- 今日の風、なに色?―全盲で生まれたわが子が「天才少年ピアニスト」と呼ばれるまで
- 発売日: 2004/03/31
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K-amazon ★★★☆☆
全盲で生まれたピアニスト、辻井伸行さんの、生まれてからピアノに興味を持って、ステージに立つまで、その間の「母親」の心情を語った内容です。なんらかの原因により一度も「見る」ことができない伸行さん、自分のお子様がそのような状態で世に出てきたことに対する母親の苦悩、葛藤、努力...自ら、そして自分の周りに障害がある方がいない自分には、その苦悩を追体験することはできません。間違いなく、自分の環境から想像する世界を超えたものがあるから...もちろんわが子への愛情は変わらないにしても、相当の苦悩をされたことは間違いないでしょう。
そんな中で、伸行さんはピアノ、音に対する興味を示します。著者であるいつ子さんは、そこに可能性を見出します。母親のその「思い」によって、音楽家への道を歩み始めた伸行さんの周りに、素敵な人が集まってきます。音楽の才能を見出し、それを昇華させるのに、周りの第一線で活躍する「先生」たちが彼の後押しをするように。これは偶然ではけしてない。いつ子さんの「愛」「思い」これらが引き寄せたのでしょう。そしてその人たちと共に、なによりも伸行さんとともに、「成長」していく母親がそこにいます。バイオリンを共に習い始める姿、伸行さんの演奏に合わせて子供向けの「朗読」を始めた元アナウンサーであるいつ子さん。
深い「愛」を感じずにはいられません。もちろん、伸行さん本人は、(本の中ではあまり書かれていませんが)持って生まれた才能だけではなく、相当な努力を継続しているはず。単に練習時間だけではなくて、集中力や、感性を高める努力など。そして、それを支える母親がいること、これが伸行さん自身の大きな「中心」になっているはずです。あまり本書には登場していませんが、医者である父親の支えもあるのでしょう。特に医者という職業に従事している中で、障害を持つお子様を受け入れて成長を見守る、というのは、それも「想像を超えて」いると思うのです。
伸行さんの演奏について、「全盲の」という紹介文がついているうちはまだ未完成、という旨をご両親が話しておられます。この言葉を発することができるのは、ご両親が立派な心をお持ちであることの表れでしょう。そしてその「愛」を全身に受け入れ、ピアニストとしてもっともっとスケールの大きな、オリジナルの「表現」をなし得る「プロフェッショナル」になっていくことだと信じます。
この内容から何かを得るのは直接的には難しい。「全盲の人だって頑張っているんだから...」というのは間違っている気がします。全盲だろうが晴眼であろうが、がんばる人はがんばる。「人として」どうか、というのは、障害とはまた違うポイントですからね。ですが、この家族の「つながり」「子を思う気持ち」「親を思う気持ち」、これは素直に自分の中に入ってきました。それで十分かもしれませんね。
ピアノ、聞いてみたい。本心からそう思ってます。その世界に触れてみたい。
【ことば】『今日の風、何色?』は伸行が言った言葉...大好きな食べ物に色というものがあるなら、同じく大好きな風に色があっても不思議はありません
これほど素敵な言葉はないですね。伸行さんの感性がこの質問に凝縮されているようです。こういう感性、もちろん単純に真似できるものではないけれども、忘れていた何かを思い出させてくれるような気がします。
今日の風、なに色?―全盲で生まれたわが子が「天才少年ピアニスト」と呼ばれるまで
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