- 延長戦に入りました (幻冬舎文庫)
- 発売日: 2003/06
『延長戦に入りました』奥田英朗
[8/84]BookOff
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆
スポーツネタを中心としたエッセイ集。かなり笑えます、というレビューを目にしていたが、これ、真実でした。「目の付けどころ」が違いますねー。プロ野球のTV中継で映る、バックネット裏席の案内係についての「考察」、陽の当らない「800メートル」競技について、万能選手が尊敬に値するという中でのノルディック複合の改革案、などなど、プロ、アマチュア問わず、どちらかといえばニッチな競技、あるいはメジャー競技でも「通常」の視点では届かないニッチな点に、その視点は向かうのである。
真剣である。どんなにニッチであろうが、読み手が「寒さ」を感じていようが、著者は真剣に取り組んでいるのだ。ヨーロッパでは「万能=なんでもできる人を尊敬する」考え方が強い。ノルディック複合競技の人気もその一環と思われるのだ。でも著者の考察はここで終わらない。「万能」というには、ジャンプ、クロスカントリーの2種では不足だと考えるのだ。従来の2種に追加する競技案として、フィギュア。この時点で「微笑」である。さらに追加案でくるのは空手。さらに数学が提案されるにいたっては、「中笑」となり、いわゆる「オチ」の部分に至るについては、できれば電車の中で読むのは避けた方がよさそうだ。
34のエッセイがすべてこのような「ネタ」ではないけれど、「ニッチなネタ」について深堀りをする姿勢にはなんら変わらない。これだけ面白いエッセイを書いている人(本)をこれまで知らなかったことが、何か損をしていたような実感を持つほどに感じられるのだね。「トップバッターの資質」コラムは特に秀逸ですね。青木、相川、安藤...小学校での出席番号で一番だったであろう人は、みんなの先頭を切ることになれているはずだ、その資質を以て(野球の)打順を考慮すべきではないだろうか...あ、もしかしたら?って思っちゃうようなエッセイです。冗談か本気か、その両方なんでしょうけれどね。
ボブスレーの2番め3番目の役割は何であるのか、とか、サイドカーレースでサイドカーに乗っている人も表彰の対象となり得るのか、とか、アジア大会の「記録的側面から」の世界レベルとの差異など、ともすれば「ネガティブ」とも思えるテーマもありつつも、著者自身もスポーツをやられる、そしてネタとして取り上げてる各競技について、多少なりともお持ちであろう「愛情」を感じられ、その分が「あたたかな」笑いにつながっているんだろうと思う。
直木賞を受賞されている作家さんなんですね...初めて読んだ著作が本書であることが、はたしてよいことなのかどうか...早速「次」を読んでみたい。違った側面を見てみたいですね。おそらく本書の方が「違った」側面、なんでしょうけれど...
【ことば】私はクールで思い詰めないスポーツ選手が好きだ...わざとらしくカメラの前で泣く選手にはペナルティを科したらどうだ。
最近とくに目につく、気がする。これは「スポーツ選手が泣く」場面自体が増えているのか、自分がそういうシーンに注意するようになってきたのか。けして否定するものではないし、努力の末の涙は美しくもあるがプロのアスリートでも多いのが気になるのだ。クールに「プロに徹して」いる姿は分かりにくいが、かっこよくもある。
延長戦に入りました (幻冬舎文庫)
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