2011/06/14

科学っておもしろいね。科学者もおもしろい。

『働かないアリに意義がある』長谷川英祐
[9/112]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

話題になっていたけれどもなかなか入手できなかった本。タイトルから(勝手に)創造して、「働かない」=効率を求めない働き方の意義、というビジネス寄りなものを期待しつつ...内容は、ほぼ「そのまんま」、アリの生態についての科学読み物でした。けれど、おもしろい。アリ=働き者のイメージがあるけれども(幼少時の刷り込みって恐ろしい)、実は働かない働きアリが存在するという。表面的な知識で、「そのような種は絶滅に至るのでは」と考えてしまうが、さにあらず。科学者は「反応閾値」という言葉を使っているが、刺激に対して反応する段階が異なる種が混在するコロニーは長く継続するそうである。つまり幼虫の世話など、すぐに対応しなければいけない行動を起こす者、それには刺激を感じずにコロニーの補修に行動を起こす者、それぞれが反応する場面が異なる、そしてそれゆえに、普段は「働かない」アリがいざという時の「リリーフ」として存在する。ハチが蜜を見つけた時に、そのターゲットの容量によって、動員する集団数が変わってくる。これにも「働かない」意義が見いだせる。獲物が少ない時は少ない集団で(その時は「働かない」部隊が存在する)、大量にあるときや、先鋭部隊が疲労している時は、「リリーフ」が投入される...一見「働かない」非効率がクローズアップされそうだが、この仕組みにより、「全体効率」が保たれるわけだね。すごいねー。生物学っておもしろい。
一時期著者たちの研究に対して、「この人たちってひまだよね」的なコメントがあったらしい。著者はそれを見て「笑ってしまった」ということだが、ひまそうに見えて、その実、結構大事なことをしているのかもしれないよ。「働かない」とは言わないけれど、「今」は無駄に思えるようなことでも、どこかで何かにつながっている可能性はある、というか少なくないんじゃないかな。つまりは「無駄なことはひとつもない」ということだよね。
意識的に行動しているわけでもないし、女王は存在しても、階層社会ではないアリ、ハチが、「社会」を構成して、そして維持し続けている、というのは、何かそこにあるんだと思う。人間のように「個」の意味合いは強くないのかもしれないけれど、コロニーあるいは種全体の最適化がなされてきているんだろう。「進化」しているわけだよね。生殖についても「遺伝子を次世代に残す」という原始的な(人間の見方ですけれど)意味合いが強く反映されているけれども、速度は別として、彼らも「強い」種を残そうとし、そのシステムが続いているわけなので、いつか遠い未来に、アリが進化しているのかもしれないね。
当初の目論見「ビジネスに活かす」は、読んでいくうちにどうでもよくなりました。生物学を真剣に熱く極めようとしている著者が、ある意味うらやましい。学者さんなのでもちろん文書は「先生」っぽいですけれど、少年のように「熱い」です。熱さを感じました。

【ことば】...人間が動物と異なる点は無駄に意味を見出し、それを楽しめるところにあるのではないでしょうか。

「ひまな人たち」とコメントされた科学者が言うことだけに重みがあります。無駄ってなんだろう。効率ってなんだろう。あまりにも「効率」重視の歩き方って、つかれるよね。余力のある進み方、これがポイントなんだろうと思う。

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

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