2010/10/21

読み物プラス人生論。傑作かも

『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ漁船で学んだ』齊藤正明
[14/180]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

フツーの会社員(研究員)が突如40日以上にもわたって「マグロ漁船」に乗ることになり...その「航海」の中から数々のことを学び取った、というタイトルそのものの内容。著者の乗船「前」同様、自分のイメージも「マグロ漁船=劣悪な環境、荒ぶる漁師たち...」という印象がある。もちろんそれが否定できない側面はあるのだろうけれども、航海中船酔いや密閉された空間の中で戸惑いながらもいろいろと漁師たちから教えられた「教訓」の数々。
所謂「コンサル」的な読み物ではない。あくまで著者ご自身が体験された「非日常」で、どんな会話から何をつかんだか、という話。多くは下船後に振り返ってみた時に改めて想起されたものであろうけれど(そんな「人生論」を逐一感じ取っているような環境ではないだろう)、イメージしている漁師のキャラクターとはかけ離れて、「陸(おか)」の人間には感じ得ない、そこから「人間として」感じるべき教訓がたくさんでてくる。
・自分でどうしようもないことへの対処方法
・今できることをやること=ポジティブシンキング
・アドバイスの受け方
・愛情のある叱り方
・技術的に未熟な者の立ち位置
・共有の意識
・コミュニケーションの方法

コンビニも携帯も、病院もない世界で、極論ではなく「死」と向かい合った環境で、且つ同じ人間と狭い船内で何日も過ごす環境で、生きる術が身につくのはある意味生物学的に当然であるのかもしれないけれど、本書で触れられているような漁師たちの「人生訓」が実際にその言葉で語られていたら、これほどの「学び場」はないんではないかな、って思う。「本当?」と疑ってしまうほど、漁師たちの「生き方」は素敵で、魅力的だ。自分はそうはなれない(環境をそこまで変える勇気も若さもない)が、そういった人たちに触れたい。間違いなく自分にとってプラスになるだろう。本書を読むだけでもかなりの規模でプラスをいただいている。
おそらくは漁師でもなんでもなく、理由もわからずマグロ船に乗った著者は、「陸」で暮らす人間として「未熟」であったのだろうが、きっと「素直」だったのだろう(そうならざるを得なかったのかもしれないが)。漁師たちが、本書にあるような人生訓をそのままの言葉で語ったのではないのかもしれないが、その会話から、自分の環境に置き換えて考えたり、自分の言葉で考え直してみたり、そんなスキルを以ているように思える。それゆえ、余計に吸収するものが多かったのだろう。
処世術ではなくて、生きていく、よりよく生きていくために必要な本質。それを学んだ著者をうらやましくも思う。かといって自分がマグロ船に乗りたいとは思わないけれど...
タイトルにある「会社人生に必要な知恵」を学んだ著者が、その後会社を辞めている点は少しひっかかったけど、そのまんまのタイトルも本書を読んだ後で見直すと、改めて「深み」を感じる。苦痛な日々を過ごした著者には申し訳ないが、読後は「爽快」な気分にもなる。

会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ (マイコミ新書)

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