2012/06/27

二つの世界を繋ぐもの...求めるべきものは

マボロシの鳥
マボロシの鳥
  • 発売日: 2010/10/29

『マボロシの鳥』太田光
[17/114]Library
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★★☆

爆笑問題・太田光の小説。癖のある芸人がどんなものを書くのか...文学批評ができるレベルではないので、個人的な感想になるけれど、かなり「良」であります。本書は表題作を始め全9編の短編集。連作ではなく個々の短編が独立していますが、それらを貫くものは確かにあったかと思われます。

各編に見られたのは、二つ以上の平行するストーリーがあって、それがどこかで「繋がる」ということ。自分が今いる世界は、過去の、或いは別の世界に影響を及ぼし、また影響を受けているということ。意識する意識しないは別にして、俯瞰してみると「繋がり」が見えてくるのです。


貫くもの、それは「繋がり」。過去の出来事と今目の前で起きていること。「宿命」は今起こっているのではなく始めから予定されていたこと。 自分が大事にしていたことを時が経ってから見つけること。一人で生きているようで、実は他の人と繋がっていること。子供たち世代に伝えるべきこと。
 
震災以降、「繋がり」という言葉がややインフレを起こし、その本質が傾いていた時期が確かにあったと思う。ようやく、本当の意味での「繋がり」が生き残ってきた。質の低いものが淘汰されてきたのだ。
繋がり、絆。 この世に生をうけて、見つけるべき意味はこれなのかもしれない。
全篇通して読んだときに、そんな気持ちになった。そんなメッセージが伝わってきた。

芸人としての著者の「こだわり」も垣間見える。表題作「マボロシの鳥」の中で、落ちぶれた芸人がいうセリフ。
「芸人が、なぜ、自分の芸をお客に見せたいと思うか...お客を喜ばせたいとか、楽しませたい、なんて言うのは、後から付けた理屈だよ。一番の理由は、この客には、今、自分が必要なんだって、確認したいからだ。」
どんな世界でもそう。他人を喜ばせたいと思う気持ちは、これは嘘ではないけれども、他人を喜ばせることで自分が幸せになれるからだ。自分が必要だ、と感じることができることが行動の原動力であるのだ。そして他人に喜んでもらうには、自分が幸せである必要がある。こうして、「幸せ」が広がっていくんだろう。

ところどころ、「爆笑問題の太田」が登場する。本筋にチャチャを入れる役目として。そこが小説的ではない、という見方もあるだろうけれど、そこは「個性的」で自分としては好ましく思った。各編のストーリーや構成を云々言うよりは、最後まで読み切って全体感を味わう方が、よいかも。


【ことば】それまで、未来など自分とは関係ないと思っていたのに。自分と、自分がいなくなった後の未来など、何の繋がりもないと思っていたのに。...この子は、私が未来へと託す、タイムカプセルだ。

自らの人生体験から厭世的になっていたポールが、自分の子が誕生すると知った時の感覚。生命の誕生は、そう、エネルギーを生み出す。自分の子だけではなく、世界の子どもの誕生も、同じエネルギーだ。

マボロシの鳥


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