2012/06/01

そこにあるのは「人間」「生きる」ことでした。

トライアウト
トライアウト
  • 発売日: 2012/01/18

『トライアウト』藤岡陽子
[1/98]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

タイトルから想像できるように、「プロ野球」で戦力外通告を受けた選手の最後のテストである「トライアウト」がその意味。「まだできる」と思い、現役を続けるための場に全力を注ぐ選手。それを取材する記者。それぞれがそれぞれの「過去」を捨てきれない思いをもったまま、ストーリーは展開していきます。
いわゆるスポーツもの、だと想像していましたが、さにあらず、人間模様であります。過去の栄光を持ちつつも、戦力外という「今」の事実にどう立ち向かうのか。過去に「傷」を持つ記者が、それを越えられる何かをどのように体得していくのか。環境、立場が違うように見える主人公二人が、「過去や現在」をどう受け入れるのか、という人間の根幹的なドラマを描いています。
環境が自分を追い込むという場面もあるでしょう。自分ひとりでは何もできない、という局面もあります。それに対して自分としては「乗り越えた」と思っていることが、はたして本当の意味でそれを脱しているのか分からない。外敵に屈することなく、前を向いて歩く人にも、少なからず引きずってしまっているものがあるのかもしれません。
主人公の女性記者の持つ「暗闇」は、なかなか明かされることなくミステリアスのまま、話は展開していきます。一方でトライアウトに臨んだ「過去のヒーロー」は、あくまでも前向きの姿勢を見せてはいますが...ひとりの人間の人生、アップダウンは当然にめぐってきます。誰しもが程度の差はあれ経験することなのかもしれません。そしてその「程度」を決めているのは、他ならぬ自分だったりします。
男である自分は、戦力外通告を受け、トライアウトに参加し、それでも現役にこだわる姿勢を貫く選手に同調してしまいました。実は「前向き」な姿勢も、単に自信家であったり楽観主義であったりするわけではなく、自身の状況を受け入れてはいるけれども、「敢えて」強がっている部分も垣間見えたりします。一方の女性記者は、シングルマザーという環境の中、「仕事」を優先しますが、仕事優先の姿勢を崩さないのは「自分への正当性」を維持し続けるためだったりします。何が正解、とかはありません。「強い」自分を見せているんだけれども、「弱い」部分もその中にはある。そんな人間クササがにじみ出ます。
おそらく読者によって共感を感じる人、場面、さまざまだと思います。自分のように、タイトルから「野球もの」だと勝手に勘違いして読む人も含めて、この「人間クササ」には、カラダが熱くなるもの、あります。特に人生経験がある程度長くなってきた人、自分の中で大きな変革期を迎えている(経験している)人には、しみじみと没頭できる、ストーリー。

【ことば】...店長に言われたことを大事にしてました。何やるにも本気でやれって。自分に言い訳できないくらい本気でやれって。

本気でやって、見えてくるものがある。必ずしも「成功」だけではないけれど、本気であることで見つかるものがある。投げ出すのはいつでもできる。本気でやるのは今しかない。本気でやらなかったら、つまらないよね。

トライアウト


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ナナメモ
穏やかな時間(とき)の中で




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