2012/02/15

震災の惨さと、「使命」を持つ仕事と。

河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙
河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙
  • 発売日: 2011/10/27

『河北新報のいちばん長い日』河北新報社
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もう1年が経ってしまうんですね、あの震災から。まさに「現地」である宮城県の県紙「河北新報」が、「その時」から「それから」で何を思い、何をして、何を残してきたか、という「真実」が語られます。
自らが被災者でもあり、当日の新聞発行が危ぶまれた中で、他の新聞社の協力や輸送、配達にかかわる人たちの「プロ意識」に支えられ、永く続いた「発行」を止めることなく動き続けた彼ら。震災という経験のない場を前にして、彼らが考え行動した記録が残されています。

首都圏にしか居住したことがないので、「地方紙」「県紙」という位置づけがいまひとつ分かっていません。そもそも「河北」という名称が何を指すのかすら...これは、福島県の「白河以北」、つまり「東北」を意味しており、ある意味では東北に対する侮蔑的な表現でもあるのだが、敢えてこれを題字としている、という。もともと気概あふれる精神がそこにあるのだ。

震災当日の「発行が危ぶまれた社内」、翌日以降の「被災地の取材」、インフラが壊滅状態の中での配達。これらは震災の惨さが現実のものとして生々しく突き刺さってくるが、若干は「新聞社目線」があるなあ、と感じた。「情報を伝える」という使命を担い、それに邁進する姿だが、それも必要だが、被災者への取材ってどうなの、って思ってしまう自分もいる。取材に行くんだったら支援物資を持って行ったほうが...とか、取材のための資源(ガソリンなど)を確保することがホントに正しいのか...って思ってしまう。

...という考えがアタマのどこかに居座っていたんだけど、実際に現場に赴いた記者の中にもそのような感情を持っている人が大多数であることがわかった。上空からの撮影のためのヘリから、屋上で助けを求めている人たちを見たカメラマン、原発事故により避難をして、避難をした場所から「現地」に電話取材をした記者がもった違和感、避難所で「私たちはもう頑張っている」と言われた記者...

中でも、刺激的な「その時」の写真を掲載しないことを決断したこと(全国紙は躊躇なく使用)とか、「死者」という言葉を「犠牲」に置き換えて掲載したとか、原発事故と同等あるいはそれ以上に津波被害について追いかけ続けたとか。

そこには新聞社としてのプロフェッショナルと、被災者としての同じ気持ちがある。そしてなにより、地元の新聞社として、そこに住んでいる読者のことを考える、彼らのことを想う気持ちがある。「地域密着型」なんて陳腐な言葉で言い表せない、本当の意味で「一緒に」なっている姿が浮かんでくる。

いいたいことはたくさんあるのだろう。特に「国」に対して、とか。もちろん本書にないだけで、本紙にはあるのかもしれないけれど。でも、本書ではそれを封印して、自社の考え方、地元のためを思う心、仕事に対する責任感、そんなことが繰り返される。
 
震災そのものの惨劇、そしていまだ戦っている被災者、まだ数多く残る行方不明者、これらを風化させてはならない、そのために「記録」を「報道」することに、そして地元の人たちとともに「復興」にむけて「ふんばる」ことを決意した新聞社。

本書に登場する記者やデスク、関係者の方は(実名で記載されているんだけど)、40代前半の方が非常に多い。苦しいだろうけれど、頑張っている姿に、同じ年代として、そこまでできていない自分に悔しさもある。


震災で被災した方がまだ戦い続けている中で、被災していない自分がいうのも失礼かもしれないが、自分の中でも「震災」によって、考え方が変わってきているんだよね。だから何ができるかわからないけれど、自分にできることをしていきたい。なんらかのカタチで回りくどくても、同じ日本人として何かできることはあるはずだから。

【ことば】全国紙や在京キー局は...一段落したら潮が引くように震災報道から切り上げる。だが地元紙はその後も長く被災者に寄りそい続ける。震災発生直後は見えなかった問題が、数ヵ月後に...苦しめることもある。

 ドキっとする。「当時」も大変だったと思うけれども、「その後」も相当な苦難なのだろう。そんなときにこそできることもあるはずだ。それを思い起こさせてくれる役割もあるんだね。そういう情報は、既に入ってこない。たまにTVニュースで「特集」されるだけだ。何ができるか...考えてみる。

 河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙


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