくうえで悩まない人などいないのだから...ただ、悩む「内容」がちょっと歪んでいる、という指摘があります。「効率」「同調性」という言葉が重要視され、効率の悪いもの(こと)はダメ、空気を読めないのはダメ、という環境の中での「悩み」が増加しているようです。
効率、という言葉がやっかいだと感じます。ここには、「お金」という意味合いあ強く含まれます。すなわち、「費用対効果」が合うか合わないか。即時、リアルタイムでのレスポンスが求められていて、「今」を乗り切るため「だけ」に、効率というものが使われているような印象。最近では、あまりに「効率主義」に偏った反動か、そうではなくて「貢献」という反作用もぼちぼちみられるようになりましたが、現実的には多くの企業は変わっていないでしょう。そしてそれが企業活動だけではなく、人生という点にも浸透しはじめてしまっているかのように感じます。
「今」を大事にすることは大切なポイントですが、あまりに行き過ぎると、「先のことを考えず」という状態になります。そうなると、「今」対応に追われ続ける、という「悪」循環に陥るのは明らか。物事の「本質」をなんらかのカタチで感じていて、これではいけない、という「正しい」感覚をちょっとでも持っている人が「やられる」のかもしれません。
そんな環境の中で、自分を責めて、悪いのは自分、乗り切れないのは自分、と思ってしまうと、ズルズルと深みにはまります。自己啓発本の多くは、「他人は変えられない、自分を変えるしかない」と、強くなることを説いていますが、本書はその逆をいきます。つまり、「社会のせい」にしてもよいと。それが解決策になるかどうかは分かりませんが、そう思うこともひとつの手だなあ、とは思いました。多少「楽」にはなれるのではないか。ただ、楽になったことで「解決」に向かわないと、揺り戻しが来てしまいます、「やっぱり自分が悪い」と。
要は、本質を見抜く力をつけることだと思います。そうはいっても理不尽な社会の中で生きていかねばならないのだから、バランスの問題ですね。ある程度「楽」な気持ちで、自分を俯瞰してみることができれば、「本質ではない」環境をちょっと引いた目線で見ることはできるかも。
「悩み」の正体を見つけて、それを直接的に改善するようなハウツー本ではありませんが、もしかしたら、解決にむけての「本質」を見つけられる内容かもしれません。それこそ「同調性」を前面に出して、流れに迎合するような著作もある著者ですが、本書は(さすが岩波)精神科医としての本質を表しているように思います。

【ことば】悩む必要のないことで悩んでいると、「好きな人と親しくなるためにはどうすればいいのだろう?」といった、"本来の悩み"にまで頭が回らなくなる。

「悩み」の本ではあるが、「正しく悩む」を指南する内容でもある。ちょっと奇妙に見えるけれども、なんとなく伝わってくるものがある。悩んでクリアする道を見つけたら光が差し込む、そんな悩みならOKということか...「悩み中」にはそれが見極められないんだけれどね。

「悩み」の正体 (岩波新書)


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