- 風が強く吹いている
- 発売日: 2006/09/21
『風が強く吹いている』三浦しをん⑤
[2/38]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★★
著者の直木賞受賞後の第一作。走ることを愛し、走ることが生きることであるハイジと走の二人が出会い、素人集団を連れて、箱根駅伝を目指す。補欠のいない10人で、陸上未経験者も多数いて...
かなり無理のある設定ですが、時々笑えちゃう軽いノリと、一方では練習から予選会、本戦に進むち密な過程の中で、彼ら寛政大の駅伝チームが見せる成長。「無理がある」ことをすっかり忘れてしまうくらい、500ページに及ぶ長編に引き込まれてしまいます。
話題性のある箱根駅伝というテーマですが、著者の取材の精密さが表れていて、素人の知らない部分まで細部にわたり細かく描写されます。が、メインはやはりこのチーム。素人集団が「箱根」という思ってもみなかった「夢」を実現させていく過程で、「走る」ことに対しての考えや、駅伝という競技でもたらされるチームワークを垣間見せてくれます。
「一応」高校時代から「走り」の才能をあらわして、でも挫折を経験した走(かける)が主人公であるのですが、駅伝の各区間を走るチームメンバー全員が「主役」であることは間違いありません。それぞれの個性がでているし、それを采配するまとめ役のハイジのリーダーシップも素晴らしい。走の結果から特筆されていいはずが、みごとに「全員が主役」という印象を持ったまま読み終えることができました。
それでなくとも感動を呼ぶ駅伝。現実の世界でも、そこには数々のドラマがあるはずで、その長いドラマの一部を我々観衆は切り取ってみているにすぎない。なんにせよ、ひとつのことに打ち込む姿、チームとして成長していく姿、タスキに込められた思い、個人競技でありながら団体競技である駅伝のドラマ、感動のポイントが凝縮された物語です。
残りページ数の厚さから、本戦に出られたのか、とか、だいたい想像ついちゃうところはあるんですが、特に後半から終盤は、読みながら必死で応援している自分がいました。最後の結果のパートは、ドキドキしましたねー。小説でここまで熱くなれたのも久しぶりです。
寛政大学駅伝チームは、チームワークを学び、同じ夢を追いかける仲間を思いやる気持ちを持てるようになりました。ひとつの夢に向かって、汗を流すチームって、美しいです。その中に能力のある者、無い者がいても、いや色々なタイプが存在するからこそ、チーム愛が生まれるのでしょう。精鋭だけを贅沢に選んで勝っても、得られない喜びがそこにあるような気がします。
彼ら大学生は「若い」から、ひとつのことに夢中になれたのだろうか?いや、若くなくとも、ひとつのことに、ひとつの夢に向かってがむしゃらになることはできるはず。そんなものを見つけよう。目の前にきているかもしれない。それを見つけるんだ。
ライバルの他校に「嫌われ役」がいたり、ちょっとだけ恋愛モノが混ざっていたり、まったく「長さ」を感じさせない500ページでした。
【ことば】いままでなかった。走る喜び。苦しみを凌駕してなお、胸に燃える理由。再び会うために。会って、ともに走ったことを喜びあうために。明日も戦う。全力をもって。
孤独なランナー人生を送るはめになっていた主人公が、「仲間」を得て違う夢を持つようになった。早くはしることだけが目的ではない。誰かを喜びをわかちあうことを目指して走る。自分のために、誰かのために、走る。「強く」なっていく姿が美しい。
風が強く吹いている
>> 本書の感想文、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね <<
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まねき猫の読書日記
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