2012/02/20

教育の本質があります。「恩師」は一生モノです。


『灘中 奇跡の国語教室』黒岩祐治
[13/31]bk1
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著者は元フジテレビキャスター、現神奈川県知事です。読み始めるまで気づきませんでしたが、それは本筋には影響がなく。著者もその生徒であった、灘中の「名物教師」の話です。なんと!50年の間、灘中で教壇に立ち続けたという、ギネスものの先生。
そして、何が「名物」かというのが肝なのですが、先生は一貫して、文部省検定の教科書を一切使用せず、中学3年間を通して、『銀の匙』(中勘助)を「スローリーディング」する、というもの。

これだけだと「奇抜」になってしまいますが、みごとに!生徒自身が「考える」ということをするような授業です。各章の名前を生徒が考える、その物語の舞台である東京下町の「駄菓子」を実際に授業で食べてみる、中にでてきた「凧あげ」を実際に授業で作って凧あげをしてみる...

先生が用意するのはすべて、自分で作ったガリ版で、読書感想文や、詩歌を作る宿題など、宿題は多いらしいが、すべて先生はそれに目を通す。

楽しい中に、厳しい点、すなわち「おさえるところはおさえる」授業で、生徒たちは「本気」になっていきます。そして、その「自分で考える」ことが、それが直接の「受験勉強」ではないにせよ、東大合格数で灘高が日本一になる土台を作っていきます。

何が生徒たちを動かしたのか。それは奇抜な授業も、厳しい宿題も、それだけではなく、根本にあるのは、「生徒たちが国語を、日本の言葉を『本気』で好きになって、自分のものにしてほしい」という純粋な、そして熱い思いを、先生が持ち続けていたからです。それがカタチを変えたメッセージではあったけれども、キチンと生徒たちに伝わった。結果的に合格数が伸びたのは、国語という「教科」のみならず、感性や勉強のツボ、そして何より母国語への興味関心、これを高めた先生の情熱があったからこそ、です。

著者の先生への思い、先生の授業のレビューが中心で、「いいなあ」って思うこと多数。ですが、最後に収録された、橋本武先生の「特別授業」。これが最高にいいです。これだけでも読む価値があります。

こんなに素晴らしい「恩師」を感じられる著者はじめとする卒業生は、うらやましい限りですが、思えば自分にも、「恩師」と呼ぶ先生がいます。転校があった年の担任だったので、1学期だけなのですが、一生先生のことを忘れない、今自分があるのは先生のおかげ、と言える先生がいます。
今の学校環境のことは詳しくは分かりませんが、カリキュラム優先の授業、マニュアル先生、メディアで取り上げられるのは「悪い」方だけかもしれませんけれど、「恩師」を一生持つことの幸せを、次の世代の子どもたちにも感じてほしい、と切に願います。

【ことば】...大事なのはスピードじゃなくて、「すぐに役立つことは、すぐ役立たなくなる」ということです。

橋本先生の言葉です。興味を持つこと。それを「自分で」掘り下げること。自分で調べて見つけたことは一生の財産になる。先生はその手助けをしていたのかもしれません。マニュアルで教えることと根本的に異なります。「自分で」これがキーワードですね。先生が若かったころに比べて圧倒的に「情報」社会になった今、余計に「自分で」が大切です。

灘中 奇跡の国語教室 - 橋本武の超スロー・リーディング (中公新書ラクレ)


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黒夜行
日々の徒然

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