2012/05/10

いつ読んでも、気持ちがよい。歯切れよい。

決定版 この国のけじめ (文春文庫)
決定版 この国のけじめ (文春文庫)
  • 発売日: 2008/04/10

『決定版 この国のけじめ』藤原正彦④
[6/82]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

数学者であり、エッセイスト(風刺系)の著者。本書は、読売、日経、産経各紙や雑誌などに書かれたエッセイの集めモノです。ご自身の家のこと、日本・日本人の誇り、教育に関する提言・苦言、作家に対する批評、今の日本に関する憂い、などのテーマ別に構成されています。寄せ集め、なので、若干内容がカブるところはありますが、相変わらずの口調は、逆にすがすがしさを感じるほどです。
戦争に関する主張や、経済界への批判、これらについては、やや「偏り」が感じられますが、他の本でも、本書に収録された異なる投稿でも、同じトーンなので、「繰り返し」というイメージもありますけれど、それだけ著者の主張がブレていない証拠でもあります。
改めて感じたのは、著者自身の環境も含め、その軸には「武士道」がある、ということ。戦争を肯定するわけではないけれど、アメリカ批判は引き続きその勢い衰えず、「戦略的な」アメリカ方式に追随する日本の姿勢への批判も著者の強い「祖国愛」が前提にあります。
特に「教育」に関する憂いが強く、英語教育の早期化や、パソコン授業の導入、金融の教育を真正面からブッタギリ。これらの方向性には、なんとなく違和感を感じてはいましたが、「経済界の事情」と著者が指摘する内容は、非常に説得力があるものです。英語、パソコンよりもまずは日本のことを勉強せねば、読書をせねば、というシンプル且つ基本的な主張はまさに同意するところであり、ナショナリズムとは異なる「祖国愛」の大事さを改めて思い知らされます。自分の世代は教育が変化する過渡期であり、「古いもの」「新しいもの」が混在していた時代。これは考えてみれば結構「ラッキー」なことであり、著者のいう「日本をよく知ることが第一義」ということもよーく分かるし、一方で「新しい取り組み」もなんとなく、今これからの時代には必要なのかなあ、と受け入れる度量があります。
ただ、著者ほどの「強さ」はないものの、英語よりも「日本を知ること」の重要性、というのは感じておりまして、大人になってから外国人との接触において、いかに自分が「生まれた国」について知らないか、ということを痛感する場面がしばしばあります。そんなこんなで「日本史」に興味関心を持ち始めたのも、すっかり大人になりきってから、というタイミング。まあ、「遅すぎる」ことはないので、気付いてよかった、というだけのことですけれど。
おそらくは、日本を知ることが最優先に立ち、その後に英語やパソコンがくるのでしょう。著者の主張するように「すべてを国語算数にすべし」というのは、それはそれで偏りが生じるような気もします(このあたりが著者に比べて大幅にブレている証しなのでしょうか...)
本書を読んで改めて感じたのが、著者の「文章の力」です。戦争や教育など「カタい」テーマを、カタい文調で攻め立てる一方で、ユーモアにあふれた「オチ」も用意されている。これが引き込まれる要因なのですね。数学者との両立の難しさ(本書にも書かれていました)を乗り越え、モノカキでもあった両親の元、天賦のモノと、受けた教育の素晴らしさが掛け合わされて、「読者に訴える」力を持った文書を世に出せる技量を身に付けた著者。これを体感すると、著者の主張の説得力も増してきます。
ちなみに、お父様が「あの」新田次郎とは知りませんでした。もう著者の本、4冊目になるのに...

【ことば】国際的に尊敬される人とは、自国の文化、伝統、道徳、情緒などをしっかり身につけた人である。

確かに。「英語が話せるというのではなく、それで伝える内容によってその人間の価値が表される」といった著者の主張はごもっともだと同意です。その前提でもって、「英語が話せる」方が圧倒的にいいですけれどね。「国際的に尊敬」されなくとも、自国の文化云々は、最低限プライドと共に持ち合わせたい。

決定版 この国のけじめ (文春文庫)


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