- 天国はまだ遠く (新潮文庫)
- 発売日: 2006/10
[18/121]BookOff
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆
自ら命を絶つ場所として選んだ場所で、その大自然、その土地の人と触れることによって、自分の「居場所」を見つける。23歳の女性が主人公の話です。自殺を思い立った動機は「ストレス」なのか、その場所を選んだのも特に意味はなく。が、未遂を犯すも命は取り留めた日から、その場所で主人公は「自分」を見つめ直していきます。
瀬尾さんの小説によく出てくる題材は「死」。これだけ見ると殺伐とした冷たいイメージですが、軽快な話の展開、主人公や登場人物の発する言葉の「洗練」によって、悲観的なイメージはありません。むしろ、「死」という究極の場面に立つ人物が、そこから改めて「生きる」ということを見つけていく、そんなストーリーが多い。引き込まれます。その話の組み立て、重すぎない、かといって軽すぎない文体は見事に自分にはまっている感じがします。
結果的に、「自分の居場所」を自ら見つける、見つける意思を強く持ち行動する、という結末を迎えます。これを見ると、ハラハラする展開がない平坦なもののように思えますが、読んでいる最中は結構ハラハラしてました。どんな展開になるんだろう...前にあったあの事件は何かの複線なのではないか...など、自分勝手に想像を膨らませて読んでいましたね。そういう読み方ができる(させる)小説は、エンターテイメントですね。文才が乏しい自分にはうらやましいけど、そんな世界を「体験」することができたことに素直に感謝。
決意をした夜に泊った民宿で出会った人物は、マイペースながら人間味あふれるキャラクター。そんな主人公を責めるでもなく、結果的に訪れた別れを悲しむでもなく、淡々としているけれども、確実に「居場所」を持っている人物。それに刺激を受けたのか、死の直前までいった主人公は、一回り大きくなって、自分の居場所に戻っていく。これは偶然にそんな人物との出会いがあったのではなくて、「必然」なんだろう。そんな意味がタイトルから見えたりもします。
最後のあとがきで、主人公を優しく包んだ土地が、著者自身が体験した地がベースになっていることを見て、リアル感、というか小説の中の人物、出来事との距離が縮まった気がしました。まるで現実のように感じられます(もちろん、著者が自殺のために彼の地にいたわけではないけれど)。ビジネス書で「現実」ばかりを読んでいると、こういう世界もいいなあ、って思っちゃいますね。たまには。
【ことば】「そりゃ、悲しい。あんたやなかっても、人が来て去っていくのは悲しいもんやろ」
主人公との別れ際、民宿の主人が言った言葉。民宿をやっている人間がどうよ、って思うけれど、去っていく主人公に対しての思いがこもった言葉だと思う。きっと、「他の人が去っていくよりも悲しい」というのが隠れている。でも、それぞれの居場所。それぞれの人生。別れの後にはまた、新しい出会いがある。
天国はまだ遠く (新潮文庫)
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