2012/06/14

最後の最後まで「緊張感」

四龍海城
四龍海城
  • 発売日: 2011/07

『四龍海城』乾ルカ③
[9/106]Library
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★★★

地図に載っていない塔、不気味な城が海の先に存在する。インターネットの「噂」では、一度訪れたものは二度と帰れないという...中学生の主人公は憂鬱な時間をその城が向こうに見える海で過ごしていた。何かに導かれるように「城」に近付いた彼を待っていたものは...
そこは日本でありながら日本ではなく、そこにいる人は日本人でありながらも「城人」と呼ばれる無気力無感情人間であった。自ら、あるいは「さらわれて」この城に来た日本人は、やがて帰ることが不可能であるとあきらめ、無気力無感情な「城人」になって、この地で過ごすことになる。
ここを出るには「出場料」が必要だという。ただ、その出場料が何であるのか、カネなのかモノなのか、それすら探る手がかりがない。主人公はそれを探し出すために、城で巡り合った友人と必死になるのだが...
序盤早い段階から、この不可思議なミステリアスな世界に迷い込みます。情景描写もよくイメージできないほどに空想的なのですが、「出られない」環境にあるものが、「出る」ためのチケットを探すために奔走する...中学生の主人公、絡む大学生、城滞在が長くなっている看護婦や教授。限られた登場人物も個性的で、徐々に「答え」に迫っていく感じが読むスピードを速めます。
なんとなく途中で見えてくるものはあるものの、最後まで、最後の一行まで緊張感が続く感じです。気がつけば残りページ数が少なくなってきて、「これはこんなハッピーエンドか?」と思わせるものの、最後の最後まで、ロスなく読み切ることができる。結末が気になって電車に乗り続けたのは久しぶりの体験でした。
四龍海城という場面が「裏社会」的なダークに包まれていますが、登場人物のアクティビティがそのダークさを越え、けして「暗い」だけの読み物にはなっていません。拙いながらも大学生の力も借りて、出るための答えを見つけていく中学生の思い、その過程で得られた大切なもの、つかみきれない環境の中で、確かに掴んだものが、全ての答えだったのです。読後の「整理」しちゃったりするとそれほどでもない気がしますが、読んでいる時の引き込まれ感覚は尋常ではありません。完全に入り込んでしまった自分がいました。

【ことば】「本当にきれいなのは、建物じゃなくて...そういうのと一緒に、もう二度と戻らない時間を見ている気がする。きれいに思うのはきっとそのせいです」

写真好きの少年が持っていたのは、蔦の絡まる家の写真。なぜその写真を撮ったのかという問いに「きれいだから」と答える。大人びた中学生の言葉だけれど、ぐっとくるものが、ある。

四龍海城


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