2011/09/13
裏に隠された努力を思う。
『筆談ホステス』斉藤里恵
[7/163]BookOff
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆
著者の働くフィールドには個人的にはほとんど縁がないので、その職場の過酷さは正直わからないのだが、少なくとも聴覚を失った人が勤める職場として「合っ ている」とは言い難いと思う。「耳が聞こえない」というハンデを背負いながらも、健常者と同じ環境で幼少期を過ごす、という「両親の愛」に囲まれながら、 「接客」という世界に入ってきた著者。そのハンデを乗り越えるのは並大抵ではないだろうと思われます。一部の心ない学校の先生の言葉や、職場の上司の偏見 などが書かれてるが、おそらく現実はこんなもんじゃないはず。それを乗り越えてきたのは、接客という仕事に対する「好き」の気持ちから、なのか。
中学、高校時代の「荒れた」生活についても描かれていたが、これは障害によるもの、というよりもひとりの少女として、「落ちて」しまった、ということだろ うと思う。が、それを見守る両親の気持ちに思いはせると、いたたまれない気になってしまいましたね。両親、とくに母親との衝突について、本書の中では「未 解決」のような感じでしたが、社会で仕事をするひとりの人間として、早い段階でご本人に気がついてほしいなあ、という、「親目線」で読んでしまった箇所も 多くあり。そんな読み方をする本ではないのかもしれないけれども。
職業としてのホステスは、実は「プロ」のレベルが相当高いのではないかなあって思います。けして安くない金額を払って、時間を買う。自分の財布を開いて行 こうとは思ったことすらないけれども、ごくわずかな機会に遭遇して感じるのは、(著者も書かれているが)当人たちの努力や真剣さが生み出す「人間としての 深み」 を感じられるかどうかで、その時間が楽しいものになるかが変わってくる、ということ。その世界では一流と呼ばれる「銀座」だって、話していてつまらないと 感じることもある。「マニュアル」で動いている人は少ないと思われますが、「相手の表情や様子によって臨機応変に」対応する、というのは、やはり「プロ」 でなければならない。そして「プロ」であるためには、いろいろな知識で武装する必要もあるだろうし、場数の経験(それをその後に活かす技量)も必要なんだ ろうと思う。まあ、その世界に縁遠い自分には、語る資格もないけれど。
筆談というツールを使っているものの、それはあくまでツールであり、本質は「プロ」であるかどうか、それによって、「成績」が顕著に変わってくる世界であ るのだろう。ダイナミックであるが、同時にキビシイ世界でもある、ってこと。「耳が不自由だから」という点は確かにハンデだし、これからも生きていく上で は「いっしょに」つきあっていくしかない。著者はそれを「受け入れて」いる様子で、その上でどうするか、という考え方ができているようなので、たくましく も思えるし、応援したくもある(お店にはいかないと思うけれど)。ただ、いつの日か、ご両親への対応、を考えてほしいなあって思います。それだけが惜し い、と思った点。
【ことば】体調が悪そうな方には、無理にお酒をお勧めするのは絶対にNG。その日の売り上げも重要ですが、お客様には長いお付き合いをしていただくことのほうが、何よりも大切だからです。
ホステスの世界は、相当に「数字」にシビアではないかと思われます。それは自分の行動が自分の数字に「直接」跳ね返ってくるから。こういう考え方ができる のは、余裕や経験値から、なのかもしれませんが、こういう「相手のこと」を考える点が、結果、「間接的に」数字を積み上げるんでしょうね。
【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね
熊さんの「読書感想文」
K☆ヒロシの日々これ奮闘記
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