2012/02/25

戦時中の、こんな視点の話は初めて、かも。

小さいおうち
小さいおうち
  • 発売日: 2010/05

『小さいおうち』中島京子
[16/34]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

戦前~戦時中、女中の視点から見た歴史小説。タイトルは有名な絵本と同様で、この2つはどこかでつながってきます。
戦争の話というと、戦争「そのもの」の史実や、直接的にそれに関わった人たちの悲劇が語られるけれど、本書はちょっと違います。女中という(今ではほぼ見られなくなった職業ですが)人間から見た戦争。「プロ」の女中としては、戦争よりも奉公している奥様のことを考えます。ただでさえ曲げられた情報は、女中の耳には入ってきません。もちろん食糧難などから空気は感じられますが、全員が全員、竹やりを持っていたわけではないんだな...って、当たり前かもしれないけれど、画一的な偏った考えをしていた自分に気づきました。

比較的裕福な「おうち」が舞台(女中がいるくらいですから)、登場人物は限られていますが、そこに、開戦から終戦までの戦況だけではなく、男と女、大人と子供、いろいろな「人間」ドラマが展開されます。「家政婦は~」ではないですが、女中はある意味フラットな目線で、そのドラマを見つめます。
キーになっているのは、「始まったものは、いつかは終わる」というセリフに表されているような気がします。温かい家庭も、秘密の関係も、女中としての働き場所も、そして戦争も。

戦記モノというには、あまりに穏やかな日々が描かれているように思いますが、それゆえに「いつかは終わる」出来事が衝撃的で、重いんですね。戦争について考えさせられるのは、「史実」の記述だけではなく、本書のような「一般市民の目線」からもうかがい知ることができます。

もちろん読み物として面白いんですが、なぜか前半は読むスピードが上がりませんでした。それが後半になると...さすがですねー。主人公=書き手となっている「タキ」の好印象な人柄も手伝って、全体的に「明るい」雰囲気で進みます。途中挫折する心配はありません。

そして最後には、前半中盤で出てきた出来事や、タイトルや、それが伏線になっていて、どこかでつながる、という大技が見られます。これは圧巻。非常に印象に残る直木賞受賞作です。

【ことば】あの時代は誰もが、なにかしら不本意な選択を強いられた...「...それが不本意だったことすら、長い時間を経なければわからない。...

特に戦時中は、「不本意」なことが多く、そしてそれらを「不本意」とは思わなかったのかもしれない。 酷い時代。今はどうか。当時と比べようもないけれども、「不本意」なことは「本意」に変える努力が必要な時かもしれない。

小さいおうち


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