- あの日にかえりたい
- 発売日: 2010/05/20
『あの日にかえりたい』乾ルカ
[15/222]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★★
短編集ですが、テーマは貫かれています。タイトル通りなのですが、昔-若かったころ、現役だったころ-に何か「忘れ物」をしてきた人物が登場します。その「忘れ物」を胸に抱えたまま年齢を重ねて、体が不自由になってもそれを見つけに行く、という気持ちは捨てきれない。そんなお話が詰まっています。
人間だれにも訪れる、死という問題(それが不慮の事故でも自ら手を下したものであっても)、そして「時」、いずれも人間の力では、どうにもならないものがベースになるストーリー。なにがしかの要因で、過去の自分を俯瞰してみると、そこには「かつては持っていたが今は失くしている」あるものに気づいたりする。
時制を複数もつ物語って、とても読みにくい。同様に「書きにくい」んだろうと思う。けれども、著者はその時制、時空の空間を自由に飛び回る、心地よい文章を読ませてくれている。ものすごい才能だなあ、って思う。
現在の意識のまま過去に戻る、タイムマシン的な展開が多いんだけど、「科学的」にどうこう、という理屈をつける前に、すんなりと沁み込む感じなんですね。小説だから、っていう当然の理由を考える間もなく、先を読みたくてのめり込んでいる自分がいるんです。
小説を読むのを再開した自分には珍しいこと。
さて、自分が過去に置いてきた「忘れ物」はなんだろう。もう一度戻れるとしたら「いつ」に行こうか。過去は変えられないけれど、もしもそれができるのであれば...という気持ちにもなってしまう。本書のテーマはそうではないんですけれどね。むしろ、過去から蓄積された「今」を大事にすること、そして、予測できないからこそ輝いている「未来」へ向けて希望を持とう、というメッセージであるように捉えました。勝手な解釈ですが、ポジティブだから許容してください。
著者が何歳かはしらないけれど、「年を取る」という残酷さ、についての描写はみごとです。見た目、も含めて衰えていくのを自覚するのは悲しいことなのかもしれません。それでも、年をとることの素敵な側面を見据えていかねばならないよね。だって、抗えないし、不可能なものをどうこうしようと考えても無駄。であれば、やはり、「今」を精一杯生きて、「未来」に希望を持つ。これですよ。
著者の本、もっともっと読んでみたい。出会えたことに感謝です。
【ことば】可能性とは未来をしらないからこそ存在するのだ。
時空を超えられないからこそ、「わからない」からこそ、希望があり未来がある。知っていたら可能性ではなくて確定になってしまう。それだと輝かない。悔いないように生きることだ。たとえ途中で「忘れ物」をしても、それでもその先は悔いのない生き方ができるようにしたい。
あの日にかえりたい
>> 本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね <<
じゃじゃままブックレビュー
アイフォニアにはこれがいい!
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