2012/06/18

小説のテーマとしてあげる着眼点に脱帽

神去なあなあ日常
神去なあなあ日常
  • 発売日: 2009/05/15

『神去なあなあ日常』三浦しをん⑦
[11/108]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

就職が危ぶまれた若者が、送り込まれた「職場」は...神去村という山奥。携帯電話すら通じない(ホントに通じないかどうかは...)山の中での「林業」という職業。横浜育ちの主人公にはもちろんかなり異次元な世界。実際に何度か「脱走」を試みるも、逃げることすらできない環境の中で、次第にその自然、そして人間関係の「中」に入っていく姿がなんとも味のあるストーリーで描かれます。

しをんさんの世界は、変わらず「人間」は中心になっていて、林業という効きなれない世界においても、やはり中心は人間です。クセのあるキャラクターが躍動し、最初はとっつきにくかった(主人公にとっても、そして読者にとっても)人たちが、気がつけば味のある「いいやつ」に変わっていました。

そして本作でいうと、林業、山という日常の暮らしでは触れることがあまりない世界の、魅力とそして苦悩が、感じられます。まるで著者自身がそこにいるような、そして山の世界における「男衆」であるような微に入り際にいる描写。「プロフェッショナル」を感じずにはいられません。自分の周りとはまったく異なる世界を垣間見れるのが、しをんさんの小説の、魅力のひとつだと言い切れます。

なんの知識も、もちろん経験もなく放り込まれた神去村で、主人公はひとつひとつ「山」を学んでいきます。そこには一所懸命な若者に対する村の人たちの温かい協力があります。実際の仕事だけではなく、花見、祭りといった村人総出のイベント、このイベントになんらかのカタチで参加して、参加するごとに「村」の中の人になっていく若者。ちょっとした「恋愛」スパイスもあったりしてストーリーの色づけとなっています。

そして本書のタイトル。最初にタイトルだけ見ると意味不明ですが、口に出して何度か読んでみると、不思議な魅力があることに気づきます。「なあなあ」=ゆっくり行こう、まあ落ち着け、っていう神去の言葉ですが、これが本書の中一貫して「なあなあ」で貫かれているのです。いい感じの温かい言葉であることが自然に体感できるのです。

山という大自然が舞台ですが、古くから伝わる「伝統」と、職業としての「林業」を誇りを持って大事にする村人たち。その魅力に、本人も気づかないうちに惹かれていく都会育ちの若者。そこで生きる人間を中心に描かれたしをんワールドに、またたくまに引き込まれる本書です。


 【ことば】まだまだ神去村のこと、ここに住むひとたちのこと。山のことを、知りたいって思うんだ。たしかなのは、神去村はいままでもこれからも、変わらずにここにあるってことだ。

最後の方にでてくる主人公の科白。つまりこの場所が自分の居る場所である、って気がついたんだろう。それまでは脱走を企てても、結局それに気づいた彼は、幸せなのかもね。


神去なあなあ日常


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本読みな暮らし
ポコアポコヤ

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