- 三面記事小説 (文春文庫)
- 発売日: 2010/09/03
『三面記事小説』角田光代
[6/24]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆
何かと目にする機会が多い著者の本を読んでみたいと思っておりまして、やっぱり最初は「直木賞受賞作」かなあ、と考えておりましたが、機会あってこの本が「デビュー」となりました。
本書は、実際の事件がテーマなのか、「三面記事に載るような話」をテーマにしているのかわかりませんが、非常に身近な、自分たちの周りでもあるであろう環境の中のお話の短編集です。
貫かれているのは、「家族」「仲間」「恋愛」といった、人間関係です。これまでうまくいっていたものが、時間の経過とともに何か歯車が狂いだす。いったんはずれてしまった道から、気が付けばどんどん離れていく、といった、かなり「日常」の話であります。
読み始めてまず感じたのは、(ど素人の私が「上から目線」ですが)文章の展開や、導入、盛り上がり、エンディング、めちゃ読後感がいい。完成度が高い。何か「高尚な」音楽を意識的に聴いているような感覚がします。テーマは「歌謡曲」に近い(誰にでも近い距離にある、という意味で)のですが、作品全体からにじみ出るBGMは、「クラシック」のような...
小説ですので、「事件」が起こるわけですが、事件そのものではなく、その背景、関係者の心理描写、変わっていく環境、一度走り出したら止まらない感情、そんなものが余すところなく描かれます。もしも自分がその環境に置かれたら、そうなってしまっても不思議はないだろう、という気持ちがするほど身近で、多少「恐怖」を感じる場面もあります。
女性が「主役」であるストーリーが多いのですが(結構男性のキャラは「汚れ役」が多い。苦笑)、最後に収録された「光の川」は特に秀逸です。人ごととは思えないところもあり、「今」の社会の歪を描いているのかもしれません。
いずれも「三面記事」のベタ記事で見れば、 関係者以外は「その場限り」で済んでしまう事件ですが、もちろん当事者たちには、いろいろな背景があり、事情がある。そしてそれはいつ自分の身に降りかかるかわからない。これは自分がどうこうすれば避けられるとか、そういうことではなくて、ある意味「運命」に近いものかもしれません。
非常に「深い」「濃い」小説です。角田さんの最初がこれでよかった、と思える感じ。読んでいると情景が浮かぶんですね。自分が経験したことのない場面にも関わらず。すごいです。
【ことば】...空を仰ぎ口を開けて泣き続ける。そうしていれば、母がすぐにでも抱きしめてくれることを知っていた幼いことのように、泣き続ける。
痴呆により「母が母でなくなって」しまった話の中に。現代で一番悲しい病気かもしれません。でも「母」であることには変わらない、幼いころから今まで注がれた愛情は変わらない。家族「のようなもの」になってしまったのは表面的なもので、それは「家族」であることに違いはない。
三面記事小説 (文春文庫)
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