- 明日の記憶
- 発売日: 2004/10/20
『明日の記憶』荻原浩④
[13/128]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★★
タイトルが表しているように、「記憶障害」、若年性アルツハイマーの男性のストーリー。広告代理店で部長をつとめる彼が、自身の親もそうであたアルツハイマーと告知された。まだ50歳である。世間的には「働き盛り」とも言える年代。本書を通して、その男性の目線ですべてが語られているので、徐々に進行する症状がいたたまれない時間の流れを作り出す。そしてあまりにも悲しすぎるラスト。
多少まだ先、ではあるが、自分の「その年代」に入ってきている。読み進めていくのが、正直怖かった。いつもいっていた場所、忘れたことのなかった約束、同僚や仕事関係の名前、そして私生活へと...怖い、怖すぎる。
「まさか自分は」とあくまで架空の物語として読むべきなのだろうが、少なからず「物忘れ」の傾向は自覚している中、「人ごと」に完全には置き換えれない恐怖の中、夢中で読んだ。
そんな中、本書を読んでいる期間に、こんなことがあって...
ある日の昼食に、牛丼屋に行った。「早い、安い」のアレである。ところが10分15分たっても出てこない。当然、店員が忘れているだろうと思い、催促しようと思ったとき...ふと、「もし既に食べ終わっていることを自分が忘れているだけだったら...」怖かったよお。そんなことはなかったのだけれど、あまりに本書にハマりすぎて、その世界に入り込んでしまったようで。
また、営業担当として長い付き合いのクライアントの会社へ出向く彼が、何度も訪問した渋谷の会社の場所を忘れる、というくだりがある。そこまで電車内で読んだとき、自分が向かった先がまさに渋谷だったりしたのだ。
これまで著者の本は、同じ広告代理店の社員が主人公でありながらも、コミカルなユーモラスなタッチで、広告代理業の苦しさ、楽しさを表すものだった。この本は、同じ業界の人が主人公でありながら、まったく違うストーリー展開。
病気であり、特に自らは如何ともしがたい病気であるからこそ、主人公自身の気持ちもさることながら周りの人の大変さも同時に痛切に感じいる。最後の最後は...「泣ける」というよりは、「ついに...」という、なんとも言えぬ辛さと、「もうこうなったからには受け入れるしか」という達観とが、ないまぜになり...けれども、そこに少しだけ「光」を垣間見せてくれたことが、何よりも素敵なエンディングにしているような。
仕事人生20年を越えたあたりの男性は、きっと怖くなるので、読まない方がよいです。それほどまでに、「本人」が語る戦いは壮絶。生きること、時間の大切さを知ることになりますが、なによりその病気に対して無力であるのが、本当に震えるほど怖い。
【ことば】歳をとり、未来が少なくなることは悪いことばかりじゃない。そのぶん、思い出が増える。それに気づくと、ほんの少し心が軽くなった。
とても素敵な[ことば]。本書の中では、逆説的な布石になっているけれども。こんな穏やかな言葉を見ると、前向きな気持ちになれるし、「今」と「これから」の大事さとともに、「前」の大切さも身に沁みる。
明日の記憶
>> 本書の感想文、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね <<
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