2011/11/30

読後の感想は「涼」です

神様のカルテ (小学館文庫)
神様のカルテ (小学館文庫)
  • 発売日: 2011/06/07

『神様のカルテ』夏川草介
[20/207]bk1
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★★☆

かなり話題になった本で、ドラマ(?)にもなったよう。映像は見ていないので先入観なしに読み始める。タイトルから容易に想像できるが「医者」が主人公である。前半中盤にかけては「神様の」という意味合いは出てこない。かなり個性的なキャラクターの主人公である。夏目漱石を敬愛して話し方も古臭い...ってなかなか小説に用いるのに出てくるアイデアではないよなあ、ってヘンなところに感心。

主人公は、田舎の病院に勤める若い医者。「24時間365日」という崇高なビジョンを掲げた病院で働くが、「理想と現実」はどこにでもある話で、そこで「24時間365日」働く側としては、過酷な環境。その環境に対しては違和感を持ちつつも、また、「もっと楽であろう」大学病院への誘いとの選択に悩みつつも、職場の仲間、住居(集合住宅みたいなもの)の仲間とのやり取りの中で、また当然に「仕事」を通じて、何が本質であるのかを見つけていく、という内容。

登場人物や背景については、「漱石」流になっていたり、消化器系の専門で、アルコール依存症の患者対応をしつつも、自身も「お酒大好き」なところがあったり、医者という側面と、個人としての側面が、離れているようで一致する方向に進むようで、コミカルに描かれている展開が心地よい。 過酷な勤務をこなし、その環境に必ずしも満足していないように見えつつも、「職務」については真剣であること。その「熱さ」故に、周囲から変人扱いされながらも、「自分のコア部分」を強くもっていて、前を見る視点にぶれがない。その中で、最後には、見つけるんですね。自分にとっての「方向」を。

小説の中ではあるけれども、こんなキャラクターに好意を抱くのは当然かもしれない。医者を職業にしていてもその中でいろいろな選択肢はある。「医学」を極める人もいるだろうし、目の前の苦しんでいる人を(たとえ自分の専門外でも)助けることに生きがいを感じる人も。それを最後に選択する。悩んだ末、というよりは、諸々の「事件」を経験する中で、自然と選択が固まったのだろうし、そもそも自分の中にあった結論を肉付けして表出しただけのような気もする。

そして、意外にも(想定していませんでしたが)、泣ける場面がありました。正確にいえば、涙がでてきてしまった場面が。電車の中でしたが耐えきれかなった。それくらいのめり込めるストーリーなのです。
 
専門的にみれば、地方の医者不足や、医療全体の問題、もっといえば「命の問題」も含めて、結構「重たい」テーマなのかもしれないが、キャラクターの設定もあってか、軽快で読みやすい。ドラマ化されるだろうなあ、っていうノリでもあるが、若い人も、若い「と思っている」人も受け入れられる内容です。

【ことば】...法は患者を守るための道具であって、法を守って患者を孤立させていては意味がない。そこを判断する裁量くらいは現場の医者にあってしかるべきである。

重篤患者の「親族ではない」人への情報告知の場面。「決まりだから」親族以外には話さないのが正しいとは限らない。その患者に「命よりも大切なものをもらった」非関係者に告知する場面。当たり前なのかもしれないけれど、法は何のために存在するか、という本質を見失わなければ、答えはでる。


神様のカルテ (小学館文庫)

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