2011/11/22

まさに「生きること」の意味、「学ぶこと」の意味がここに。

生きること学ぶこと (集英社文庫)
生きること学ぶこと (集英社文庫)
  • 発売日: 2011/05/20

『生きること学ぶこと』広中平祐
[15/202]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

数学のノーベル賞「フィールズ賞」を始め、数々の受賞をされている世界的な権威である著者。数学者って、自分にとっては遠い存在ではあったけれども、本書はその権威をタテにとらず、人間としての広中さんが、生きること、学ぶことを「若者」たちへ送るメッセージであると受け止める。「若者」ではない自分にも教訓として得るものは多数(著者からすればハナタレ程度の「若者」かもしれませんが)。
何度も出てくる言葉に「創造」というキーワードがある。生きることはすなわち創造=何かを作り出すことであり、学ぶことはそのためのレベルに到達するための前提である。
著者自身が言うように人間は学んだことを忘れる生き物であるけれど、忘れる前提でも「学ぶこと」は必ずプラスになる。「学んで忘れる」ことと、「学ばない」ことは同義ではないのだ。勇気づけられます。本を読んでも忘れることは多い。というかほとんど忘れてしまう。でも、何かのきっかけに「思いだす」ことは少なくない。きっとアタマのどこかに収納されているのだろう、と思うと、インプットして引き出しを多くしておくことの意味も出てくる。引き出しの整理も時には必要であろうが、幅広い知識、情報を入れておくのはけして無駄ではない、ということが心強い。知識を知恵に変えることが次の段階では重要だけれども、そのレベルに達するには、それまでの蓄積が必要なのだから。
著者が、前人が到達できなかった理論に達したのは、努力、そしてその原動力となった興味関心だという。これが本書のポイントである。世界的な数学者になれずとも、自分の心の底から湧きあがる興味関心に気づいて、それをカタチにする努力は、自分にもできることだ。ゴールに達するまでは挫折や障害、数々壁があったと思われるが、自分の内から湧き上がるものが原点であれば、それを乗り越える努力を厭わない。そしてその壁をプラスに変える思考。これも幅広い興味、情報、知識を得るような環境に自分を置くことが大事だ。
受験勉強と異なり、「即答」で正解を出す必要もない。天才が1日かかることを、1週間かけて成し遂げても、マイナスではない。要はその時間をどう使うかであって、最終的にカタチにする、という点では「天才」と同じ場所に立てるのだから。
著者がすぐれているのは、その原点、努力、とともに、壁にぶち当たった時の対処の仕方だろう。そのような状況に置かれた時、物事を一歩離れて見る、ありのままの姿を見る。壁に当たったとき視野が狭くなりがちで、そこから離れる不安は付きまとうが、そこから先に行こうとする意欲が曲がらないくらい強ければ、まずはその状況を「ありのまま」見つめ直すこともできるのだろう。
著者の受賞した研究成果は高次元で分からない点もあるけれども、数学者、研究者でも、会社勤めでも同じ人間。どこに向かうのか、自分が何をしたいのか、どうなっていたいのか。そこに向かってどれだけ努力できるのか。そして「素心」をもって物事に取り組めるのか。大前提の「内から湧き上がること」をカタチにする気持ち、努力。これに「素心」を持って進んでいけばよい。シンプルだけれども、非常に強いメッセージだ。

【ことば】私は、人の二倍は時間をかけることを信条としてきた。そして最後までやり抜く根気を意識的につちかってきた...「努力」とは私においては、人以上に時間をかけることと同義なのである。

内なる原動力を持って最後まで貫く。自分を高める努力を惜しまない。「生きる」姿勢のお手本である。ますます「個人の能力」がモノをいう時代。1980年代に書かれた本とは思えないほど、現代にヒビく内容。


生きること学ぶこと (集英社文庫)


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