- 復興増税の罠 (小学館101新書)
- 発売日: 2011/12/01
『復興増税の罠』河村たかし
[17/224]
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★★☆
以前はよくテレビで見かけた著者。「減税日本」という、単刀直入なネーミングの地域政党の代表として、また「出直し」ばかりが話題になった名古屋市長として、「異端児」のイメージが先行する。
初めてその著作を読んだ。テーマがタイムリーなだけではないだろう、非常に「分かりやすい」。官僚や国会議員の批判はまあ置いておいても、なぜに「増税」ではなく「減税」なのか。著者が主張する論拠が非常に明確である。
著者として、一般の人の目に触れることを想定して、「より」わかりやすく、問題点をシンプルにしているとは思うが、国会議員や役人の「わかりにくさ」とはあまりにも対照的だ。
著者が繰り返すように、増税しないと...というムードを高めているのは、「税金でメシを食っている」センセガタであり、自らの給料である「税金」を減らす=減税という策はよもや考えつかないだろう。ホントに彼らが「自分たちのために」増税やむなし、という空気を作り上げているのかどうかは分からないが、著者の言うところの、
減税→消費ムードの高まり→消費、投資の増加→結果として税収の増加
というのは、数値の試算だけではでてこないスキームかもしれないが、非常に分かりやすい流れである。消費者側から考えれば、税金が減れば、すなわち可処分所得が上がると、特に「サラリーマン」は、気持ちが大きく変わる。もはや明細を見る動機すらなくなっているサラリーマンにとって、「可処分所得の増加」は、前向きなニュースだ。
すべてが「行動」に結びつくかはもちろん言明できないにしても、その「気持ち」が景気を押し上げる可能性は極めて高いと思われる。政治家、官僚の試算では、こういう「気持ち」は試算できないであろうけれど、かつて「ビジネスの世界」に属した著者だからできる視点は、とても大事な点だと思う。
これは、「国民の代表」たる公務員の仕事であれば当然もっているべき視点であろうけれど、現実的には、「職業としての公務員」、「税金が給料である職員」という彼らにその意識はない。
そしてもうひとつ「コロンブスノタマゴ」的な視点の切り替えを得られたのは、「国債」の話。マスメディアはしきりに「借金」という見方一本やりだが、確かにその増え続ける額には驚異を覚えるが、その「債権者」が国民である、というのは...「借金」の側面と逆側の「貸し手」という視点を提示しているメディアは、著者の指摘するように、確かに無い。それに「違和感」を感じなかった自分だけれども、本書の読後は、新たな視点が持てるようになっている。程度の差はあれど、「国債」がすなわち悪という一方的な見方は辞めにしたい。
著者が言うことが全面的に正しいかどうかは分からない。ちょうど、本書を読み終わった日の朝刊には「借金が歳出の半分」「忍び寄る危機」という扇動的な見出し。「増税やむなし」を高める一旦なのか?そういう疑問を以て読むのと、何も考えずに読むのと、社会の見方が変わってくるはずだ。
それから、これも著者が憤りを感じている「背番号制度」。国民を番号で「管理」するシステムの導入である。「番号」で管理することによって、「脱税」を失くす...本当でしょうか?仮に「本当」であったとしても、国民を「番号」で管理統制するのは、つまり感情を持たない「ID」として「管理する」という発想から生まれているのでしょう(その導入に絡む利権の発生等については、もはや興味関心すらありません)。自ら一方では消費者であることを忘れているような「オカミ」の動き、アヤシイですねー。
メディアの報道に対して、疑問を持つこと。言われているけれどできていない自分。本書の内容は、結構刺激的で、そして、身近な問題で、また、連日報道で目にする話題である分、近づきやすいし、また「税」という切実な話題でもある。
自分の身は自分で守る、本当の意味での「幸せ」を見つける。改めてその重要性を思う。
【ことば】財源不足を増税で埋めるなら、だれでもできる。それが「勇気ある決断」というなら、総理大臣なんてだれでもなれる。
実際に、市民税を減税し、それに伴う税収不足を補って余りある行政改革を実施した市長の発言だけに、重みがある。というか、この「市民税10%減税の話」をメディアはもっと取り上げてもいいのではないかと思う。これが国政にも通用するかどうか、という議論があって、その後に「増税」ならまだしも...必要な増税なら逃げるつもりはないけれど、諸々「オープン」にしてほしいのだなあ。
復興増税の罠 (小学館101新書)
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