2012/02/05

未知の世界へのトビラ。あまりにも遠い世界が少しだけ近づく。

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)
裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)
  • 発売日: 2006/07

『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』北尾トロ
[4/22]BookOff
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★★☆

著者のことは(すみません)存じませんでしたが、タイトルに惹かれました。著者が数多くの裁判に傍聴して、そこに見られる人間模様を読み解きます。その場に登場する被告、証人、弁護士、検察...事件がどう結審したか、というよりは、彼らの「キャラクター」を中心に描かれます。
 
特別「裁判」に興味があったわけでもなんでもなく、おそらく多くの方と同じように、その仕組みや、中でどのように何が行われているのか、裁判官はどんな人で...「別の世界」の5W1Hについて、正直興味関心が薄い、無い...というレベルでしたが、知っておくことも悪くない、レベルで読み始めています。

オウムや、ワイドショーをにぎわすようなものだけではなく、新聞記事にもならない裁判の傍聴にも、かなり積極的に足を運んで、そこに表出する人間模様を描いています。新聞や週刊誌、マスメディアが絶対に打ち出せない、「裁判の空気」はまさしくその場にいないと感じることはできないのでしょう。

傍聴しようと思ったことすらない自分ですが、おそらくその建物の中は別世界なのでしょう。メディアによる偏った見方(都合のいい解釈)と違いのはもちろんですが、新聞や雑誌などの紙媒体でも、やはり「当事者」が遠くなり「識者」が大きくなるので、事件の真相からは別の方向に進む。逆説的に(あるいは皮肉で)言えば、いわゆる「マスコミ」は別の方向に向かうのが「使命」だったりしますけれどね。

とにかく裁判。地裁、高裁、簡易裁判所。刑事事件、民事訴訟。当然に「裁判に持ち込まれた」からには被告の向こうには「被害者」がいるわけですよね。なので、特に死者がでるような殺人事件の裁判については、著者も書きにくかったと思います。
当然に、「一般的な」良識は持っていらっしゃる方だと思われますが、敢えて「軽いノリ」でせめています。特に殺人事件の場合の被害者側に配慮すれば、ギリギリの線でしょうか。いや、被害者側にとっては、何をどう細工したところでいい感情は持たないでしょう。

そこは「敢えて」、裁判の、裁判所の現実を、(自分のような)無関心の人たちにも伝える、という使命(と考えているかどうかは?)のもと、さらっと、でも事実は隠さずに伝えてくれています。
関係者ではない自分でも、「ここまではちょっと...」という表現にも出くわしますが、それは初心者向けの「読み続けるための」刺激、と捉えましょう。


これを以て、傍聴に行ってみようかなあ...とまでは思わなかったけれど、もしも何か機会があったらぜひ、くらいには関心度があがりました。
まさにそこが著者の狙い目では、と思いますね。裁判員制度を見越したものではなかったようですが、著者は裁判そのものの「楽しさ」を、そこに登場する「人間」を軸に見ています。
被告、弁護士、検察、裁判官はもちろん、承認、傍聴人、そして裁判所の周りに居座る抗議者にいたるまで。
この本にでてくるのは、「人間」なんですね。極悪な「事件」ではなく、「人間」。わからないのは「事件」ではなく「人間」なんです。人間関係が入り組んだものほど、その絡まったものをほどく裁判が重要になる。それは事件の重要性とか凶悪性とかではなく、あくまで人間関係がどうか、ということなのだろう。

不謹慎な言い方をすれば、ちょっと興味でてきましたね。言ってみようかな、傍聴。

【ことば】ぼくにとっては最高の人間ドラマに思える公判が、他の傍聴人にとっては平凡な事件でしかなく...またその逆もある。

物事を表裏両面から見る。ひとつの事柄、出来事であっても、見る角度、見る人によって全然違うものになることはよく経験することだ。司法はそれを、また別の角度、「上」から見ているイメージでしょうか。人を裁くって大変なことだよね。すごい仕事だよ。

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)


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