- おさがしの本は
- 発売日: 2009/07/18
『おさがしの本は』門井慶喜
[4/211]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆
自分もよく利用している図書館が舞台。N市の図書館で「調査相談課」に従事する主人公。「調査」「相談」という大枠の言葉が示すように、範囲のない「調査依頼」が舞い込む。自分が利用する図書館にあるのかなあ、記憶がないが、さりとて依頼、相談するような事項もないのだけれど...
前半は、「調査相談課」に属する「事件」をクリアにしていく内容。レポート提出のために訪れた大学生(イメージ通り、本を読まないタイプ)、かつて図書館から借用した本を返したい、という老人の依頼、レファレンスセンター経験を積んだ主人公ならでは、の解決手法で難問を説いて行く。
そこには、いわゆる「データベース」を超えたものが存在している。キーワードの検索とか、データベースとの照合とか。もちろんそれの開発によって比較にならないくらいに便利になっているのだけれど、ここででてくる「事件」は、もちろんそれだけで解決できる代物ではない。依頼主の背景や、自らの経験値、記憶、そういう「アナログ」と、デジタルの融合によって、解決していく様は、「システム」に頼りがちな時勢に、軽く疑問をぶつけているようでもある。この「二刀流」がこなせるのが、すなわち「プロ」であろうと思う。プロである前提は、その対象(ここでは「本」)に対する情熱、愛情を持っているかどうか、というところ。
そして後半は、N市の財政状況による図書館の廃止問題にぶつかる。周到な根回しを元に「廃止」を勧める「悪役」の登場で、事態は緊迫する。当然にそれに全う勝負を挑む主人公。それにけして屈しない「プライド」を全面に押し出したり、営利企業ではなく、「公」であるフィールドに属する彼であるが、まさに「プロ」であり、図書館という施設でサービスを提供することに「プライド」を持っていることをひしひしと感じる。
実際に図書館廃止が議論の対象になっているところも、もしかしたらあるのかもしれない。自分のところはどうだろう?個人的には、「なんとなく好き」な場所である。小学生のころも、今でも利用している。だから、「あってあたりまえ」と考えていた節があるのは事実なんだけど、当然に「経費」がかかるものであるしね、議論の対象にはなり得るんだなあ、とヘンなところで思ったりした。
どんな目的であっても、そこにある本を利用して、自分が何を得るのか、というのが本質であって、その目的達成のために、「公」のサービスがあるのは、確かなところだと思うけど。市営住宅やごみ処理問題の方が優先、という「廃止派」の主張があったけど、比べてどっちが、という問題でもないような...自分が本好きだからそう思うのかもしれないけれど。
でも、小学生の時にはじめて「自分の」貸出カードを作ったこと、黄色い鞄で本を借りにいったこと、時々思い出します。今の「本好き」の原点はそこにあったのかもしれない、と思うと、少なくとも自分にとっては大きな存在。
そんなタイプの人間には、面白く読めます。「存続」派に完全に属して読むことができるから。そして主人公の本への愛情、図書館への愛情、仕事へのプロ意識、強く感じ入りました。
【ことば】「君は偉いよ...結果が出たのちも執念深く対象を追いかけた」
難解は「依頼」を解決した主人公に、上司がかけた言葉。ひとつひとつの依頼事項を「解決したらそれまで」にするのか、「自分が納得するまで完遂」するのか。効率を考えれば前者なのかもしれないけれど、後者のカタチになるまで自分を動かせるものがあるのかないのか。それって結構重要かも。
おさがしの本は
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