2012/03/10

リアルな怖さとやるせない未来。

番犬は庭を守る
番犬は庭を守る
  • 発売日: 2012/01/27

『番犬は庭を守る』岩井俊二
[4/40]
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

原発事故の影響で、人類は子孫を残すという生物本来の機能を果たしきれなくなる。そんな中で生殖可能な人間は大金持ちになり、世の中は差別と搾取が横行する愚かな世界へと突き進む。

未来の話である。すべては20世紀のエネルギー構想=原子力発電が起因となり、その管理機能の不足から起きた事故による人類への影響。変化。それによって「人間が生きる」ということが何であるのか、本質すら変化してしまうような事態へ。

怖いですよ。読んでいて怖くなります。「原発事故が過去に起こった」時代が設定されているんだけど、もはや「今」だってリアルにおんなじ世界だし、これから先もそう、ってことでしょ。ヒトの命の持つ価値が変わってしまっていることへの怖れ、そしてそういう世界観に「慣れ」てしまっているその時代の住人の思想への怖れである。
小説の世界、未来の想像にすぎないが、妙にリアルなんだね。

マクロで考えると、子どもが生まれないってことは人口が減るっていうことで、そんな「将来的に人口が増える可能性が極めて低い」社会に活気が生まれるわけがなく、その衰退、消滅は火を見るより明らか。そんな世界は本当に恐ろしい。
その原因が、原発であり、それは人類の発展に活かすためのエネルギー政策であるというところが、矛盾、ジレンマ、リスク、違和感を感じるところであり...

でも、こんなリスクを背負ってまでも、目の前のエネルギーが必要なのか、って考えてしまう。
「人類の未来」に思いを馳せるほどの人物ではないけれども、怖いんですよ、原発っていうリスクは。それが現実になっているわけだからね。

小説でありながら、直接的に原発のことに触れているわけではないけれども、全編を通じて伝わってきたのは、そういった「恐怖」でした。消滅へ向かっている社会で未来を描くことは...不可能でしょう。その時に何を考えるんだろうか。

いや、それを考えるよりも、社会がそうならないことを考えなければならない。
暗い闇を描くこの小説は、何かを思い起こさせる。かなり印象に残る230ページ。

【ことば】 長老が言う。考えてもみろ。人間が死ぬ確率は何パーセントだい?...百パーセントさ。

危険な施設で働く労働者。1週間に1人が命を落とす環境。そんな中でのこのセリフは究極に後ろ向きである。「だから気にするな」ということ。同じセリフでも「だから生を充実させよう」と続くのとは正反対。社会の在り方によって、同じことでも正反対になるケースが、ある。

番犬は庭を守る


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究極映像研究所
ぬるいし。

 

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