2011/09/30

「現場」感じます。熱くなれる!

ふむふむ―おしえて、お仕事!
ふむふむ―おしえて、お仕事!
  • 発売日: 2011/06

『ふむふむ-おしえて、お仕事!』三浦しをん
[17/173]bk1
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★★☆

16人の「働く女性」のインタビュー。聴くのは、直木賞作家。女性の世界、という区分けではなく、日本の伝統芸能から、アスリート、現場監督まで、幅広い分野で活躍する方々が登場します。その世界で優れた技術をお持ちの方...というよりも、その世界で「熱く」仕事をされている方々(もちろん類稀なる技術もお持ちなのでしょうけれども)が、自分の仕事を語ります。
インタビュアーである著者は、作家でありますが、「ゲスト」が活躍されているフィールドについて知識が豊富なわけではなく、「読者代表」のような共感を元にインタビューが展開されます。もちろん、事前準備が相当されているのは間違いないのですが、文章を読む限りは、素人が職人に教えてもらう、というような感覚を持ちます。これが心地よさを増幅。「プロ」である彼女たちの「よさ」を存分に引き出している、そして本業たる作家の「技術」により、文面からもインタビュー現場の空気、さらには、彼女たちの働く現場の空気までもが伝わってくる感じです。
このような「対談」って、淡々と臨場感がないものが多い、という印象がありますが、世間的に名を知られた超有名人ではなく(失礼...)、あくまで「現場」でその仕事に対してリアルタイムで挑戦し続けている現役、という方々が登場するので、自分のようなフツーのハタラクヒトにも共感を呼び起こすのでしょう。
「好きだから」「(相性が)合っているから」という理由で、その世界に浸かっている人が多いのですが、きっかけは人ぞれぞれ。偶然もあり、小さいころから、というのもあり。でも多分、「偶然」にしても、どこかで思い続けてきた「好き」があるのでしょう。呼び寄せた偶然、運命なのかもしれないなあ、って思います。いずれの方も、前向きに取り組んでいる「熱さ」を感じます。途中で投げ出さない、書かれてはいない(答えてはいない)壁も挫折もあったはずですが、それを乗り越えてきた「大きさ」を感じます。写真も何点か掲載されていますが、(人として)「いい顔」をされているんだろうなあって思います。
聴く方も、答える方も、登場人物は全員女性、という企画ですが、それに偏見やこだわりを感じません。女性なのにすごいな、ではなくて、ひとりの人間として、社会で働く人間として魅力的な人たちの物語、と感じられます。けしてすごい発明をした、研究をした、という人たちばかりではありません。そこも「近しい」感じを受けますし、「会話」も親近感を感じるもの。こういう「現場感」が、自分のようなフツーの人にも勇気を与えてくれますね。

【ことば】知りたいから、おもしろいから。...この世界をもっと知りたいという熱望が、今日もどこかで発見を生んでいる。

人が動くのは、この「知りたい、おもしろい」というのが根本だろうと思う。それがなかったら、「始める」ことはできても「続ける」ことはできないんだろう。そこに論理的な理由づけは不要ですね。これらを「見つける」ことも大事だし、そう思っていると、どこかで「見つかる」んではないかなあって思う。

ふむふむ―おしえて、お仕事!

【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね

面白い本が読みたくて
本棚が倒れませんように。

2011/09/29

誰に向けてのメッセージなんでしょう?


『リクルートのDNA』江副浩正
[16/172]BookOff
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

著者のイメージは、リクルート「事件」が一番強い、そんな世代です。何をして証人喚問されたかはよくわかりませんが、「お金の感覚」が自分のような者とは違うんだろうなあって、そんな印象を持っています。
著者が創設した「リクルート」という会社については、就職活動の際、または学生時代のアルバイトの際によく使った「情報誌」が鮮明に記憶の中に。発想からして「画期的」であったのでしょうが、今現在は、「元リクルート」の人の活躍が自分の周りにも存在していることもあり、その「社風」が気になるところではあります。
この本は、その創業の話もあるけれども、どちらかと言えば著者ご本人の「考え方」とか、個人的な内容が多い。師事している方々、感銘を受けた本などなど。もちろんリクルートそのものの創業からの苦労話もあるのだけれど、発展時期の本社移転の話や、不動産絡みの話も多い(そういう会社もありましたもんね)。どちらかといえば、「リクルート出身で、今、各方面で活躍している方々」の当時の話とか、そういうのを期待していたんですけれども...
「情報」という、当時はまだ「産業」ですらなかった時代に、そこを構築したアイデアとか、突進力、「1位でなければ意味なし」という気合、それらは尊敬に値するものです。「マネ」はけして悪いことだとは思わないけれども、「無」から形を起こす、社会におけるひとつの要素となるまで大きくする、というのは並大抵ではないと思う。そういう点ではもちろん天賦の才能の持ち主でもあるけれども、もっと大きなものは、著者の徹底した実行力だと思う。アイデアを持っている人は数あれど、それを実行する人は限られた数になり、そしてそれを継続する人はわずかな数になるのだろうと思う。
「事件」がどのような影響を与えたのか詳しくは分からないけれども、本書の中にも(たびたび)出てくる不動産の話や、本社移転の話などを見るにつけ、やはり金銭感覚は、「フツーの」人とはかけ離れているようだ。BtoCのようでありながらBtoCである業務内容のせいか?本書を読んでいると、どうも「消費者」との距離を感じてしまった(「社会貢献」というテーマもお持ちのようではあるが)。分からない人間が勝手なことを言うけれども、金銭がらみの「事件」も、起こるべきして...という推測もなされてしまう。
自分の周りにいる「元リクルート」は、「江副時代」よりも後、だと思うけれども、「営業」面で、特異なセンスを持っている人が多いように感じる。勝手なイメージが大部分だけれども、「元...」と聞いて、「ああ!」と思ってしまうことも多々。悪い意味ではないし、悪いイメージもない。優秀な方が多いのも事実だし。
内容として、リクルート社に絡んだ人であれば、創業者の話としてなんらかの感銘をうけるのかもしれないけれど、「外側」の自分としては、ここから何を読みとればいいのか、分からずじまい。「そんなリクルートスピリットを持とう!」というメッセージでもないし。「1回リクルートで働いてみれば」くらいか。ものすごく「できる」人であり、また、そもそもが大学生起業の方なので、そういう「一般的な」メッセージも欲しかったなあ。


【ことば】誰でも努力はする。問題は努力を継続できるか否かである。

そうだよねー。「継続」ですよね。元来「あきっぽい」自分には耳が痛い言葉ではある。「始めること」も重要であるが、「続けること」も重要。「飽きた」時にどうするか、何度も経験している場面だけれども、次こそ...

リクルートのDNA―起業家精神とは何か (角川oneテーマ21)

 【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね


blog50-1
SPADE-10日記

2011/09/28

不思議な世界観が...

潤一 (新潮文庫)
潤一 (新潮文庫)
  • 発売日: 2006/11

『潤一』井上荒野
[15/171]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

朝刊の書評欄に掲載されたのがきっかけで知った本。恋愛?小説。ここ数年間(個人的に)触れていない世界です。14歳から62歳までの女性と、ひとりの26歳男性との「関係」。連作短編集っていうんでしょうか、ここの女性が主人公の話が、一人の男性=潤一でつながっていきます。
諸々、取り囲まれている環境が異なる女性が、潤一に出会う。この魅力的な男は、彼女たちの「隙間」にみごとに入っていきます。表面的には「遊び人」なのかもしれませんが、主役はあくまでも「隙間」を抱えて生きている女性たち。「潤一」がハイライトされることは最終章までありませんでした。いわゆる「男女関係」の場面が多く、また女性たちの心理に共通する軸として「それ」があります。こう表現すると「どろどろ」した感じがしますが、全編を通して、そういったイヤラシさは感じられません。これが著者の力量なのか、遠い世界の話で(自分にとっては)現実感がないからなのかは不明ですが...
ひとりひとりの女性の立場からみると、偶然か必然か、目の前に現れた潤一を受け入れ、それまで不足していた「何か」を埋めてくれる時間を過ごしますが、そのうち潤一はその場から消えていきます。それでも「残された」女性たちは悲嘆にくれるわけでもなく、潤一と過ごした時間、そして彼が消えた事実を受け入れます。まさにこれが(恋愛)小説の世界なのか、「小説だから」という固定観念がある一方で、読み物としてその世界に引き込まれている自分がいるのも事実。読んだことがないから分かりませんが、「少女マンガ」の世界に近いのでしょうかねー...
男性である自分だから、「向こうの世界」として淡々と読み終わりましたが(そして何も残るものはありませんでした)、女性はどのように読むんでしょう?登場する9人の女性のいずれかに自分を重ねてみるのでしょうか。ある意味、潤一を通じて「人生」を語った内容でもあるのかもしれません。
先ほどイヤラシくない、と書きましたが、休日の朝に読むにはちょっと抵抗がある内容です。なんにせよ、ほぼ全編に「それ」が出てくるので。それでも意識せずに読めてしまう自分は、それだけ年齢を重ねたってことかもしれません。「潤一」にはなれそうにありませんね。
特に男性にはあまりお薦めはできませんが、「カタい」本ばかりで疲れ気味の時はいいかもしれません。


【ことば】まだ引き返せる、まだ...取り戻せると思いながら、取り返しがつかない地点まで早く到達してしまいたかった。

戻る場所がある。向かうべき場所がある。でも、理由は説明不可能だが、そこに「行けない」 状況に自分を置きたい。なんとなく、なんとなくですが、この心理はわかる気がします。「行きたくない」が理由の全てではなく、自分の足、体、その反応がそうさせるような...「小説的な」表現ですが、ほんとに「なんとなく」ですが、わかります...

潤一 (新潮文庫)

【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね


本のある暮らし。
徒然なるままい、心の赴くままに、まあ、色々・・・


2011/09/27

「聞き方」の本なら、これ。


『<聞き上手>の法則』澤村直樹
[14/170]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

傾聴講座を開催している臨床心理カウンセラー。それゆえ、なのか非常に読みやすい本です。そもそも、「聞き方」の重要性は高いと思われるものの、これを活字にして伝えるのは結構大変なのではないかと考える。本書は事例を多数あげて、「このケースならどうすれば」といった手法で説明がなされるが、正直ピンとくるもの、こないものがある。「聞く」と「話す」はつながっているけれども、「読む」はちょっと遠いようなイメージがある。そのような「思いこみ」を持って読み始めるが、そこは「臨床心理士」、展開のスピード、説明、長さ、構成も心地よい。これを見る限り、「書く」「読む」というのも、そう遠くないことなのかも...
数々の事例、手法、テクニックも含めて紹介されているが、本質は、
・相手(話し手)が(その場の)主役であるから、それを崩さない
・話し手の言葉よりも「気持ち」に耳を傾ける
・まずは話し手の全てを受け入れる
といったところ。つまりは真剣に真正面に受け入れる、ということが原則である、ということ。現実的には相手の「世界」を受け入れる際に、こちら側(聞き手)の「世界」を一旦シャットダウンする必要もあり、人間関係ってそんなに単純ではないかもしれない。でも「話し手」がどんな気持ちでどんな言葉で、敢えて自分に話をしてくる、そんな相手の環境を慮ることが重要だと思う。これは「聞く」ということだけではなくて、すべての人間関係や、社会で生きていくために必要なことだろうと思う。再三指摘がありましたが、話しているうちに(聞いているうちに)出てきてしまう「(聞き手の)有能感」の露出、これが会話を遮るもっともNGなことだと改めて知らされる。つまり、「それ知ってる」とか「(話を十分聞かないうちに)自分はこうしたから、そうすればいいんじゃ」といったアドバイスとか。前提である「相手を受け入れる」気持ちが揺らぐと、その会話の中でさえ、「自分の方が...」といった有能感がでてきてしまうんだろう。普通に考えて、「話し手」はたまったもんじゃないよね。
価値観はそれぞれあれど、それを前面に出し、それ以外は正ではない、というスタンスだと何も発展しませんわね。「聞く」ことで自分にもプラスになる面があるかもしれない。違う価値観を受け入れるのは多少意識的にする必要があるかもしれないけれども、少なくとも一旦「受け入れ」ることをしない限りは、その後につながらない、これは「正」しいと思う。
さて、自分は「聞く」ことができているのだろうか。現実社会では、「聞き流す」ことが有意であるケースもあるんだけど、その識別ができているんだろうか。意識してみたい。著者の講座にも興味津津であったりする。

【ことば】会話には、技術や考え方以上に、その場の空気感のようなものがとても重要です。

テクニック(だけ)ではない、ってことですよね。うん、わかる。テクニックは見抜かれます。安心感を持って話してもらう、信頼を得る、そんな本質にはテクニックは不要です。「空気を読む」というのを肯定的、発展的にとらえる必要があります(KYとかそんな次元ではなく)。大切なのは、気持ち、ですね。

“聞き上手”の法則―人間関係を良くする15のコツ (生活人新書)

 【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね

風使いの部屋
15分早く帰れる!オフィス仕事術


アクティブリッスンはこれ→ http://active-listen.net/
 「聞き上手、始めませんか」 キャッチーなコピーですねー

2011/09/26

木を見て...森を見て...ってことですかね

“できる人”は地図思考
“できる人”は地図思考
  • 発売日: 2003/01/23

『「できる人」は地図思考』吉田たかよし
[13/169]Library
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★☆☆

東大で、医者で、NHKアナウンサーで、議員秘書で...著者のすごい経歴は、「地図思考」にある!というテーマ...図で考える、俯瞰してみる、といった考え方を「地図思考」と称します。確かに「視点」の狭さ、というのは、特に目の前の壁が高いほど、また緊急性のある場合ほど、狭くなりがち。全体最適とかいう言葉でもあるんでしょうけれども、いつのまにか「目の前」のことだけを追っかけて、目的と手段を取り違えてしまう...というケースはありますね。
著者のいう「地図思考」って、そういうことなんでしょう。これを以て、東大に受かったりNHKのアナウンサーになれたりはしないでしょうけれども、よくある「木を見て森を見ず」的なものかと思われます。「地図思考」というネーミングが歯切れ良いので、それ以上を期待してしまいますが、それ以上でも以下でもないようです。
脳科学の引用も含め、「地図思考」ってすごいんだぜ、的な説明が前半続きます。後半は「実践」ですね。事例も多く紹介されているので、地図思考がなんであるか、はわかってきます。極力シンプルな事例にしてもらっていますので、理解度の早いと思う。思うんだけど、じゃあ、「今日から地図思考でいこう!」とは思わなかったんだよなあ。なぜだろうか。ひとつには、著者が「すごい人」すぎて、自分に当てはめることが困難であったこと、おそらく著者が数々の関門を乗り越えてきたのは、地図思考のみならず他の要素があったんではないだろうか、という邪推も。
多分、「マインドマップ」的なものも、この考え方の一部ですよね。マインドマップはチャレンジしたけれども習熟できず、断念しましたが...考え方としては同意です。複雑な情報や入り組んだ問題点を、シンプルに、本質だけを抜き出すには、「俯瞰」や「図」というのがひとつの手法であることは間違いありません。著者は「簡単」と強調されていた部分もありますが、これって(できない人にとっては)結構「訓練」が必要な手法だと思います。マインドマップのみならず、「図で解決!」類のハウツー本も、自分には使いこなせない、結果を出せておりませんので...考え方だけはアタマに入れておこうと思います。視点の置き方、一度深呼吸をして俯瞰する位置に(意識的に)立ってみる。出口がない、のではなくて、見つからないだけ、というときもあるでしょうしね。
それにしても多才だなあ。『奇跡のマルチ人間』と呼ばれているらしい。もともと「地図思考」的なものを幼少のころより持っていたような記述もあり...そうでないタイプを「地図思考人間」にするノウハウを教えてほしいなあ。もしくは、子どもの教育方法、とかね。

【ことば】...ただ日々の業務をこなすだけでは駄目です。自分の周りのことだけではなく、幅広い知識も得なければなりません。

ここだね!著者が成功しているのは「地図思考」の前の段階、幅広い知識という前提ですよ。これを興味を持って習得すること、直接的には役に立たない(無駄)かもしれないけれど、幅広く興味をもって知識にすること。これで視野は広げられる。のではないだろうか、ね。

“できる人”は地図思考

【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね
 
大連からアウトプット!!
積読タワーの攻略記

2011/09/21

母校は人生のひとつ。

早稲田実業 躍進の秘密 (朝日新書)
早稲田実業 躍進の秘密 (朝日新書)
  • 発売日: 2011/02/10

『早稲田実業 躍進の秘密』渡邉重範
[12/168]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

「昭和」の卒業生ではあるけれども、わが母校への思い入れはけして薄れてはいない。世代的には、その名を極限まで高めた「ハンカチ王子」よりも「大ちゃん」が近いのだが、特に夏の高校野球の季節、地方予選から気になってしょうがないのは、昔も今も変わらない。
国分寺への移転は、正直個人的には「大歓迎」ではないし、共学、小学校の設立も、ちょっと(商業的な感じがして)さびしい思いがしていた。ワセダノモリで過ごした卒業生として、その場所が失われる寂しさ、男子校がよいとは言わないけれども、母校を思い出す時に、母校が紹介されるときに、女子学生や小学生がそこにいるのはちょっと違和感を感じることもある。
その「大改革」を成し遂げた校長先生が、早実の歴史、伝統、未来について語る。前半は、「甲子園」が中心。なんといっても王さん、そして荒木大輔、斎藤祐樹。その時代を象徴するスターを輩出する伝統高である。斉藤投手を擁して優勝するまでは、(王さんの時代の春の優勝は知らないので)「甲子園で強い」というよりも、正直「負けた」時の方が記憶に残っていたりする。何度か応援に行ったし、負け試合も観戦した。サヨナラ負けの現場にいたこともある。高校野球に対する過度な感傷の思いもなくはないけれども、真夏の球場で「勝ち」に向けてひとつになる姿は見ていて感動を覚えるものだ。偶然かわからないけれども、王さん(1940年)、荒木(1964年)、斎藤(1988年)と、3人が辰年生まれ、というのもすごいね。3人がハイライトされているだけで他の時代の選手にも素晴らしい人はいたんだろうから、これだけでは何も言えないけれども、次は2012年生まれの投手か...先になりますねえ。
世間的には彼ら3人を中心とする「野球」が一番分かりやすいんだろうと思う。が、あくまでも早実は野球だけではない。著者である校長先生も「文武両道」をその歴史をもって再三にわたり強調されていますが、他の学校の内実はしらないが、「文武両道」という伝統をいまもって保持していると確信する。まして今や、受験という世界では最高水準にあると聞く。大学へのパス、のような学校にならないことだけを祈ります。「進学校」だけになってしまうのは、なんだかこれもさびしいですから...
...と、卒業生である自分は、当時を思い出したり、今は随分変わったなあ、ここは変わっていないなあ、っていう郷愁をもちつつ、読みました。が、他校の方々にはあまり有益な内容ではないような気もします。単なる「宣伝」的な本になってしまう恐れもありますねー。卒業生が大事なことを思い出し、卒業生であることを誇りに思う、そんなポイントのみでいいかと。「学校紹介」的な内容も少なくないのですが、そういうのは「一般書籍」としては不向きではないかなあ。甲子園、斎藤投手の話、写真が最初にでてくるのも、「入りやすさ」なのか「商業的」意味なのか。もちろん学校経営もビジネスであるけれどね。

【ことば】...冷戦後の世界は...世界政治が多極化し、多文明化した。このような世界にあって建設的な行き方は、普遍主義を放棄して多様性を受け入れ、共通性を追求することであろう。

校歌「世界を一に結ぶべき」というフレーズが「生きている」ことを証明する校長先生の考え方。高校生が理解できる範囲は限られているけれども、その真髄はその時代に刷り込まれたから、残る。多様性を排除しては前に進めない。「世界」というテーマでなくとも、身近なことでも、いっしょだ。

早稲田実業 躍進の秘密 (朝日新書)

【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね

MUGA.me

2011/09/20

「陽転」の秘訣は...

和田裕美 「陽転」コミュニケーション
和田裕美 「陽転」コミュニケーション
  • 発売日: 2010/10/01

『「陽転」コミュニケーション』和田裕美⑤
[11/167]
Amazon ★★★★★
K-amazon ★★★★☆

ビジネス誌に連載されていたものの「総集編」。当然ビジネスパーソン向け、ですが、書き下ろしの本と同様に、「わかりやすく読みやすく」スタイルは変わっていません。タイトルにあるような「陽転」は、つまり、目の前で起こったあらゆる出来事の中から「よかった」を探し出す法。たとえそれが「嫌な」出来事であっても、そこから「よかった」「わくわく」を見つけていく...前向きですねー。さすがです。
過去に実際の「営業」のフィールドに立っていた方であり、そして若くして「管理職」の立場も経験され(苦労もされ)た方であるので、より「現実感」があります。出来高営業をこなし、その後も活躍されている様子を見るに、「人が好き」という点があるのかなあ、って思います。著者でも「読む人」を相手に語りかけている感じが伝わってくるんですよね。これくらいの「トップレベル」であれば、「上から」という視点が(隠そうと思っても) 見えちゃうものかと思うんだけど、和田さんに関しては、それがない。
本書でも繰り返し、「自分は人見知り」と書かれていますが(それが本当かどうか、本当であっても「人見知りレベル」が一般とは違うんではないか)、そんな方が、著作はもとより、講演やラジオまでやっているとは...陽転思考、恐るべしです。
(勝手に)思うに、和田さんには、ビジネスでのテクニック的なもの、というよりは、「相手の声を聞くことができる」才能をお持ちなのではないだろうか、と感じます。こうきたらこう対応する、といった、セオリーやテンプレート的なものではなく、相手(お客様だけではなく、ビジネス関係も含め)の話を一旦受け入れる、といった能力。これって偉くなればなるほど薄れていくようなイメージだけれども、もう5冊めの本を読んでも、そんなことはまったく感じないんだよね。これまでのキャリアが異なるけれど、同年代として、んとに尊敬できるなあ、というのはまさしくこの点です。自分は「偉く」はないけれども、「型」といったらかっこつけすぎですが、なんとなく柔軟性がなくなってきているような自覚が...反省ですね。
悔しい思い(外的要因も内的要因も)、立ち直れない苦悩、それらを乗り越えてきた「強さ」を感じます。これを乗り越えてこられたのも、陽転思考であり、柔軟性なんだろうなあ、って思います。本書では、多少ですが、和田さんのプライベートも垣間見えました。「戦略」かは不明ですが、あまり、ひとりの女性としての素顔は見えなかった(見せなかった)イメージが強いのですが、コダシでもそういうのが見えると、ちょっと「近づいた」感じがします。
落ち込んだ時、というよりも、上昇気流に乗りかかったときに読んだ方がいいかも。軽快な文調ゆえ、あまりに「底」にあるときは、遠い感じがするかもしれませんね。元気づけられるには変わりはありませんけれどね。
和田さんのセミナー、行ってみたいなあ。


【ことば】...お客さんが私の知らないところで「和田ファミリー」という名前の会を作ってくれていました...私が担当した人たちが自主的に参加する集まりでした。

営業として、目が会社を向いていたら、けしてできなかった「会」ですね。営業的な「数字」が無意味とは言いませんが、周りがこういう活動を起こしてくれる和田さんは、普段から「お客さん」に目が向いている、行動すべてがそれに基づいている、それの証明なのでしょう。うらやましい!

和田裕美 「陽転」コミュニケーション


【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね

語り合おう!読書交流会
「継続は力なり」を実践している書評 

2011/09/16

「ユニクロ」経営の魅力が伝わらない...

柳井正の希望を持とう (朝日新書)
柳井正の希望を持とう (朝日新書)
  • 発売日: 2011/06/13

『柳井正の希望を持とう』柳井正③
[10/166]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★☆☆☆

「あの」ユニクロの柳井さん。『一勝九敗』よかったです。『成功は1日で捨て去れ』まずまずでした。そして...震災復興に機を合わすかのようなタイトル。閉そく感に包まれた私たちを説き放してくれるのか...あくまで個人的に、ですが、正直、前にあげた2冊ほどの輝きを感じられませんでした。もはやユニクロも大企業、世界企業、著者も世界的な経済人、庶民の自分との距離がかけ離れてしまったのでしょうか...
タイトルにある「希望を持とう」は、本書の中ではあまり見つけられませんでした。そもそも本書のテーマが「希望」ではありません。確かに夢を持って、持ち続けたからこそ今の自分がある、的な表現はありましたけれど、「一所懸命働きなさい。働かざる者食うべからず」というのが延々続きます。最近の若い人は競争心が欠けています。そういう人は駄目な人。そうかもしれませんが、お店に来るお客様もそういう人、ですよね。全体を通じて、「俺の言うことは絶対。俺がしてきたことに間違いはない」という、強さが際立ってます。それ以外は受け付けられない、っていう感じすらあります。それはそれで日和見的な経営者よりは心強いのかもしれません。緩んだ現代の日本にとっては、抜け出す道はそれなのかもしれません。が、なんとなく違和感です。
途中で「社会貢献」について語られていますが、大半は「どう競争してどう勝つのか」「人の管理とはこうするものだ」「会社が成長しなければ価値なし」的な、どちらかといえば「儲け」に偏っていて、「人」の成長自体に目が向けられていないような気も。以前からそんな感じでしたっけ?
 長年のユニクロ利用者で、著者のことも尊敬しています。大企業、世界企業になって、その実行力や推進力、アイデア、ユニークな視点、どれも尊敬する人物です。
お金や市場、人材管理、それらは経営者としては当たり前のことなんでしょう。確かに大事なことです。でも、消費者としてみたらあんまり関係ない。品質、それよりもそこにあるサービスに目が向いています。パリのお店が売り上げ第一位であること、今度の週末にヒートテックを買いにいくことに関連性はありません。ちょっとがっかりしたのは、冒頭にあった、年初に全社員に向けて著者が発信した言葉「目標は日本一兆円、中国一兆円、アジア一兆円...」というスローガン。もちろん天と地ほどの差はあれど、これだけ見てしまうと中小企業のワンマン社長が、聞きかじりのフレーズを朝礼で言うのと変わんないですね。世界企業としてより進出を進めていくに当たり、社内公用語を英語にする。すごいですね。でももし、自分がそういう会社で働いていたら、そしてその発令をいきなり聞いたら、どう思うんだろうなあ...

いろんな見方があるとは思います。こういう考えもひとつ。ああゆう考えもひとつ。そんな様々な価値観のバランスを最もうまくとっている企業だと思っていましたが、本書の内容だけでいえば、偏りすぎ、ですねー。
会社の成長も大事です。でも成長が止まったら価値がないわけではありません。ましてやそこで働く社員の成長は会社の成長とは無関係です。会社の成長は、社員の成長があってこそ成り立つもの。そこで働く人が一番大事でしょ。その「一番大事」なところから出てきたのが、一兆円なり英語なりだったとしたら、世界一素敵な会社ですよね。
前の本がよかっただけにちょっと残念です。少なくとも、「ユニクロ」という、希有な発想を持つ魅力的な企業のそれとは思えませんでした。タイトルも機を狙ったわけではないのでしょうが、ちょっと「ビジネス」の匂いがしてしまいますね...
もちろん、柳井さんは尊敬する経営者で、ユニクロは素敵な企業である、ということには変わりがありません。

【ことば】...短期の視点しか持てない人は会社の理念よりも目先の利益追求に走る傾向にある。それでは会社にとって得とは言えない。

会社にとって「得」かどうかはしりませんが、こういう人は少なくないです。視点の先は、「今日の利益」と上司、くらいしかないのでしょう。従業員ましてやお客様へ向けるべき目は持ち合わせていませんね。「目先の利益」を仮に得たとして、それが何なのでしょう。「次」はどうするんでしょう。
柳井正の希望を持とう (朝日新書)

 【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね


知識をチカラに
タイチブログ

2011/09/15

ゆるやかに、でも確実に成長する姿が。

強運の持ち主 (文春文庫)
強運の持ち主 (文春文庫)
  • 発売日: 2009/05/08

『強運の持ち主』瀬尾まいこ⑤
[9/165]BookOff
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

OLを辞めて、「一人でできる仕事がいい」と始めた占い師。もちろん「専門的な」占いの知識を携えつつも、「相談」に来た人に気持ち良くなって前向きになって帰ってもらうための「話術」も兼ね備えつつある主人公...
占いに来る人にはもちろん、悩みがあり、人知れぬ悩み、自分でも行き詰ってしまっている状況、誰にも相談できないこと...様々な環境を抱えている人と、それに「アドバイス」をする占い師。その占い師自身だって、一人の人間であり、同様に悩みを抱え、アドバイスを欲している場面がある。それなりに名の売れた占い師ではあるけれども、当然だけれども一人の女性として、一人の人間として描かれている姿は非常に「人間くさい」。
かつて別の女性と(恋人同士で)現れた、自分ととても相性のよい男性を、あらゆる手を使って「奪い取った」話、「終わりが見える」と言われた自分自身のことを気にするあまり他人の占い(=仕事)に集中できなくなっている話、師匠から独立して占い師を職業にしていながらも、解決できない場面では、かつての師匠に相談する占い師、自分の一番近くにいる人の「運勢」を変えようと努力する女性としての自分...「占い」という特殊な世界に属しているけれども、そこにいるのは等身大の自分だったりする。当たり前だけれども、なんだかほっとする、温かい文調もあって、緩やかな安心できる読み物の世界に浸れる。占い師として特殊な技能を持っていないのかもしれないけれども、そんな「人間くさい」主人公だからこそ、人の痛みを感じることができ、人の心を感じることができるのかもしれない。占いって、未来を言い当てることだけではないのかもしれない。安心させてくれる、背中を押してくれるもの。そして押してくれる人は、信用できる人にお願いしたい、そんな気持ちは当然だよね。
いろいろな「特異」な相談事が舞い込むストーリー展開の中で、主人公はその出来事を通じて、ひとうひとつ「幸せ」を見つけていきます。大事なことがわかってきます。小説の中の話ではあるけども、遠い星からみていたら自分の人生もそうなのかもしれない。そうあってほしい。
 これは本書のみならず瀬尾さんの著作に共通することではあるけれども、「身の回りにある幸せ」に気づくそれに気づいて自分(主人公)が成長していく、というストーリーが根底にある。家族、恋人、自分の幸せ。近い故に見失っている可能性がある大事なことに、気づかせてくれる。

【ことば】 竹子さんの明日を決めるのは、占いでも自分自身でもない。竹子さんの明日は子供によって、動いていく。

占いのアシスタントに来た竹子さん。再婚の時期について占いによって出た最高のタイミングよりも、自分の子どもの判断にゆだねる。占い師であるのに。これが人間。星によって決めることばかりではない。何が「幸せ」か、っていうこと。

強運の持ち主 (文春文庫)
【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね

読書NOTE
図書委員(ヒラ)の書斎

それほど?ですか?確かに「いい話し」ですけれど...

涙の数だけ大きくなれる!
涙の数だけ大きくなれる!
  • 発売日: 2008/09/04

『涙の数だけ大きくなれる』木下晴弘
[8/164]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

書評、レビューを見れば「感動」の嵐。もちろん帯にも絶賛の言葉。得てしてこの手の「宣伝」には裏切られることが...読み始める、冒頭から、本書を読んで感動した「体験談」がズラーっと並ぶ...やりすぎじゃ?
確かにいい話はたくさん載っています。塾講師である(あった?)著者の、塾生に対して「どうやってヤル気を起こさせるのか」という話、そこには、「感謝」の気持ちを思い起こさせることだったり、「心にささる」言葉を使うことであって、その場限りのテクニックなどとは正反対にあるものです。挿入される(生徒に対してお話されている)話も「感動」するものがたくさんありました。中学生の頃はとかく、「自分がひとりで大きくなった」感を持ち、そして親を疎ましく思う時期。そんなタイミングで、「親への感謝」を思い起こさせる挿話。その話で強制的にヤル気を起こさせるのではなく、生徒自身に「気づかせる」ことを第一とした...本質的です。心にしみいります。
が...アマノジャクの自分としては、やはり過剰な「感動」を読む以前に与える数々の「宣伝」がどうにも邪魔でしょうがない。もちろん書籍販売はビジネスでありますから、多少過剰な宣伝も必要でしょう。が、あくまで読む者がどう感じるか、という点が大事であって(著者自身も言っている「気づき」の部分ですよね)、読んだら必ず感動せい!的な文句のひとうひとつが、やや価値を下げてしまっているような...そこまでひねくれているのは自分だけ、あるいは少数派なんでしょうけれどもね。
勉強でも仕事でも「ツライ」時は訪れる。その時にどうするか。自分はどう乗り越えるのか。相手がそういう位置にいる場合に、どのような手を差し伸べるのか。「相手」の場合は、そう、テクニックではダメでしょう。本書に書かれていたような「本質的な」サポートがあるべきだと同意します。が、自分自身であったならば...「つらくても明日までがんばれ。明日になったらまた「明日までがんばろう」と思おう」というのとはちょっと違うかと思う。切り開いていくのは自分。壁にあたったら乗り越えることも必要だし、乗り越えられる高さの箇所を探すことも大事だと思う。高い壁に挑戦し続ける努力も必要だが、「乗り越えない」選択肢もある、ということを知らなければならない時期はくるんだよね。大人になればなるほど。(残り)時間の概念が変わってくるからさ。
本書を読む場合は、なるべく「外の声」を遮断して読み始めるのがいいと思います。しつこいですが、読む前から「感動するよ、絶対に!」という言葉を浴びると、「感動しなきゃ」ってなっちゃいます。それではもったいないので、素の状態で読むのがベターかと思います。

【ことば】保護者と生徒を幸せにして、一番幸せだったのは実は先生たちなのです。塾がしてあげられる最高のことをした結果、自分たちが幸せになれる。

勉強の合宿に向かう生徒。先生たちはサプライズで親から子への手紙を持っていきます。勉強につらくなったこともたちはその手紙を読んで、親へ返事を書きます。「ありがとう」の手紙と生徒たちが合宿から帰ってきます。喜びの報が塾に届けられる...素敵な話ですね。幸せって、近くにあるのに気付かない、気づかないふりをしているのかもしれません。

涙の数だけ大きくなれる!


【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね

kuroブログ
1日0.2%改善ブログ!

2011/09/13

裏に隠された努力を思う。


『筆談ホステス』斉藤里恵
[7/163]BookOff
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

著者の働くフィールドには個人的にはほとんど縁がないので、その職場の過酷さは正直わからないのだが、少なくとも聴覚を失った人が勤める職場として「合っ ている」とは言い難いと思う。「耳が聞こえない」というハンデを背負いながらも、健常者と同じ環境で幼少期を過ごす、という「両親の愛」に囲まれながら、 「接客」という世界に入ってきた著者。そのハンデを乗り越えるのは並大抵ではないだろうと思われます。一部の心ない学校の先生の言葉や、職場の上司の偏見 などが書かれてるが、おそらく現実はこんなもんじゃないはず。それを乗り越えてきたのは、接客という仕事に対する「好き」の気持ちから、なのか。

中学、高校時代の「荒れた」生活についても描かれていたが、これは障害によるもの、というよりもひとりの少女として、「落ちて」しまった、ということだろ うと思う。が、それを見守る両親の気持ちに思いはせると、いたたまれない気になってしまいましたね。両親、とくに母親との衝突について、本書の中では「未 解決」のような感じでしたが、社会で仕事をするひとりの人間として、早い段階でご本人に気がついてほしいなあ、という、「親目線」で読んでしまった箇所も 多くあり。そんな読み方をする本ではないのかもしれないけれども。

職業としてのホステスは、実は「プロ」のレベルが相当高いのではないかなあって思います。けして安くない金額を払って、時間を買う。自分の財布を開いて行 こうとは思ったことすらないけれども、ごくわずかな機会に遭遇して感じるのは、(著者も書かれているが)当人たちの努力や真剣さが生み出す「人間としての 深み」 を感じられるかどうかで、その時間が楽しいものになるかが変わってくる、ということ。その世界では一流と呼ばれる「銀座」だって、話していてつまらないと 感じることもある。「マニュアル」で動いている人は少ないと思われますが、「相手の表情や様子によって臨機応変に」対応する、というのは、やはり「プロ」 でなければならない。そして「プロ」であるためには、いろいろな知識で武装する必要もあるだろうし、場数の経験(それをその後に活かす技量)も必要なんだ ろうと思う。まあ、その世界に縁遠い自分には、語る資格もないけれど。

筆談というツールを使っているものの、それはあくまでツールであり、本質は「プロ」であるかどうか、それによって、「成績」が顕著に変わってくる世界であ るのだろう。ダイナミックであるが、同時にキビシイ世界でもある、ってこと。「耳が不自由だから」という点は確かにハンデだし、これからも生きていく上で は「いっしょに」つきあっていくしかない。著者はそれを「受け入れて」いる様子で、その上でどうするか、という考え方ができているようなので、たくましく も思えるし、応援したくもある(お店にはいかないと思うけれど)。ただ、いつの日か、ご両親への対応、を考えてほしいなあって思います。それだけが惜し い、と思った点。

【ことば】体調が悪そうな方には、無理にお酒をお勧めするのは絶対にNG。その日の売り上げも重要ですが、お客様には長いお付き合いをしていただくことのほうが、何よりも大切だからです。

ホステスの世界は、相当に「数字」にシビアではないかと思われます。それは自分の行動が自分の数字に「直接」跳ね返ってくるから。こういう考え方ができる のは、余裕や経験値から、なのかもしれませんが、こういう「相手のこと」を考える点が、結果、「間接的に」数字を積み上げるんでしょうね。

【書評家のご意見】
本書の書評、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね
 
熊さんの「読書感想文」
K☆ヒロシの日々これ奮闘記

2011/09/12

「詩人」の表現って...わからん。けど悪くない。

とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起 (講談社文庫)
とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起 (講談社文庫)
  • 発売日: 2011/05/13

『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』伊藤比呂美
[6/162]bk1
Amazon ★★★★★
K-amazon ★★★☆☆

「詩人」だそうな。のっけから「この文章はいったい...?」という感じで、初めて体験するような書き方。英語の直訳調はまだしも、リフレインや、「気持ち」の並列....これが「詩歌」なん?って読みにくさ満載、と思われたけれど。慣れるもんです。読み進めるうちに慣れました。逆に「軽快」に感じるところもでてきて...これが著者の「技量」なんでしょうか...
老いた両親、いろいろな事情を抱えてアメリカに暮らす本人、外国人の夫との意思のすれ違い、娘たち(それぞれ「父」が異なる)とのやりとり...50歳を迎える「おばさん」の奮闘記、といっていいのだろうか、普通のおばさんではないのは確かだけれど、環境の「激しさ」はあれど、両親、配偶者、子供、といった「家族」を構成する要素が話の大半であり、この部分だけでいえば、どこにでもある素材。病魔に侵され入院する母、一人家に住み、老いの速度が増す父親、両親の「生と死」というのがメインテーマ(だと思う)。理解してくれない夫(外人)との確執もあり、ご自身の体調も悪くなり...どこまでが実話で、どこがフィクションなのか、そもそも小説なのか、よくわからない。わからないけれど、最後の方に向かう過程で、そんなことどうでもよくなってきた。シンプルに「読み進めること自体」にエンターテイメントを感じるように...(って「詩歌」を味わうことのできるアタマはもっていないけれど)
はたして著者はこの本で何を言いたいのか、これも分からない。わからないけれど、これもどうでもいいや。勝手な解釈をしてしまうけれども、「詩人」は何を言いたいか、ということよりも、「どう表現するか」に偏重しているような気がする。「詩的」な表現、なのだろうか、それもわからないけれど、直接表現はしていないものの、両親の「死」に向かっている状況に対して、そもそもこれは表現できるような感情ではないのだろうが、著者の気持ちを「詩的に表現」している、のだろうと勝手に理解。
苦悩とか、死への怖れ、生というものの考え方、これらの「解説」を試みている本はあるけれど、よく考えれば、表現できるようなものではないんだよね。それを「しろみ」さん(=著者?)を通して、その表現しきれないココロノウチを、書いているんだろうなあ。
この本は深入りせずに、「勝手な解釈」のまま、にしておきます。それがよさそうだ。

【ことば】その叫び。その笑い声。生きてる、生きてる、生きてる、生きてる、と、いっているようにしか思えなかったのです。

家族で出かけたスキー。橇で遊ぶ子供たち。子供の叫び声、笑い声は、(もちろん当人は意識していませんが)「生きてる」と聞こえます。陳腐な熟語でいうと「生命力」でしょうか(詩的、ではありませんね)。全力で100%の叫び、笑いだからこそ、そう聞こえる。大人にもできる?かな。

とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起 (講談社文庫)
 
【書評家のご意見】
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本棚の隅っこ
風の便り

2011/09/09

頑固さと緩さのバランス。

ニュースキャスター (集英社新書)
ニュースキャスター (集英社新書)
  • 発売日: 2002/06/14

『ニュースキャスター』筑紫哲也②
[5/161]BookOff
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

タイトルから容易に想像できるが、著者がメインを務めた「ニュース23」にまつわる話。「キャスターニュース」という形態や、そこに座るキャスターの位置づけ、報道のありかた、などを、当番組が継続する中で起きた出来事を通じて、語る。クリントン大統領の来日(市民対話の実施)、NY同時多発テロ事件...その時々で、テレビは、番組はどうかかわってきたのか、という本質的な内容です。
ご本人は、朝日新聞という「権威」の中で仕事をしてきた経験もあり、そして持って生まれたキャラクターもあって、「報道のありかた」につては自論をお持ちです(当然ですけれど)。本書の中で出てきましたが、当番組を受け入れるにあたり、メインキャスターであり「編集長」という役割を担うにあたり、「君臨すれども統治せず」を軸にされた。これは、報道番組云々ではなくて、それに携わるチームの作り方、に関することだけれども、TBSの社員ではない立場でありながら、ある意味では同局の「顔」でもある「重い」ポジションを、「チーム」として固めてきた彼なりの哲学があるように思う。
また、番組作りにあたっては制作側の「見せたいもの」と視聴者側の「見たいもの」のバランスに苦慮された様子がうかがわれる。よく比較される久米宏・ニュースステーションは、後者に比重を置いたものであるのに対して、著者のそれは前者寄りのイメージかな。「活字」出身である故、かも知れないけれども、テレビという電波媒体の中で、「オピニオン雑誌」のようなコラム的な味付けを施してきたよう。これが「多事総論」のように形づけれらてきた。
視聴者側の立場からすると、どちらがよいか、或いは面白いか、はもちろん個人的な趣味によるもののの、個人的には、「若いうちは久米さん、ある程度の年代からは筑紫さん」となってきたのは事実。また、テレビというメディアに対してある程度の距離ができてくると(物理的な距離も含む。すなわち、「ながら視聴」の度合いが増えてくると、という意味で)筑紫さんのほうが、受け入れやすくなった。そしてさらに年代と距離が大きくなると、NHKの「事実のみ」のほうが、簡潔で押しつけがましくなく、という事象になる。自分の親世代がNHKを偏重する姿勢を「なぜ?」と思っていたけれども、いつのまにか自分もそうなってきている事実...
現在は、次世代に引き継がれている「ニュース23」だけれども、そこを流れる空気というのは、「創設者」たる筑紫さんのそれが受け継がれているような気がする。古館さんが久米さんの流れを自分流にアレンジしているのと同様に、その精神は引き継がれているようだ。著者自身も言っているように「活字」の人ではあるけれど、そしてテレビ向きではないのかもしれない、という意見もあったけれども、どんなメディアであろうと、「見せたいもの」を「見たいもの」に昇華するような「思い」という本質は変わらない、はず。
もし今ご健在ならば、大震災、原発事故に関して、どのようなことを「発言」されるのだろうか。もはや聞くことは不可能だが、とても興味がある。


【ことば】まちを行き交う人たちが普通の日常を送っている限り、それが「ニュース」になることはまずない。

この「普通の日常」に異常が生じたときに「ニュース」になる。それを追い求めているようなところがメディアにはある。筑紫さんにはそういう「自覚」があった。それはおかしいのではないかと...報道にかかわる人がすべて、その自覚があれば、もっと「質」は上がるはずだ。この人の思いに比べると、今の報道メディアの質はあまりにも低い。

ニュースキャスター (集英社新書)

 【書評家のご意見】
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scratchbrainblog
独り言。

2011/09/07

「好き」が人を動かす。

僕はいかにして指揮者になったのか (新潮文庫)
僕はいかにして指揮者になったのか (新潮文庫)
  • 発売日: 2010/08/28

『僕はいかにして指揮者になったのか』佐渡裕
[4/160]bk1
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

正直なところ、これまでの自分とはまったく無縁の世界。クラシックは嫌いではないが、敢えて聴くほどではない。楽器も何もできないし興味もわかない。ましてや指揮者なんてものは...指揮者がオーケストラに対してどれほどの影響力をもつものなのか、指揮者によって演奏がどう変わるのか、まったくわからない。
本書は、いまや世界的な指揮者として「超」有名な佐渡さんの、自らを語った内容。指揮という者に対してどうこう、という箇所はほとんど皆無で、「音楽が好き」で、その世界で生きていくためにどのような歩みをしてきたか、ということに徹底している。バーンスタイン、小澤征爾といった世界的な方々との出会いや、欧州を中心とした活動(オーディション、コンテストの体験等)など、「音楽好き」の青年がどのように世界を駆けあがっていったのか、というのが本流。
印象に残るのは、オーケストラの演奏家たちと「いっしょに音楽を作る」という姿勢、そして「テクニックではなく音楽を楽しむこと」を徹底した考え方を、終始一貫している、という点。生まれ育った環境に利点があったようだが、もちろんそれだけではなくて、本人の人に言えないような苦悩、努力もあったことと思うが、そこはサラっと触れているだけで、「演奏(会)の感激」を味わうために、それを演奏家、聴衆と分かち合うため「だけ」に専念して邁進している姿が浮かびあがる。
素敵です。「好き」なものを自分の人生の一部にできる、というのはなかなか困難なのが現実だとは思いますが、その困難を、「好き」という情熱が上回ると、著者のような世界に達することができるのだと感動します。本書の内容を表面的に理解すれば、けして器用な方ではないのかもしれませんが、出会った人々との交流を大事にして、そこから何かを「自分のために」活かす感性を持っています。意図的ではなくて、自然体でそうなっているのだと思われますが、ひとうひとつの出会いをプラスにして、一歩一歩「上」に進んでいる様子が見えます。
自分よりも少し上の年代ですが、本書が書かれたのは15年前、ということを考えると、改めて自分の人生を考えてしまいます。遅すぎることはけしてないのでしょうが、「好き」を徹底していく姿にあこがれと尊敬の念を持ちつつ、今からでも間にあうと信じて、自分を見つめ直さねばならない...
企業やビジネス関連のテクニック本もよいけれども、感動するのは、こういう「人間的」な内容ですね。すべて本音で、著者の思いがありのまま、ここに描かれているのは読んでいて爽快な気分になります。それが指揮者という自分(の興味関心)とは遠い存在であっても、ヒトとしてかっこいいなあ、って思うのは、分野とは関係ありませんね。残念ながら、「クラシックのコンサートに行ってみようか」という興味はまだわいてきておりませんが...

【ことば】画家と指揮者には共通する部分があるように思え...どちらもそれなりの技法は必要だが、それに固執していると、人を感動させる...ことはできない...愛する心があって初めて、哀しみや喜びを伝えることができるのだと思う。

分野は異なれど、そこに共通するものはあります。そしてそれはここにあげられた「芸術」の世界だけではないのかもしれません。テクニックはこの土台の上に立つモノ。「伝えたい」気持ちが初めに、土台にあってこそ、ということを改めて思う。

僕はいかにして指揮者になったのか (新潮文庫)

【書評家のご意見】
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ふくろう日記・別室
ワンダーランド・なぎさ亭

2011/09/06

可能性が見える!


『サラリーマンのための「会社の外」で稼ぐ術』柴田英寿②
[3/159]BookOff
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

「週末起業」や、アフィリエイトなど、少しずつ「副業」がハイライトされるようになってきているが、まだまだ日本企業の「閉鎖的」な環境(副業禁止)や、日本人の労働に対する考え方は、保守的だと感じる。自分もその一人ではあるが、ここ最近、周りを見てみると、「複数の顔」を持つ人が増えてきているのは事実。器用ではない自分は憧れはするものの、「できるのか?」という不安のほうが強い。
著者は、大手電器企業の社員でありながら、実名で「会社の外」で活躍する方。そういう環境(本名で活動)だから、という部分もあり、「本業」とのバランスや、時間の使い方、など人間関係的に配慮すべき注意点も書かれていて、そういう意味では、非常に「現実的」なマニュアルである。
テクニック的には、リスクなく始められるアフィリエイトなどのネット系で始め、セミナー講師等の週末活動、株取り引き、不動産投資、というのが「順番」であると説く。確かに「ネット系」はリスク少ないけれどもね。これだって「簡単」ではないのだ。いずれの段階においても「金を稼ぐ」こと「だけ」を主眼に置いたのでは、はたしてどうなるか...という気持ちもある。本業も一緒だけれどね。
本書にあげられた事例では、本業にも役立つ副業をしている人(本業に関する知識が増すような活動)、逆に本業は「時間を売る」ということだけに充てる人、いずれも登場する。単なる副業マニュアルではなくて、いろいろな環境の人が、どういった気持ちから「会社の外」の活動を始めて、そして「続けて」いるのか、その心理も含めて興味深い。(もちろん、「金」だけの人も少なくない)
置かれた状況はもちろん人それぞれだけれども、この分野には少なからず興味を抱く。自分の可能性、というとかっこいい言い方だけれども、会社がすべてではないし、会社への依存度が高すぎることも今やリスクの一つであるだろう。一方で、そこで身につけれらることもある。要はバランスなのだろう。
そして、著者が繰り返し説かれているように、「続けること」の大切さ、これがキーポイントだと確信する。特に何の後ろ盾もない「副業」に関しては、続ける力が大事だと思う。最初からすべてうまく回転することなどあり得ないし。継続しながら、よりよくしていく努力も重ねる。アフィリエイトだなんだって、こちらも工夫と努力なしにお金が舞い込んでくることなんてあり得ない話だよね。
そして、「運」というのも大事なファクターだと思うけれども、これもその前提として「続ける」こと、があるんだろうと思う。信じて続けていればきっと...そう思ってやれば何かがいつか、形を作ることができるのかもしれない。
ここに書かれていたことは、短期的なテクニック、よりも自分の人生を考える際の「考え方」だったりするような。サラリーマンという立場なれど、自分で切り開いていく道はある。それは属する企業の中だけの話ではない。

【ことば】「会社の外」でも稼いでやろうという発想は、一日を有意義に使っていい人生を作っていくきっかけになるものです。さあ、明日から始めましょう。

「明日から始める」ことが第一義。そしてどんな形であれ、「続ける」ことがポイント。続けていれば見えてくるものもあるはず。著者のような「大物」になれなくても、自分の身の丈にあった「成功」はあるはず。

【書評家のご意見】
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Cafetish's Blog
私の通勤読書メモ

サラリーマンのための「会社の外」で稼ぐ術 複数収入獲得マニュアル (朝日新書)

2011/09/05

その前に...「シンプル」にするテクニックが必要かも


『いちばんシンプルな問題解決の方法』諏訪良武
[2/158]RakutenB
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

どんな「問題」もたった2つの質問で解決してみよう、という夢のようなハウツーを紹介...その質問は、
・タテの質問=その原因を1つあげてください
・ヨコの質問=その原因が解決できると、この問題はすべて解決できますか?
たったこれだけ。「タテ」で問題を深堀りして、「ヨコ」で展開する。そしてこれらに当てはまらない、つまり自分(たち)で解決できないような問題(たとえば社会情勢)には触れない。シンプルですねー。
問題解決に関するハウツー本の内容を、無駄をそぎ落として限りなくシンプルに、分かりやすくしたような内容です。タイトルにある『いちばんシンプルな』は偽りではありません。
多くの「問題」は、確かにそれで「ほどいて」いくのが解決の本質だと思われます。が、もうひとつのポイントは、「シンプル」に分解できない事情をどうするか、という点。自分たちではどうにもならない「変えられない」要素については、現実的にはこれがその環境の大部分をしめていることが少なくないと思われます。いわゆる「しばり」ですね。この閉塞の中にいると、「シンプル」にしたが故に、実効性が乏しかったり、(その点に触れないと)そもそも問題解決を目指すことの意味が見いだせなくなる危険性もあります。
おそらく現実の世界では、その「しばり」によって、シンプルに考えることができない、或いは考える意味がない、ということが多いのでしょう。この部分をどう考えるか、どう「いなす」のか。そこが「問題解決」のポイントかもしれません。これのキーワードはおそらく「ヒト」になるんでしょうね。テクニックではクリアできない点が、やはり「人」の問題だろうと。売上数字や業績、実績についても、突き詰めれば「人」の問題にあたるはずです。
ハウツー本がどうも自分の中に入ってこないのはこの点がやや不足していて、テクニックに重心があること、です。事例や「使い方」について、この本は非常に優れている内容だと思いますが、「その上」の問題については、やや力不足の感があります。まあ、この「上級編」を本で解決しようと思う、その考え自体に誤りがあるような気もしますけれどね。
社会人で最初に出会う「問題」に対しての「解決」としては、有効なツールであると思います。自分の場合は、読むタイミングがよくなかったかなあ、という感じです。

【ことば】問題解決の場合には、効果度と実現可能性の高いものを優先させるのが、ベストな方法です。

重要度、緊急度で優先順位を決めるのは間違いだと著者の論。これらを重視しすぎると、肝心なことが後回しになってしまう危険が...「目」の向け方、ですね。これは問題解決の極意ではないかな。なかなかこういう視点を視野にいれている人は少ないのが現実だけれども...

たった2つの質問だけ! いちばんシンプルな問題解決の方法―「タテの質問」で掘り下げ、「ヨコの質問」で全体像をあぶり出す

【書評家のご意見】
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ちょーちょーちょーいい感じBLOG
いまやれることをやる。 

2011/09/02

あくまでも「学問」でした。

渋滞学 (新潮選書)
渋滞学 (新潮選書)
  • 発売日: 2006/09/21

『渋滞学』西成活裕
[1/157]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★☆☆☆

もう20年くらい前になるかもしれない。「JAF」の雑誌で、渋滞の原因のひとつに、「サグ」というものがある、という記事を読んで非常に興味深く思ったことが記憶になる。サグって、つまり緩やかな(気づかないくらいの)上り坂にさしかかる個所、ってことで、無意識に車のスピードが下がることによって、ある程度の密集度のある状況だと後続の車が次々にスピードダウンしてブレーキを踏むようになって、結果渋滞が...ってことだった。当時に比べれば、「上り坂。速度注意」っていう標識があったり、もっと大きな原因であった料金所が、ETCの普及によって緩和されたり、かなり「取り組み」はされているんだなあって改めて思う。
そんなこんなで、車を運転する身になって考えて、この「渋滞のメカニズム」的なものには興味がある。「学」門としてあるとは知りませんでしたが、精神的な意味も、或いは時間コストという観点でも、渋滞は基本的に回避したい、というのが万人に共通している「問題点」である以上、それを解決するための研究が存在するのは当然だろう。
本書はその課題に取り組んでいる著者が、車だけではなく、人間そのもの、アリ、インターネット、たんぱく質、などさまざまなフィールドにおける「渋滞」を、簡易にしたモデルを使って「解説」してくれるというもの。著者自身が本書で述べているように、専門家向けの論文ではなく、一般向けに「やさしく」説明してくれているものである。が、やはりそこは「学問」であり「専門家」「科学者」であるので、途中から「難しさ」が、「(渋滞への)興味」をはるかに上回るようになってしまって、結構読みこなすにはパワーが必要。インターネットの例あたりで、専門用語(専門家にとっては「一般用語」扱いかもしれないけれど)の比率が多くなってきて、後半はアタマに入らなくなってしまった...
アリの行列にも「渋滞」が生じる、という話や、電車の「幅広ドア」などの取り組み、など面白い話もでてくるので、読めるところは読めます。「学術書」ではないので、興味がより深ければ読み切れたのかも...ちなみに東京メトロ東西線の幅広ドアは、個人的には嫌いですね。ドアの開け閉めに余分な時間がかかるし、すいている時間帯に席の少ない幅広ドア車両がくると気分的によろしくない。
都心と空港を結ぶリムジンバスが、GPSとリアルタイムの渋滞情報を利用して「管制塔」のようなコントロール機能によって、高速を使ったり一部一般道を使ったりして時間通りの運行を実現している、という話は面白いし、こういう取り組みが実行されることが「学問」の在り方だと思いますねー。
「渋滞学」自体が新しい分野であり、従来の他の分野との「横断的な」取り組みであることを強調されています。これは大事なポイントかもですね。渋滞は誰でもイヤなもの。外的環境に左右されることは多いし、そもそも心理的な要因が多いと思いますが、こういった課題に取り組む姿勢は、なんだかかっこいいと感じます。

【ことば】...砂時計で1分を正確に測るのに必要な砂の量や容器の形を理論的に計算することすらまだ誰にもできていない...実験と経験と勘によって作られている...

「へぇ~」って感じですねー。昔はいざしらず現在ではもっとも「科学的」に作られているのだと思ったら...科学でも越えられない「経験」って価値があります。こういうのがあるから、おもしろい。


渋滞学 (新潮選書)

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