2012/06/26

引き込まれたのは、原作のよさとアレンジの妙

新釈 走れメロス 他四篇
新釈 走れメロス 他四篇
  • 発売日: 2007/03/13

『【新釈】走れメロス 他四篇』森見登美彦
[15/112]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

表題をはじめ、5つの名作古典をベースに、現代風に大胆にアレンジされた短編集。その5つがビミョウにつながっている、という設計も見事ですが、その作品が書かれた当時の時代背景と、現代の社会が見事なマッチングで描かれています。

以前に、「パスティーシュ」という作風が取り上げられたこともあったが、それとも異なる。古典の展開、テイストを本質的な部分を崩さずに、微細な「脇役」を現代に置き換えた感じ。昔の楽曲を自分の色をつけてカバーしたアルバム、そんなイメージです。


森見さんの作品を読むのは初めて。そして恥ずかしながら、ここに掲げられた「原作」をどれも読んでいないことに気づいた。『走れメロス』は読んだ気になっていたが、太宰の他の作品だったか。もちろん「原作」を読んでいる人には、とても刺激的な内容だと思う。もしかしたら賛否両論あるかもしれないが、大きな構えで読めばきっと新たな発見もあるのではないかと。
そして、(私のように)まったく読んでいない場合でも、十分に楽しめる。著者が「あとがき」で触れているように、原典を読んでみようか...というきっかけにもなった。

5篇の中で、特に引きつけられたのは(やはり)「走れメロス」である。そのスピード感、著者(太宰)の筆も早かったのではないか、楽しんで書いているのではないか、と思われる、その空気が伝わってくるような。やはり原典を早々に読まねばっ、と。
京都を舞台に、一風変わった学生たちが躍動します。全篇が別々のようで小さなつながりがあり、そのテクニックに唸らされました。

曲解されるとよろしくないけれど、古典はこのようなカタチでも受け継がれていくもの、という感覚を改めて思います。よいものは時間を経てもいつまでもよいものであり。その意味で、この本に巡り合ったのは自分にとってもいいきっかけになります。...といってすぐに原典を読まなくては意味が半減してしまいますね。

【ことば】男は自分が確かに掴んでいたはずの世界がどこかへ消えてしまったことを考えました。それを何とか取り戻そうと思っても、男にはもうしの在処がわからないのでした。

「桜の森の満開の下」より。自分ではない者のペースで「見た目の」成功を収めても、そこにいるのは自分なのか、迷う時が来る。自分が本当にあるべきは...答えはないし、答えは変わるのだけれど、それを追っかけるのが、すなわち生きることなのかもしれない。

新釈 走れメロス 他四篇

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思いつくまま気の向くまま
そして今日も砂を積み上げるような本の感想



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