2011/11/06

あー「昭和」。あー「下町」。温かい。

ナイン (講談社文庫)
ナイン (講談社文庫)
  • 発売日: 1990/06/08

『ナイン』井上ひさし
[5/192]Library
Amazon ★★★★★
K-amazon ★★★★☆

こういう日本を代表する作家の本は、少なくとも1回は読まなくてはいけないよね。なんとなく縁がなくてこれまで読んでいませんでしたが、どこかの教育雑誌の「小学高学年への推薦図書」に入ってきたのがきっかけで読んでみた。
70年代から80年代にかけての東京。小岩、亀戸、船橋あたり。都心ではなく、高度成長時代に、少しだけ遅れていた地域、すなわち、いい意味での「旧」と、避けられない「新」が、微妙なバランスで成り立っている街が舞台です。短編なのでその背景はまちまちですが、小説家なのか劇作家なのか、とにかく好奇心旺盛のモノカキが、街中で拾う「コネタ」。それがまた「人間」くさいもので、というか、人間の生活そのもの。小説のテーマにもならないようなものではあるけれども、ひとつひとつの会話、行動から、その背景の推察まで、みごとに「小説的」に仕上げています。
そして、短編でありながら、最後にみごとな「オチ」が用意されているのが絶妙。ちょっと皮肉的な、でも人間だから、っていう下町的な、ノスタルジーも含めて、ホッとするようなオチが最後にやってきます。教育系雑誌の「推薦図書」としてはどうかと思うような「大人の」シュールなオチもありました(個人的にはこれが一番面白かった)。
昔を懐かしむ、ってけして悪いことじゃないですよね。昔のいい思い出(いやな思い出は意識的に或いは無意識に消されているかも)だけに固執して、現世を厭うのはどうかと思うけど、今があるのは、昔があるから、という「蓄積」という考え方に気づけば、素直に昔を「受け入れる」ことができれば、今、そして未来、ってその大切さが違ってみえてくると思う。変わらないのは、主人公たる「人」ですよね。周りは進化して、便利になったり、逆に昔を懐かしんだりしても、それらを思う主体は「人」。少なからず「進化」しているかもしれないけれど、人間そのものは変わらない。だから本書にでてくる人間模様は、30年経った今読んでも、温かくて、なんだか(うまくいえないけど)うれしいんだよね。不思議な感覚だけど、「読んでよかった」という読後感です。こういう本を読む、というのが、自分にとってプラスになる。そんな「出会い」を大切にしたいし、積極的に「読むべき本」に出会いにいきたい。

【ことば】...うまく行かないときは、このことばを思い出してください。『困難は分割せよ』。焦ってはなりません。

なんちゃってコンサルがいうと「ウソ臭い」言葉も、かつての教え子に修道士が言い含めて伝える言葉としては重い。ましてそれが「最後の言葉」ともなれば...大事な愛すべき者との別れの際、自分なら何を伝えるだろうか。そこまで貫ける愛はあるだろうか。


ナイン (講談社文庫)

【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね

keiの日記☆
こんにちは、つきのみどりです

0 件のコメント:

コメントを投稿

Twitter