2011/05/30

浅田次郎さんの「幅」を感じます。



『すべての人生について』浅田次郎②
[18/102]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

直木賞作家の、というよりも、個人的には『天国までの百マイル』で、人目を憚らず大泣きした思い出のある作家さんです。その著者の「対談集」。作家によっては、その作品の世界だけを知っていた方がよいケースもありますが、ある程度浅田さんの「素」の部分が出たこの本は、浅田さんの「世界」を損なうものではなく、より個人的な魅力が増すものであるようです。
その著作は、中国史実から、時代モノ、現代モノ、長編、短編にわたりますが、どの分野においても著者の知識、研究に取り組む姿勢は「プロ」そのもので、従来存在する作品を否定するわけではないのですが、独自の調査から独自の色づけがなされたものが世に出てきます。浅田作品をそれほど読んでいるわけではなく、もっぱら短編が多いのですが、自分としては苦手な、中国モノ、新撰組モノも、読んでみたい、という動機付けにもなりました。対談の中で「浅田さんの作品は「人」が軸になっている」という指摘がありましたが、それゆえに面白いと感じるのだろうと。キャラクターがたってる、とか、わかったようなことを言うつもりもありませんが、確かに登場してくる人物が「生きている」感じは伝わってきます。読んでいる自分のアタマの中で、その人物が動き出すような...(って、そんなに「分かっている」わけではありません)。
この本のような「対談集」って、結構読みづらい、というのが従来の自分の先入観です。それこそ、「言葉が生きていない」というか、伝わってくることが少ない、というか...でもこの本はそういうネガティブなイメージは少ない。浅田さんの「率直な」あるいは(創造に対する)「熱っぽさ」が伝わってきます。また、いろいろな分野の第一人者と「話せる」というのも、かっこいーですね。相手は小説家だけではなく、歌舞伎や、政治家とも「対等」であるのが素敵です。どの世界も、その分野で第一人者になる方は、「一流は一流を求める」ということなのでしょう。その領域に少しでも近づきたいもので...
対談の中では触れられていませんが、その作品を「創造」するための努力は惜しまない方なのでしょう。カタカナでいえば、「リサーチ」「デザイン」云々といったところでしょうが、そのベースとして「興味」があるはず。それをアウトプットする場としての「小説」に、プロとしてのエッセンスを付加していく、その工程は、まさに「プロフェッショナル」を感じます。幼少のころの家庭環境なども、その「味」を出すのに一役買っているようです。すべての経験を配合して料理に活かす。これが肝。

【ことば】...ありがたいことには、人生に無駄な努力はないのである。

実は手間のかかる「対談」に対しての、著者の「意思」である。こう思えて、そして実行する、中途半端な行動はしない。「プロ」を感じます。

すべての人生について (幻冬舎文庫)

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