- おみそれ社会 (新潮文庫)
- 発売日: 1985/12
『おみそれ社会 だれかさんの悪夢』星新一
[17/132]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆
当時「ショートショート」とか「SF」って言われていた頃、もう30年以上前になるか、よく読んでました、星新一。時間が経って、自分も社会も変わってから読む星新一。どんな気分になるか、自分でもy楽しみにして。
氏の作品の中でも比較的「長編」の類で、また、社会風刺の色が濃く出ている『おみそれ社会』ですが、まったくといってよいほど色褪せていない。当時は「未来」のことであったコンピュータや携帯電話、それとそのころまではそうだったんだなあと思わせる「女性」の描写(社会的に男性と差があるという意味で)に関しては、「とき」を感じさせるものの、ストーリー的には、現代でも完璧に通用します。
その時点での「未来」を描くものが多いのですが、今となってそれが実現したものと、「宇宙」関連の、「現在でもまだ"未来"のまま」というものがありますが、「星新一の世界」が大人になってもまだ十分に楽しめる、そんな嬉しい読後となっています。
『だれかさんの悪夢』に収録される、「宣伝の時代」という作品が特に秀逸でした。「条件反射」を利用して、刺激を受けると宣伝の言葉がでる、という機能を個人が売る。ひとつ例を出してしまうと、
「車内で中年の男があくびをすると、『疲労回復の栄養剤は強力ドミンが一番』と口走る」
といったように、自らの体、言葉を「宣伝媒体」として使う、という「時代」を描く。
考えてみれば、当時から見れば、バスのラッピング広告や、トレインジャックなど、想像もつかなかった広告媒体が普通になっている。これがさらに発展して「人間(の条件反射)」すらも媒体として使われている、という内容。
...すごくないですか?著者にしても数十年後にあらゆるスペースが広告媒体になるというのは想像だっただろうし、それがある意味で的中しちゃうのもすごいし、もしかしたらこの「人間が媒体に」というのも、あり得るかもしれない、と思ってしまうのもすごい。
短い作品の中で、工業化や効率化、都市化していく社会への風刺、皮肉を表し、本来人間として生きる価値、求める幸せはどこにあるのか、っていうのを考えるきっかけを与えてくれる。
30年前はそんな読み方をしなかったけれど、読書の「可能性」「楽しさ」を再認識させてくれる時間でもありました。
【ことば】朝からさまざまな商品名を聞かされたが、すぐに忘れてなんにも記憶に残っていない。人間のひめている可能性ははかりしれないが、人間のひめている適応力のほうがもっと大きいようだ。
前述の「宣伝の時代」の締めの[ことば]。まさに今の「広告」の位置づけを表しているようで怖い感じすらします。ってことはこの時代から「広告」はそういうとらわれ方だったのだね。
おみそれ社会 (新潮文庫)
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