- ともにがんばりましょう
- 発売日: 2012/07/03
『ともにがんばりましょう』塩田武士
[3/118]
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K-amazon ★★★★☆
一時金と深夜手当、地方新聞社における労働組合と会社経営側の凌ぎ合い。めったに見ないテーマだし、自分自身組合がある会社に属したのは20年前が最後なんで、その距離感を埋められるか多少不安に読み始め。
一般的に言われているような「新聞離れ」という環境の中で、一時金の確保と新聞社にはどうしてもつきまとう深夜労働に対する手当の攻防。組合側の要求も、現場で働くものとして十分理解できるし、会社側の事情も汲めるものがある。自分自身どちらにも寄らずにフラットな位置づけで読んでいたが、これがストーリーに惹きつける要因になったのかもしれない。
組合員の代表として会社側との折衝にあたる委員たちは、その会社の社員でもあり、自らの職務もあるんだけど、このストーリーの中では、委員としての活動に完全に焦点を当てている。内向的で人前でしゃべることすらままならない主人公の精神的肉体的な苦痛を通して、委員長はじめ組合の活動が表されるが、その旧態依然としていつつも、ルールに則った進め方や、組合と経営の間の埋まらない溝をどう狭めていくか、という委員長らの手腕、その「汗」「臨場感」がビビッドに伝わってくる。組合活動の事情に詳しくない自分でも、この「闘争」に手に汗握ったのだ。
決裂寸前までいきながら、窮地を救ったものは、すなわち交渉で最も大事なことは何だったのか。それが少しずつ見えてくる過程も心地よい。少々違和感はあるものの、つい涙腺が緩むような出来事、交渉の場で発言すらできない主人公の成長過程、淡い恋の話し、メインのストーリーと小さなスパイスの効き具合も快い。
人前で話せない、内向的な主人公、という設定も秀逸。会議でもひと言も発することができず、いつものことながら自己嫌悪に陥る彼が、最後に見せたパフォーマンス。睡眠時間を削り、他の委員から刺激をうけながら、それでも集中力を以てやり遂げる姿。彼の気持ちの変化、というところに焦点を当てても、魅力的な読み方ができるのだ。
組合を描いた小説、というとちょっと距離感を感じたり、自分とは無関係と感じるところもあるかもしれないが、実際に組合活動とは縁のない自分が読んでも、相当に引き込まれた現実、おそらく職場などでの組合に多少絡んでいる人は相当にエキサイティングに読めるのではないかと思う。
テーマとして魅力があるかは個別だけれど、直接は無関係なテーマでもここまで読んじゃう、そんなストーリー展開に著者の底なしのパワーを感じます。他の著作も読んでみたい、読み終わった直後からそう感じました。
【ことば】心身ともにきつい仕事を続けるのは、世の中にはニュースを伝える人間が必要だという強烈な自負からです。
過酷な労働条件のもとで働く人たちを支えているのは、このような自負心、プライドなのだろうと思う。「社会のため」と同時に「自分自身のため」にも、このような矜持であるべきだと思う。どんなビジネスのおいても、自分とそして「相手」がいなければ始まらない話。
ともにがんばりましょう
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