2012/07/24

「オチ」には不満も、なかなかエキサイティング

盤上のアルファ
盤上のアルファ
  • 発売日: 2011/01/06

『盤上のアルファ』塩田武士②
[15/130]Library
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★☆☆

「盤」とは将棋盤のこと。人生落ちぶれた一人の男が唯一持っていた、将棋への執着。生きる死ぬというレベルから這い上がるストーリー。将棋への興味は正直それほどないのだけれど、かなり楽しめた。

33歳の「棋士」と、将棋を含む文化面担当に「左遷」された同年代の新聞記者。人生の落伍者のような自意識にさいなまれる毎日から、ひとつだけ興味を持つものに邁進する姿に変わっていく様は、まさに「小説的」であり、エンターテイメントとして楽しめる。

33歳で定職を持たず、プロ棋士への執着を捨てきれない男、事件記者としてのプライドを捨てきれず、職場での協調性を発揮できずに左遷された男。そんな社会から落ち気味の男を支える小料理屋のおかみ。もちろん大きなテーマは「将棋」ではあるものの、圧倒的に人間ドラマが中心である。作中、33歳にして社会に適合できないことを悩み抜く姿、「無理はできない年代」という科白、見に沁みます。が、一回り上の世代からみれば、冒険せずに何が変わるのだ?と思ってしまうし、背負ったものがあっても、年齢がいくつであっても、飛び出す勇気があるかないかだけの違いであると思ったり。

結局プロ棋士を目指す男は、一心不乱にその道を進み始める。自分にはそれしかない、と気づいたからだ。登場の頃は、かなりの度合いで「社会不適合者」だったのだが、ひとつのことに熱中する姿を通して、人間的な男らしい姿に変わっていくのだが、なんとなく「話しを合わせている」感じがして、あくの強いキャラクターが貫かれてもよかったなあ、なんだか普通の人になってしまったなあ、という物足りなさも。

将棋の世界、という設定も面白いし、人物描写も尖った感じで面白いのだけれど、途中から「収束」していっているのが後半のモリアガリを小さくしてしまっているような...「勝負事」の結果は、(小説的に)なんとなくわかってしまったし(その通りの結果だった)、最後に入る「どんでん返し」はなんだか「え?」って感じでイケテない感じが...タイトルの「アルファ」はオオカミのボスを指す言葉らしいけれど、この言葉の鋭さと主人公、ストーリーが適合していないような...

将棋をしらなくても十分「楽しめる」ことは間違いありません。逆によく知っている人だったら物足りないのかな。いろんな分野の小説を書かれる著者が、自分の一回り下、と知って驚き。自分も何か一つのことに向かってまい進しないと、だね。

【ことば】不器用に正直に生きてきた男には、吐き出したくてもかなわなかった苦しみがあった。...枠組みがきっちりした日本社会では、もう自由を叫んでいい年ではなかった。

まだ「33歳」でこんなことを言ってはいけません。「自由」の意味をどうとらえるか、ですけれど、日本社会の枠組みがどうあろうが、そこに生きている自分の人生を自分で考えるのは大事なことです。そりゃ「食うため」に魂を売るようなこともあるけれど、それだけの人生じゃ、意味がない。

盤上のアルファ


>> 本書の感想文、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね <<

思いつくまま気の向くまま
たきたき感想部屋

 

0 件のコメント:

コメントを投稿

Twitter