2012/07/31

誰もが痛みを抱えている

青のフェルマータ Fermata in Blue (集英社文庫)
青のフェルマータ Fermata in Blue (集英社文庫)
  • 発売日: 2000/01/20

『青のフェルマータ』村山由佳
[20/135]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

オーストラリア、イルカ、チェロ、精神的疾患...これらのテーマが絡み合うストーリー。「癒し」という言葉が最も適しているのかもしれない。主人公は家庭的なトラウマから言葉が出なくなってしまっている。それを治すために選んだのが、アニマルセラピー、イルカの力を借りることであり、その場所がオーストラリアであった。そこにいるセラピスト、イルカ施設のスタッフ、主人公の音楽の師、いずれもが抱えているものは...

だれしもが、生きている中でトラブルに直面し、それを突き破るための策を模索している。攻撃的な表現をするケース、黙って自分の中で完結しようと試みるケース、他人に施すことで解決しようとするケース。それぞれがそれまでの人生の中で経験した苦しみを解き放つための表現を探している。

主人公の場合は、それが「ことばを出さない」という行動になっている。そんな中でイルカと共に過ごす日々、言葉が出なくとも、精神的に苦しみ攻撃的な行動に出ようとも、それを受け入れ包み込む人たちに囲まれ、やがて自らの殻を破る時がくる。
「セラピー」という言葉にすると、それは医師のような存在が全面的に「治して」くれるようなイメージだけれども、最終的に「あるべき姿」を自分で認識し、そこにたどり着くための行動を起こすのは、他ならぬ自分である。本書のイルカのような「アニマルセラピー」にしたって、彼らが全てを「治」してくれるわけではなく、そこから「何か」を得て自分の力にできるかどうか、という点がポイントだと認識。

イルカによるヒーリング、ということよりも、人間が生きる上で必ず訪れるであろうトラブルと、どう向き合うか、それによって受けてしまった傷にどう対処するか、そんなテーマであろうと思います。ストーリー的には、「女性」が前面にでているので、異性である自分にはちょっと距離感ができてしまい、且つ抑揚があまりない展開なので、正直「長く」感じた分もありましたが、さらっと読んでもそれなりに心に残る読後感です。

【ことば】この小さな観客とイルカたちの前で弾くと、なぜか、自分の生み出す音の世界に没頭していくのがあっけないほどたやすくなる。それはもしかすると、彼らだけが、決して批評家になることをしない純粋な聴衆だからなのかもしれなかった。

主人公の女性はチェロを弾くことで、言葉が出ない代わりに、自らを表現をします。純粋に奏でる音は、純粋に聴くイルカたちとの間で、美しい調和を創り上げているようです。そういう音楽、って素晴らしい「表現」です。

青のフェルマータ Fermata in Blue (集英社文庫)


 >> 本書の感想文、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね <<


野球のない日は本を読もう。
読み人の言の葉


0 件のコメント:

コメントを投稿

Twitter