2011/05/22

主人公を誰ととらえるかで変わってくる

星守る犬
星守る犬
  • 発売日: 2009/07/07
『星守る犬』村上たかし
[12/96]rakuten
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

星守る犬=決して手に入らない星を物欲しげにずっと眺めている犬。タイトルからして「感動モノ」であることが窺える。「犬」が主人公であることは、つまり献身的なことがキーポイントになっていたり、という想像の枠を、正直超えていない内容かもしれない。けれど、多くの人がこれだけ読んでいる事実は、どこかに何かがある、あるいは考えさせる何かがあるはずだ...もう1回読んでみる。
登場人物は、会社からはリストラされ、嫁さんからは離婚を言い渡される中年男性。それらの出来事とからむように登場してきた捨て犬。「二人」のお話である。限りあるお金、限りある時間。そして限りある命を携えて、旅に出る。ある意味、目的地のない旅へ。「星守る犬」...手に入らないものを眺めつつ...家庭やこれまで生きてきた環境が崩れつつある中で、「お父さん」は犬のハッピーに「正直」に語ります。これは何か身につまされる部分もあり、仕事や家庭、けして無意味に考えているわけではなく、むしろ当然に「家庭」「幸せ」のために働き続けているけれど、仕事以外の場で、どうふるまったらよいのかわからない、そんな不器用な中年男。本音を語れるのはハッピーしかいない、という悲しくも、情けなくもある人生。ハッピーがいるだけ幸せなのかもしれません。「おとうさん」はその後、ハッピーと二人きりになりますが、その時にも、会社や家庭に対して、過去の「幸せ」に対して、何か文句をいうことなく、ハッピーとの「今」を大事にしています。でも、同じ年代の自分として、勝手に「おとうさん」と重ねてしまうと、ものすごく「つらい」時間だと思うのですね。ハッピーとの時間を過ごしながら、でも過去のことを否定することもできない。振り返って「あの時こうすれば」ということの無意味さも知っている。奥様のこと、娘さんのこと。口にしないのは、忘れることができたから、ではない。それはたとえ今はすでに形としてなくなっていても、「おとうさん」の人生の一部であるのだから。
犬の献身さをとらえるのか、おとうさんの哀愁に目を向けるのか。自分は、「重なる」部分から「おとうさん」ベースで読みました。幼少のころにそばにいた犬のことも思いだします。
「星守る」=手の届かない星、それを眺めることは、無駄ではないですよね。

【ことば】望んでも望んでもかなわないから望み続ける...人は皆生きていくかぎり...「星守る犬」だ。

慣用句としては「手に入らないものを求める人」。それが人間、それが人生。手に入らないものを求めることは、無駄な行為ではない、前に進むために必要なことだ。

星守る犬

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