2011/04/11

重さと軽さ、バランスがここちよい。

図書館の神様 (ちくま文庫)
図書館の神様 (ちくま文庫)
  • 発売日: 2009/07/08
『図書館の神様』瀬尾まいこ③
[8/73]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

過去の「傷」を持ちながら、教師となった主人公・清。文芸部の唯一の部員である、これもなんらか「傷」を持っている垣内君。お互いにそれに触れながら、深入りしないようにしながら、それぞれの環境と、そして「部活動」の時間が経過する中で、内外の変化を受け入れながら「成長」していく...そんな姿が描かれている。ふたりの関係は、表面的ではあるけれども、少なからずお互いに影響を与えていくようで、ゆるい考えから「講師」という選択をした清は、自分でも気付かない中で、「何か」が変わっていきます。理想の教育像とはかけ離れていますが、ヒトとしての成長が気付かないうちになされていく。
扱われている素材は、「自殺」「不倫」といった、けして軽いものではない。けれども、そこを超越する「空気」ともいえる時間の流れがあり、その重い素材でありながらもさわやか印象を持つストーリーに。これ、すごいですね。筆の力、なのかな。瀬尾さんの著作はまだ3冊目ですが、軽快な「おしゃれな」ストーリーの中に、「死」という重いテーマが含まれています。これって敢えて「小説」で組み入れるような素材ではないかもしれないけれど、現実社会では普通にあること、ですね(もちろん友人の死、なんてめったにないかもしれないけれど)。生きる、というテーマの中には当然に「死」というものも含んであるのだろうと思われます。
物語の最後を締めるのは、3通の手紙です。不倫相手から。文芸部の垣内君から。そして以前「死」を選んだ同級生の親から。もちろん、小説ですから「手紙」が似合うわけですが、このあたりの「アナログ感」が、やっぱりいいですね。これが「携帯メール」だったら。ちょっと冷めてしまうもんね。そういう細部にわたる展開が、主人公のキャラクターも含めて一貫しているのが、文芸としての作品の「ブランド」を高めているひとつだと思う。自然に。不自然も自然に。そっけない言葉のやりとりを読みながら、「勝手に」その本質的なところを想像して「勝手に」感動する。文学のそういう楽しみ方も、いいもんですねー。

【ことば】先生の明日と明後日がいい天気であることを祈っています。

卒業後に、文芸部・垣内君が先生・清に送った手紙。ちょっと「おしゃれ」すぎかもしれないけれど、ここから「想像」をたくましくするのは読者。この本を読んだ読者だけですね。この行為が「面白い」と感じます。送った生徒、送られた先生の気持ちも含めて。「想像」というか「創造」かもしれないけど。

図書館の神様 (ちくま文庫)

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