- 金色のゆりかご
- 発売日: 2008/06/20
『金色のゆりかご』佐川光晴
[13/110]Library
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★★☆
2000年デビュー以来、芥川賞候補5回も!という著者。自分にとっては初読みです。本書は「望まない妊娠」をした女子高生を中心に、それを取り巻く社会環境を突くストーリー。「社会派」っていうんでしょうか、男性でしかも若者ではない自分にとっては、縁遠い話題でしたが、子を持つ親としては深く考えさせられる内容でした。
鬱病でしばらく休養を余儀なくされた研修医と、望まない妊娠をしている女子高生。その二人を中心に話は展開していきます。女子高生の家庭環境、母親の考え方、生まれてくる命に対する大人たちの対応など、「生まれてきても育てる環境にない」現実と、「中絶可能な時期を過ぎて生まれてくるのを待つ」迫る時間との間で、「大人」たちは、現実的な選択をしていきます。
ただひとり、実際に「母」になる女子高生は、生まれてくる新たな生命の尊さを、愛を高めていきます。その主人公に協力する医師たちが表れ、ストーリーは大きく転換していきます。
前半はそのような「実際に起こっている現実」を、そのある意味ショッキングな出来事が繰り広げられますが、後半は、日本の、国としての「養子」に対する取り組みの不備、裏社会の現実、が中心になります。通じて、けして軽くない話題が中心にあるため、正直「重い」のですが、でもこんな問題が(自分の目に触れないだけで)存在していることを、初めて知ることになりました。
ヒトゴトのように語るのは無責任ではありますが、生まれてくる命は、たとえ母の胎内にいても、一人の人間であり、その命の重さはなんら変わらないものと考えます。「親」となるべき大人たちの都合で決められてしまうことに、大きな違和感を感じます。宗教的ではないですが、親たちからみれば「授かりもの」であって、新しい命からみれば「人の世に生まれるべくして」生まれるものだと思うので。
この「重さ」を本当の意味で認識できるかどうか、「望まない妊娠」の問題はそこにあるような気がします。自分にも子どもがいますが、その誕生の瞬間の、これ以上ない喜びは忘れることができないほど、自分の人生の最大の出来事。男親なので、ちょっと距離感はあるかもしれませんが、それでも子どもを愛してやまないのは、「生まれてきてくれてありがとう」という気持ちが、自分の根底にあるからです。
現実問題として、表にはあまり出てきていないようですが(自分の感知力が乏しいのかもしれない)、生命の問題は、この世に生をうけた人間として、真剣に考えるべきものだと確信します。国際社会の中でも、この問題については日本はかなり遅れている、という記述があります。なんらかできることがあれば、考えてみたい。
ストーリーとして、最後にどうなるか...というドキドキ感が続きます。残りページが薄くなっていくにつれ、「どうなってしまうんだろう...」と思いつづけながら読みました。「続編」を待ちたい、読後はどこかにないかが挟まっているような違和感が残っていますので...
【ことば】どんなに可能性が少なくても、どんなに苦しくても諦めるわけにはいかない。そのために一生を費やすことになるかもしれないが、それとて望むところだ。
社会的な立場、金銭、生きていくために必要なことはたくさん、ある。けれど何よりも大事なのは、命だ。それはオトナとかコドモとか、赤ちゃんとか、あるいは人間以外も、同等に、平等に、大切なもの。
金色のゆりかご
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