2012/01/14

この世界観はキライじゃない。

つむじ風食堂の夜
つむじ風食堂の夜
  • 発売日: 2002/12

『つむじ風食堂の夜』吉田篤弘
[7]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

ご近所がみーんな知り合い、くらいの規模の町にある食堂が舞台。そこの「通称」つむじ風食堂に集う人たち。それぞれが苦労しているけれど、その町に住み、その食堂に集うことに小さな幸せを感じている人たち。主人公の文筆家、売れることを夢見る女優、町の帽子屋、果物屋。

それぞれが、夢を持っている人たち。でも大きく飛躍できるわけでもない、結局は「普通の」日常が続くだけだったりする日々、なんだけど、顔見知りの中で生きる彼らは、なんだか幸せそうです。一人暮らしの者もいるんだけど、「食堂」が軸になって、それぞれが一人ではない、っていう温かさを感じているかのようです。

「いきつけの店」って、社会に出る前に憧れてました。店長、マスターと言葉を交わして、「いつもの」って言えるような店に。社会に出て、自分で使える時間、お金ができても、「いきつけ」は実現できていないんだけれど...なんだかいいですよね。昭和っぽい、って感じもしますが、たまに先輩、同僚につれてってもらう(彼らの)「いきつけ」って、なんだかかっこいい。 味がどうとか、いうよりは、そこに集う顔ぶれだったり、その空気だったり。「大人っぽい」ね、いいなあ。

そんな日常で起こる、ちょっとした出来事が起こりますが、これは「縁」というくくりになります。 たどっていくと、数年前の子ども時代の「場所」に行きついたりします。そしてその結果見つけた「過去」を、「今」考えることで、自分の中で何かが起きます。当時は言えなかった言葉。当時の「大人たち」の気持ち。なんだかんだで親の持ってるものを引き継いでいる自分。

過去を振り返ることはけして悪くない。現在あるのも過去があったから。後悔するような出来事であっても、それを乗り越えて、それを経験したからこその「今」。振り返ってばかりでは前に進めないけれど、過去を大事にすると温かいのだなあ、って思います。

特別な盛り上がりもないし、狭い世界の人間の行動だけしか描かれていませんが、それが心地よい読後感をもってきます。大金持ちもいないし、暴走する若者もいない。大人の世界ですが、自分のような年代の人が読むと、なぜだかグっとくるものが...

「生きる」って、シンプルだけど難しい。難しいけれど、シンプルなのかもしれない。そんな「日常の中の幸せ」を見つけられる世界です。
 「まったり」という言葉が一番合っているかな。

【ことば】「...もし電車に乗り遅れて、ひとり駅に取り残されたとしても、まぁ、あわてるなと。 黙って待っていれば、次の電車の一番乗りになれるからって」

この「ゆるさ」が、幸せの極意かもしれません。あくせく先を急ぐのがすべてではない。急いでいった先に探していたものがあるかもしれないし、急いだために見過ごしたものがあるかもしれないしね。
いずれにしても「駆け込み乗車は危険」なのだ。


つむじ風食堂の夜


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日々の書付

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