- 進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線
- 発売日: 2004/10/23
『進化しすぎた脳』池谷裕二
[7/25]Library
Amazon ★★★★★
K-amazon ★★★☆☆
アメリカで脳科学の研究を続ける科学者が高校生を相手に「脳のメカニズム」を講義した内容。
理系とはいえ高校生。知識をインプット中である彼らに対して、質疑応答しながら「脳」を分かりやすく説明した講義「そのもの」なので、その分野にまったくインプットされた知識のない自分でも、(途中までは)分かりやすく読めた。講義内容にどんどん引き込まれていくのがわかる。
しかし、高校生とはいえ理系。「シナプス」のあたりで挫折しかけた自分は、残念ながら、「脳」の退化が始まっているのか...
全部で4つの講義が収録されているが、前半はハマりました。脳が大きければ、或いは脳のシワが多ければ、進化した生物なのか?脳がその「進化度合い」を決定しているのか?いやいや人間よりもイルカの方がシワが多かったりするらしいです。完全に目からウロコなのですが、人間は手足(特に「手」)を有し、咽頭によって言葉を持つ。これが脳の発達に影響を及ぼしている、という逆の考え方。身体という容れものが脳を規定する?面白いですねー。そして運動をつかさどる小脳の大きさ。動物という視点に立てばけして運動能力がすぐれていない人間は、小脳が小さい。逆にネズミのそれは大きさの比率が高い。ほー!
コンピュータと脳の比較、脳の優れているところは、「あいまいさ」を有していることであり、それゆえに「ソウゾウ」=想像&創造というアウトプットが可能になる、という点。収納した情報をあらゆる角度から、組み合わせることのできる機能。一見関係のないものが組み合わされて、別のものが生まれる妙。コンピュータと人間(生物)の違いは、「あいまいさ」なのかー。なるほど!
情報伝達のメカニズムあたりは、正直ギブアップでしたが、最終講義の「アルツハイマーの研究」も興味深い。解明がされていない分野であるが、現代に現れた病気である、というのは、昔はそれまで寿命が長くなかったから発覚しなかったのかもしれない。長生きしすぎなのかもしれない、という大局観での見方。これも「科学的」ではないけれども、視点が広い著者の「容量の大きさ」を感じさせます。
薬と脳科学の関係にも触れているが、脳科学が今ほど進化していない時代から「生命」を維持させるための医学は発達してきたわけで、実は薬の効能から脳の機能がわかる場面も多いという。
著者の優れた点は、このような「科学」を、知らない人にも伝える技術、けして一方的ではなくて、学生に「考えさせる」講義、他の分野、医学や哲学などへの敬意、これらを内包しているところ。かなり偏見なのだけれど、科学者=専門分野のみ深堀り、というイメージが(勝手に)ある中で、こういう科学者=講師の話を聞けることは貴重な時間ではないかなあ、と心から思う。自分が高校生の時に聴いていたらもしかしたら理系に...なってないか。
「脳トレ」が流行ったり、脳科学者がメディアに登場したり、「脳科学」が近い存在に感じられるようになってきたけど、こういう「まじめな」講義が、一番「面白い」かもしれないね。
【ことば】...この意味では人間はもはや進化を止めたと言ってよい。その代わり...自分自身の体ではなくて「環境」を進化させているんだ。
環境が変わるたびに、淘汰を繰り返し「最適」な機能を残してきた生物である人間だが、医学、科学の発達で、むしろ環境の方を人間に合わせる、という<逆進化>をしている段階に入っているのではないか。自然の摂理からすると 、「逆」なのかもしれないけれど、科学の進歩はけして悪ではない。ただ、こういう考え方ができる科学者の柔軟性、視野の広さは尊敬に値します。
進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線
>> 本書の感想文、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね <<
猫とネコとふたつの本棚
脳の本 紹介・書評
0 件のコメント:
コメントを投稿