『木暮荘物語』三浦しをん⑧
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木造アパート「木暮荘」に住む人、その住人の周りの人たち、彼らが繰り出す7つのストーリー。それぞれ語り手=主人公が異なる展開です。ひとつの出来事を違った視点から見ている、という側面もあって、それぞれの短編の「繋がり」は楽しめる内容。
登場人物は、性別や年齢、置かれた立場もそれぞれ個性が際立っています。だからこそ、彼ら一人ひとりが持っている個性、抱えている事情、今求めているもの、これらがダイナミックに入り乱れる、そんなイメージなのですが...これらをつなぎ合わせる「テーマ」が、実は「セックス」。「木暮荘」という舞台はあまり表だっていなくて、人それぞれがセックスというものをどう考え、どう求め、というのが貫かれたテーマなんです。
最初は「どぎつい」感じがぬぐえませんでしたが、徐々に(慣れてしまったのか)生々しい感じはあっても、いやらしい感じは消えていきます。もちろんその描写とかがあるわけではなく、あくまで主人公のアタマの中でそれをどうとらえているか、ということなのですけれど。
木暮荘の住民たちは、その大家さんも含めて、非常に近しい距離で生活をしていながら、ほとんど交わることがありません。それぞれがそれぞれの生き方をしている。それぞれが「今」の事情の中で、或いは「過去」に起こった事情を引きずって生きています。それはたくましさ、というよりも、「現実感」と言った方が近いかもしれない。
現実に人はそれぞれに事情を背負って生きています。表に出すこともあるし、内に秘めることもある。今自分を創り上げているのは、過去の事情が影響している、ということもあります。
これって...極めて「フツー」のことですよね。生きること、自分のこと、他人との絡み、社会との関係、人は誰しも「自分だけの」人生を生きている。自分だけの事情を持っている。
貫くテーマが「アレ」なんですけれど、そこを一旦除外すると、結構「現実」的な人間ドラマという読み方はできるかなあ、と思います。もちょっと舞台=木暮荘が個性的でも面白かったかなあ、という気はしましたけれども。
【ことば】つながり溶け合う手段は年齢とともに変わっていく。粘膜の熱から皮膚のぬくもりへ。見つめあう視線から表現力を増した言葉へ。
結構ドキッとする言葉。著者も女性であるが、女性はこんなことを意識しているのだろうか。男性は(自分は、か)「何も変わらない」と思っていた。確かに「言ってくれないと解らない」と言われることが多くなった気はしていたけれど...
木暮荘物語
>>本書の感想文、見つけました!いろいろな意見、読み方があってもいいですよね <<
わたしの読書録
勿忘草-ワスレナグサ-