2012/07/31

誰もが痛みを抱えている

青のフェルマータ Fermata in Blue (集英社文庫)
青のフェルマータ Fermata in Blue (集英社文庫)
  • 発売日: 2000/01/20

『青のフェルマータ』村山由佳
[20/135]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

オーストラリア、イルカ、チェロ、精神的疾患...これらのテーマが絡み合うストーリー。「癒し」という言葉が最も適しているのかもしれない。主人公は家庭的なトラウマから言葉が出なくなってしまっている。それを治すために選んだのが、アニマルセラピー、イルカの力を借りることであり、その場所がオーストラリアであった。そこにいるセラピスト、イルカ施設のスタッフ、主人公の音楽の師、いずれもが抱えているものは...

だれしもが、生きている中でトラブルに直面し、それを突き破るための策を模索している。攻撃的な表現をするケース、黙って自分の中で完結しようと試みるケース、他人に施すことで解決しようとするケース。それぞれがそれまでの人生の中で経験した苦しみを解き放つための表現を探している。

主人公の場合は、それが「ことばを出さない」という行動になっている。そんな中でイルカと共に過ごす日々、言葉が出なくとも、精神的に苦しみ攻撃的な行動に出ようとも、それを受け入れ包み込む人たちに囲まれ、やがて自らの殻を破る時がくる。
「セラピー」という言葉にすると、それは医師のような存在が全面的に「治して」くれるようなイメージだけれども、最終的に「あるべき姿」を自分で認識し、そこにたどり着くための行動を起こすのは、他ならぬ自分である。本書のイルカのような「アニマルセラピー」にしたって、彼らが全てを「治」してくれるわけではなく、そこから「何か」を得て自分の力にできるかどうか、という点がポイントだと認識。

イルカによるヒーリング、ということよりも、人間が生きる上で必ず訪れるであろうトラブルと、どう向き合うか、それによって受けてしまった傷にどう対処するか、そんなテーマであろうと思います。ストーリー的には、「女性」が前面にでているので、異性である自分にはちょっと距離感ができてしまい、且つ抑揚があまりない展開なので、正直「長く」感じた分もありましたが、さらっと読んでもそれなりに心に残る読後感です。

【ことば】この小さな観客とイルカたちの前で弾くと、なぜか、自分の生み出す音の世界に没頭していくのがあっけないほどたやすくなる。それはもしかすると、彼らだけが、決して批評家になることをしない純粋な聴衆だからなのかもしれなかった。

主人公の女性はチェロを弾くことで、言葉が出ない代わりに、自らを表現をします。純粋に奏でる音は、純粋に聴くイルカたちとの間で、美しい調和を創り上げているようです。そういう音楽、って素晴らしい「表現」です。

青のフェルマータ Fermata in Blue (集英社文庫)


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野球のない日は本を読もう。
読み人の言の葉


2012/07/29

ヒットの理由は、技術だけではなく、ストーリーにある。


『トイ・ストーリー2』レスリー・ゴールドマン
[19/134]Library
Amazon ★★★★★
K-amazon ★★★☆☆

1996年3月の日本公開からもう15年経っているんですね...でも全く色褪せない感動があります。「トイストーリー」。劇場ではもちろん、DVDも何回も見ています。最終作[3]では泣かせるパートもあったり...

全編コンピュータ・グラフィックという制作技術の特異性が話題になりましたが、この映画のシリーズが素晴らしいのはそれだけではありません。綿密に練られたストーリー、後から伏線に気づく起承転結、人間のキャラとなんら変わることのないメッセージ性。ストーリーだけ見ても、かなり完成度が高い作品だと確信できます。

本書は、「映画が先にあって」の、”ノベライズ”です。 なので、映画に忠実に描かれており、映画の興奮を思いだす以外に、本書だけの感動は得られません。ま、素晴らしい映画を文字にするとこうなるのね、くらい。顛末もわかっていますし、このあたりは映画だとあの辺だなあ、って思いだしながら、数十分で読めちゃいます。

「2」は、個人的にはシリーズの中で最も面白いと思っているもの。偶然が重なって「さらわれた」ウッディは、博物館で「見られる」存在を選ぶか、アンディのおもちゃとしての役目を全うするか、選択を迫られます。いつまでも「アンディのおもちゃ」としてはいられない。いつかは別れる日が来るだろうと解ってはいても...

映画を見た後は、正直「おもちゃ」のことや、「おもちゃ」を友達と信じて疑わなかった幼年時代を思いだしたりしたのだね。この本を読んで改めて思いだすこともあった。部屋にあるおもちゃが夜動いているんじゃないか、動いていても不思議じゃないような気もした。

ウッディやバズは変わらないけれど、アンディは大人になっていく。そこに「時間」の避けられない事実と、ある意味の厳しさ、淋しさがある。変わらないものと変わっていくもの。
あとから知ったのだけれど、あのスティーブ・ジョブズもこれにこの映画に関わっているのがすごい。大人になってから出あえたタイミングは、むしろ良かった気がしています。

【ことば】「アンディのこと?いや、心配していないよ。アンディがおとなになっても、おもちゃに関心がなくなるまでは、楽しくすごせると思う。それでいいんだ。」

無事にアンディの部屋に帰りついたウッディがバズに対して。自分の役割を見出したのか、それは投げやりなセリフではなさそうだ。「人間側」としては、そんなおもちゃを、「自分が関心がある」あいだは、大切にしなくちゃ、そう思う。

トイ・ストーリー〈2〉 (ディズニーアニメ小説版)


 

2012/07/28

「優し」さに包まれた1冊。

優しい音楽
優しい音楽
  • 発売日: 2005/04

『優しい音楽』瀬尾まいこ⑧
[18/133]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

表題作ほか2編の短編集。不思議な出会いからお互いの理解を深めて改めて知る「出会いの理由」、不倫相手に自分の娘の世話を任せる話し、まさか?の拾い物から始まる生活の変化...
物語の展開が「起承転結」だとすれば、本書の3編は『承』の部分で、意外な展開が設定される、といった感じです。

タイトル作は、見ず知らずの女性から「ひとめぼれ」され、やがて恋人同士になるストーリー。その「ひとめぼれ」の理由と、なかなか女性側の両親に紹介してもらえない理由が一つになります。それは隠すようなことではないけれど、敢えて口に出す必要もないことで...それを乗り越えて繋がる絆、そんな関係を創る主人公たち。

 『タイムラグ』は、夫婦だけで出かける際に、自分の娘の世話を、こともあろうに浮気相手の女性に預ける。そしてその女性が知る事実は...
 
個人的には最も心地よかった『がらくた効果』 。気がつくと「もの」があふれる、そんな癖のある女性が、今回「拾って」きたものは...?そしてその「拾いもの」がもたらした効果は果たして?

広くは「日常の中での非日常」という位置づけでしょうか。どれも「男女関係」が主軸になっているものの、当事者の二人とは違う人の存在で、その二人の関係性が強固になっていく。
女性視点の物語なので、主人公の男性たちは、あまり「色」を持たされていませんが、包容力のある、「大きな」人間で描かれます。これがストーリー全体を「温かく」「優しく」している一因だと思われます。

瀬尾さんの作品の中では、「抑揚」があまりない、平坦なストーリーで、少しだけモノ足りなさも。「温かさ」は、確実にあります。

【ことば】「前の人が到達できなくても、スタートのチャンスがあるし、たすきがなくても、スタートしなくてはいけないのですね...もうだめだとわかっていても、走らないといけない...」

駅伝を見ながら発せられた言葉。繰り上げスタートの悲哀は、すなわち下降気味になったときの人生に当てはめられる。すべてがうまくいかないような気分になる時、それでも前に進まなければならない。先に待っているものがあるから。

優しい音楽


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本を読む女。改訂版
HEART GRAFFITI~本カフェ~

2012/07/27

30年経っても、いいものはいい。

おみそれ社会 (新潮文庫)
おみそれ社会 (新潮文庫)
  • 発売日: 1985/12

『おみそれ社会 だれかさんの悪夢』星新一
[17/132]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

当時「ショートショート」とか「SF」って言われていた頃、もう30年以上前になるか、よく読んでました、星新一。時間が経って、自分も社会も変わってから読む星新一。どんな気分になるか、自分でもy楽しみにして。

氏の作品の中でも比較的「長編」の類で、また、社会風刺の色が濃く出ている『おみそれ社会』ですが、まったくといってよいほど色褪せていない。当時は「未来」のことであったコンピュータや携帯電話、それとそのころまではそうだったんだなあと思わせる「女性」の描写(社会的に男性と差があるという意味で)に関しては、「とき」を感じさせるものの、ストーリー的には、現代でも完璧に通用します。

その時点での「未来」を描くものが多いのですが、今となってそれが実現したものと、「宇宙」関連の、「現在でもまだ"未来"のまま」というものがありますが、「星新一の世界」が大人になってもまだ十分に楽しめる、そんな嬉しい読後となっています。

『だれかさんの悪夢』に収録される、「宣伝の時代」という作品が特に秀逸でした。「条件反射」を利用して、刺激を受けると宣伝の言葉がでる、という機能を個人が売る。ひとつ例を出してしまうと、
「車内で中年の男があくびをすると、『疲労回復の栄養剤は強力ドミンが一番』と口走る」
といったように、自らの体、言葉を「宣伝媒体」として使う、という「時代」を描く。

考えてみれば、当時から見れば、バスのラッピング広告や、トレインジャックなど、想像もつかなかった広告媒体が普通になっている。これがさらに発展して「人間(の条件反射)」すらも媒体として使われている、という内容。
...すごくないですか?著者にしても数十年後にあらゆるスペースが広告媒体になるというのは想像だっただろうし、それがある意味で的中しちゃうのもすごいし、もしかしたらこの「人間が媒体に」というのも、あり得るかもしれない、と思ってしまうのもすごい。

短い作品の中で、工業化や効率化、都市化していく社会への風刺、皮肉を表し、本来人間として生きる価値、求める幸せはどこにあるのか、っていうのを考えるきっかけを与えてくれる。
30年前はそんな読み方をしなかったけれど、読書の「可能性」「楽しさ」を再認識させてくれる時間でもありました。

【ことば】朝からさまざまな商品名を聞かされたが、すぐに忘れてなんにも記憶に残っていない。人間のひめている可能性ははかりしれないが、人間のひめている適応力のほうがもっと大きいようだ。

前述の「宣伝の時代」の締めの[ことば]。まさに今の「広告」の位置づけを表しているようで怖い感じすらします。ってことはこの時代から「広告」はそういうとらわれ方だったのだね。

おみそれ社会 (新潮文庫)

2012/07/26

「メッセージを伝える」ことに通じる

漫才入門 ウケる笑いの作り方、ぜんぶ教えます
漫才入門 ウケる笑いの作り方、ぜんぶ教えます
  • 発売日: 2008/09/10

『漫才入門』元祖爆笑王
[16/131]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

プロの放送作家が実際に行った「漫才教室」。かなり真剣な「芸」としての漫才を「解説」します。そもそも漫才とは二人で行う「会話」であり、また、見ていただいているお客様に、何をどう伝えるか、という観点が必要。ネタの内容、しゃべり方、キャラクター、すべてが考え抜かれた熟練されたものになって初めて、「本物」として受け入れられる。そして、一度受け入れられてもそれらを常に「更新」しなくては、他のものにとって変えられる。

...ってこれ、ビジネスと一緒です。売るための商品、サービスの質が高く、それをどう消費者に伝えるかが重要で、販売者としての信頼を得なければならない、そして、常に高いレベルに向かって更新していかなければならない。一緒です。

大前提として、常に情報を集める、引き出しを多くする、一分野については深い知識を持つ、オリジナリティが必要、である。そしてお客様との関係性は、「共感を得ること」である。「お笑い」に対する価値観が以前とは変わってきて、人を楽しませることの困難さ、っていうのが痛感できる今、彼ら一流の技は、尊敬に値するものがある。「本番」に臨むまでの準備にも思いを馳せることもある。
が、ネタを見ている時は、そんな理屈を忘れさせるような「共感」が感じ、シンプルに笑ってしまう。

プロの技、だなあと思う。本書で示されているように、「起承転結」がなされたストーリーがあり、「階段をあがるように」ネタの切れ味が、落ちに向かって上がっていく。安定してテレビにでている一流のコンビは、やっぱり違うなあ、って改めて思う。

ビジネスにおいても、「買う人に喜んでもらう」ことが大事であり、初期の接触において「共感してもらう」ことから関係性が高まっていくことは全く相違ない。漫才において「次も見たい」「話題にする」という点もまったく同じだ。店舗における直接販売でも、無店舗(通販)での販売ツールでも、売る側は「ストーリーテラー」にならなければいけない、ってことだ。

そういう見方をして読んだ。何も今から漫才師を目指そうとは思っていないけれど、確かに得るものはあるんです。なによりも「今を知るための情報収集を行い、自分の言葉で伝えることで共感を得て、将来に続く関係性を創る」というのは、漫才でいうパフォーマンスであり、ビジネスでいうマーケティングであるのだね。

【ことば】...漫才を成功させるための秘訣を二つ挙げます。一つ目は、ただひたすら続けることです。...二つ目は、「芸人である前に人として、いい人でなけらばならない」ということです。

どこかで必ず来る「壁」にあたっても、その壁を越えるには「続け」なければならない。そしてメッセージを伝える先に「人」がいる、その人に共感してもらうには、自分を受け入れてもらうには、自分自身が高い人間性である(あるいはそれを真摯に目指している)必要がある。

漫才入門 ウケる笑いの作り方、ぜんぶ教えます

2012/07/24

「オチ」には不満も、なかなかエキサイティング

盤上のアルファ
盤上のアルファ
  • 発売日: 2011/01/06

『盤上のアルファ』塩田武士②
[15/130]Library
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★☆☆

「盤」とは将棋盤のこと。人生落ちぶれた一人の男が唯一持っていた、将棋への執着。生きる死ぬというレベルから這い上がるストーリー。将棋への興味は正直それほどないのだけれど、かなり楽しめた。

33歳の「棋士」と、将棋を含む文化面担当に「左遷」された同年代の新聞記者。人生の落伍者のような自意識にさいなまれる毎日から、ひとつだけ興味を持つものに邁進する姿に変わっていく様は、まさに「小説的」であり、エンターテイメントとして楽しめる。

33歳で定職を持たず、プロ棋士への執着を捨てきれない男、事件記者としてのプライドを捨てきれず、職場での協調性を発揮できずに左遷された男。そんな社会から落ち気味の男を支える小料理屋のおかみ。もちろん大きなテーマは「将棋」ではあるものの、圧倒的に人間ドラマが中心である。作中、33歳にして社会に適合できないことを悩み抜く姿、「無理はできない年代」という科白、見に沁みます。が、一回り上の世代からみれば、冒険せずに何が変わるのだ?と思ってしまうし、背負ったものがあっても、年齢がいくつであっても、飛び出す勇気があるかないかだけの違いであると思ったり。

結局プロ棋士を目指す男は、一心不乱にその道を進み始める。自分にはそれしかない、と気づいたからだ。登場の頃は、かなりの度合いで「社会不適合者」だったのだが、ひとつのことに熱中する姿を通して、人間的な男らしい姿に変わっていくのだが、なんとなく「話しを合わせている」感じがして、あくの強いキャラクターが貫かれてもよかったなあ、なんだか普通の人になってしまったなあ、という物足りなさも。

将棋の世界、という設定も面白いし、人物描写も尖った感じで面白いのだけれど、途中から「収束」していっているのが後半のモリアガリを小さくしてしまっているような...「勝負事」の結果は、(小説的に)なんとなくわかってしまったし(その通りの結果だった)、最後に入る「どんでん返し」はなんだか「え?」って感じでイケテない感じが...タイトルの「アルファ」はオオカミのボスを指す言葉らしいけれど、この言葉の鋭さと主人公、ストーリーが適合していないような...

将棋をしらなくても十分「楽しめる」ことは間違いありません。逆によく知っている人だったら物足りないのかな。いろんな分野の小説を書かれる著者が、自分の一回り下、と知って驚き。自分も何か一つのことに向かってまい進しないと、だね。

【ことば】不器用に正直に生きてきた男には、吐き出したくてもかなわなかった苦しみがあった。...枠組みがきっちりした日本社会では、もう自由を叫んでいい年ではなかった。

まだ「33歳」でこんなことを言ってはいけません。「自由」の意味をどうとらえるか、ですけれど、日本社会の枠組みがどうあろうが、そこに生きている自分の人生を自分で考えるのは大事なことです。そりゃ「食うため」に魂を売るようなこともあるけれど、それだけの人生じゃ、意味がない。

盤上のアルファ


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思いつくまま気の向くまま
たきたき感想部屋

 

2012/07/21

「依存症」からの脱却には、相当のパワーが必要だ

安売りしないでお客をガッチリつかむ技術
安売りしないでお客をガッチリつかむ技術
  • 発売日: 2012/01/20

『安売りしないでお客をガッチリつかむ技術』竹内謙礼②
[15/129]Library
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★☆☆

人は易きに流れる、競合に対抗して「安売り」に走るのは、そもそも考えが間違ってませんか?という指摘である。著者がコンサルタントとした関わるBtoCのビジネス、通販などは特に、「価格勝負」という「思いこみ」が根底にある。インターネット通販が浸透したことに伴って、容易に「比較」することが可能になった時代、「安い」ことが最大のポイントになってきている。

著者が何度も指摘しているように、「安売り」することは極めて短期的な策であり、体力を消耗することしか結果残らない。そして現場と経営の差が如実にでるのも、この「安売り」という戦略である(そもそも「戦略」という言葉さえも当てはまらないのかもしれない)。つまり、安売りすることで、「売れている」という感覚は得られる。薄利多売。この「多売」が前提であればまだいい。ただ何の見通しもなしに「まずは値下げ」という手法を取ると、いずれ「薄利」のみが残ることになる。
現場、従業員は、インセンティブで働いているのでない限りは、「多売」の方が実感を得やすい。そして消費者としての意識に近いので、「安値」を支持するのだが、人件費をはじめとする固定費を抱える経営層は、当然に「利益」を考えねばならぬ故、利益率の高いビジネスを模索するのだ。

本書では、まず「値下げ」という「安易な」考え方を捨てること、これには考え方を変えることや、場合によってはビジネスモデルそのものを変更する必要も説く。値下げ=いいこと、値上げ=悪いこと、という意識を先ず変える。「適正な」利益を売り手側が得ることで、その利益からよりよいサービスを還元する、という(考えてみれば当たり前の)流れに「意識的に」「構造的に」変革していくことを説く。

言っていることはよーく分かります。アタマでは分かっている経営者は少なくないはずです。それができないのは、「安売りしない」ビジネスモデル成功までにかかる時間を乗りきれる体力があるかどうか、でしょう。短期的な目線に舞い戻って「セール」をやってしまうこともあるかと。
著者のいうように、「意識改革」をしないと、そして安売り体質の脱却までの期間持ちこたえる体力を保持していないと困難かもしれない。ただ、いずれかの時点で限界を迎えるのがわかっているのならば、やはり最初はムリしてでも「体質改善」すべきかと思う。

方向性をはっきりと図示してくれる著者のメッセージは、ダイレクトに響きます。多少は似通った業界にいる自分にも、大きな刺激、頂いております。BtoBであっても「安売り」しない体質でいかないと、ですね。

【ことば】 だから中小企業がこれからの時代に生き残るためには、「ファン化」の、さらに上の、「宗教化」を目指して欲しい。

同じような商品、サービスがある中で、敢えて選んでもらうには、その商品を「好き」ではなく「大好き」になってもらう必要がある。さらには、情報流通が高まり、大手が「廉価」戦略を取ってくる中では、「ファン=大好き」を越えた「宗教的な」熱烈さが必要かもしれない。成功しているビジネス=宗教化、というのは、感覚的に同意です。

安売りしないでお客をガッチリつかむ技術


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Think about information technologies around me
2流を1流に変える営業コンサル
 

2012/07/20

40、50代男性は、けして読んではいけない。

明日の記憶
明日の記憶
  • 発売日: 2004/10/20

『明日の記憶』荻原浩④
[13/128]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★★

タイトルが表しているように、「記憶障害」、若年性アルツハイマーの男性のストーリー。広告代理店で部長をつとめる彼が、自身の親もそうであたアルツハイマーと告知された。まだ50歳である。世間的には「働き盛り」とも言える年代。本書を通して、その男性の目線ですべてが語られているので、徐々に進行する症状がいたたまれない時間の流れを作り出す。そしてあまりにも悲しすぎるラスト。

多少まだ先、ではあるが、自分の「その年代」に入ってきている。読み進めていくのが、正直怖かった。いつもいっていた場所、忘れたことのなかった約束、同僚や仕事関係の名前、そして私生活へと...怖い、怖すぎる。

「まさか自分は」とあくまで架空の物語として読むべきなのだろうが、少なからず「物忘れ」の傾向は自覚している中、「人ごと」に完全には置き換えれない恐怖の中、夢中で読んだ。

そんな中、本書を読んでいる期間に、こんなことがあって...

ある日の昼食に、牛丼屋に行った。「早い、安い」のアレである。ところが10分15分たっても出てこない。当然、店員が忘れているだろうと思い、催促しようと思ったとき...ふと、「もし既に食べ終わっていることを自分が忘れているだけだったら...」怖かったよお。そんなことはなかったのだけれど、あまりに本書にハマりすぎて、その世界に入り込んでしまったようで。

 また、営業担当として長い付き合いのクライアントの会社へ出向く彼が、何度も訪問した渋谷の会社の場所を忘れる、というくだりがある。そこまで電車内で読んだとき、自分が向かった先がまさに渋谷だったりしたのだ。

これまで著者の本は、同じ広告代理店の社員が主人公でありながらも、コミカルなユーモラスなタッチで、広告代理業の苦しさ、楽しさを表すものだった。この本は、同じ業界の人が主人公でありながら、まったく違うストーリー展開。

病気であり、特に自らは如何ともしがたい病気であるからこそ、主人公自身の気持ちもさることながら周りの人の大変さも同時に痛切に感じいる。最後の最後は...「泣ける」というよりは、「ついに...」という、なんとも言えぬ辛さと、「もうこうなったからには受け入れるしか」という達観とが、ないまぜになり...けれども、そこに少しだけ「光」を垣間見せてくれたことが、何よりも素敵なエンディングにしているような。

 仕事人生20年を越えたあたりの男性は、きっと怖くなるので、読まない方がよいです。それほどまでに、「本人」が語る戦いは壮絶。生きること、時間の大切さを知ることになりますが、なによりその病気に対して無力であるのが、本当に震えるほど怖い。

【ことば】歳をとり、未来が少なくなることは悪いことばかりじゃない。そのぶん、思い出が増える。それに気づくと、ほんの少し心が軽くなった。

とても素敵な[ことば]。本書の中では、逆説的な布石になっているけれども。こんな穏やかな言葉を見ると、前向きな気持ちになれるし、「今」と「これから」の大事さとともに、「前」の大切さも身に沁みる。


明日の記憶


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本のある生活
本を読む女。改訂版
徒然本読み梟




2012/07/18

淡々と...良くも悪くも後に残らず

沖で待つ
沖で待つ
  • 発売日: 2006/02/23

『沖で待つ』絲山秋子②
[12/127]Library
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★☆☆

住宅メーカーに就職した同期の男女。恋愛とも友情ともちょっと違う「同期」の連帯感のようなものが、その片方の死をもっても続いていく。
芥川賞受賞作。短いので1時間もあれば読めちゃいます。主人公の女性は、就職し福岡へ配属。同期の男性「太っちゃん」とのつきあいを深めます。ただこの関係は恋愛までは昇華せず、あくまでも同期生、困ったときに頼みごとのできる、信頼関係が結ばれます。

太っちゃんは、福岡の職場の先輩と結婚。結婚生活はなにかと「秘密」が生じるもので、同期生とある約束をします。「どちらかが死んだら」という条件のもとでの約束。そんな非現実的と思われた約束がなされるときが、意外にも早く訪れてしまう。

生きている方は、それを果たすべく行動する。それは「同期」という線で結ばれた固い信頼関係からでしょうか。女性主人公の目線で語られるためそれには触れていませんが、そこには「恋愛」に到達する一歩手前の感情があったようにも感じられます。あるいは男女の性差を越えた「友情」なのか。その間にある関係のようです。

仕事に関する描写は、少しだけ背景的に描かれますが、中心はこの男女にかかる日常のエピソード。太っちゃんが「いいひと」すぎる気もしますが、本人の不慮の事故以外にドラマチックな展開はありません。淡々と、それぞれの仕事、生活が展開され、仲間とのかかわりが続きます。

どちらかといえば、同時掲載の『勤労感謝の日』の方が、刺激的。エキセントリックな主人公(女性)の価値観、生きざまが前面にでていて、痛快でした。歯切れのよい言動、行動。でも少しだけ垣間見れる寂しさ。

勢いのある「勤労感謝の日」と、ゆっくりと昔話でもたどるような感じの「沖で待つ」。
どちらも「日常」を描いた作品ではあり、読後には同じような感想になるのですが、アプローチが異なる、というだけのことかな。

【ことば】半年たてば誰かが転勤し、まら誰かがやって来る...どこが最後かなんてわからない。一つの場所に一年しかいないかもしれないし、十年いるかもしれない。でもそれが生きた組織だと思っていたのです。

今目の前で起こっていることは、もしかしたら「人生最後」かもしれない。でも生きていけば、「最後」の場面なんてたくさんでてくるし、取り立てて意識する必要もない。できることは、目の前のことに一所懸命になること、一所懸命に「楽しむ」ことだ。

沖で待つ


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のっかとの若年性書評
多趣味が趣味♪



コミカル...ではなく、人間ドラマです

てふてふ荘へようこそ
てふてふ荘へようこそ
  • 発売日: 2011/05/31

『てふてふ荘へようこそ』乾ルカ④
[11/126]
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★★☆

最近「お気に入り」の作家さんです。どちらかといえば「硬派」な印象なのですが、本書はタイトルも表紙デザインもコミカルな感じで、ユーモア小説か、いう印象。

ストーリーは、「てふてふ荘」というオンボロアパートの「住民」が主人公。破格の家賃、その理由が明かされていきます。6部屋あるそのアパートには、住民「以外」に住んでいる者があります。かなり非現実的(非科学的)な設定ではあるのですが、著者の筆の強さ、それを受け入れてもあまりある面白さで、どんどん進む。

設定自体は、「小説的な」「オカルト的な」ものであるのですが、けして鬱々とした展開ではなく、住民ひとりひとりの背景、住民「以外」の置かれた背景が、みごとにひとつの話しとして完結していきます。部屋ごとに短編ストーリーが置かれ、それぞれが繋がっていく。テーマとしてはおどろおどろしい世界かもしれませんが、ある一線を越えたヒューマンドラマ、生きることの難しさと大切さが描かれてるように思います。

部屋数と同じ6つの話し、そしてそれを「まとめる」話しで構成、それぞれが同じ舞台で繰り広げられる主人公違いのストーリー。初出は雑誌に3カ月おきに連載されていたようで、もしもそれを読んでいたら、続きが気になってしょうがなかったであろう、そんなワクワク感を以て最後まで読み切り。

もしかしたら少しだけ「(社会的に)遅れをとっている」住民たちも、それぞれの背景を抱えて前向きになっていく姿に少しうらやましかったり。同じアパートに住む、という緩いネットワークでありつつも、そして最初は必ずしもその住居に対して満足していなかった住民たちが、アパートの存続にかかわる事件に対して団結する姿。

小説の世界、と割り切りつつも、「楽しめる」内容でした。少しずつでも、成長していく姿を見るのは、小説の世界でも楽しい。そして刺激を受けます。

【ことば】高橋君の中にも、ちゃんとヒーローはいるよ。だから、きっと...目をつぶる。一緒に笑い、過ごした日々の一つ一つのシーンを思い出す。逃げるなら、ここに来る前の自分にだってできる。

生きていれば、思い通りにならないことはある。むしろそちらの方が多いかもしれない。でも、逃げなければ、たとえその結果がどうであれ、必ずその次につながる。逃げずにやったことは、絶対に無駄ではないのだから。

てふてふ荘へようこそ


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Bookworm
DOしよーかな
 

2012/07/15

かなりの数の「?」と、わずかな「!」が残った

あたらしい東京日記
あたらしい東京日記
  • 発売日: 2012/06/25

『あたらしい東京日記』服部みれい
[10/125]
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

編集者、著者...その世界では「カリスマ」と言われる著者の、「日記」である。本当に「日記」なのだ。起床時間、食事、誰と会う、何を買う。著者自身が本書の中で吐露しているが、「日記を発刊すること」の意味を捉えかねているようだが、読者、特に自分のような著者を存じ上げない(すみません...)者にとっては、深い感情移入はムリがあるような設定。

お忙しい毎日を過ごされているとは思いますが、半身浴だの瞑想だの、買い物だ、食事だ...著者の「日常」に興味関心を持たれている方にはツキササルのだと思いますが、どのような方かわからないままに読み始めると、少々キツイ。著者自身の言葉であったように、仕事のコアな部分は書かれていないことが多分にあるだろうし、「オオヤケ」にできる部分は単調になりがちであるし、著者を中心に描かれる交遊関係、コミュニティにしても、それがとても暖かい、うらやましいくらいの関係性であることは読みとれます。
が、一方ではかなりのレベルで「ウチワ」なので、一度「ヒトゴト」と感じてしまうと、埋まらない距離になりがちであり。難しいですね、こういう「日記」って。

携帯電話を持たない、という実験や、仲間とのテレパシー実験など、本書のための(?)「企画」モノも含まれていますが、こういう「企画」があるから却って、「日常」が書かれている日記とのギャップが生じて、本書の流れを悪くしてしまっているみたい。


なんだか「ブログ」でいいなじゃね?という内容も多かった。ブログならば、例えば「半身浴20分..」云々に興味が薄ければ読み飛ばせるんだけど、「紙の活字」って(ブログのように)読み飛ばすことがしにくい。「本」である意味付けとして、そういう「企画」があるんだろうか...
 
著者が、仕事に対しても私生活でも、「自然体」で取り組まれていて、且つ、手を抜かないでがむしゃらに取り組む姿勢には刺激をいただきました。自ら「仕事でいっぱいいっぱい」と発言される方ってあまり好ましくないんですが、著者の場合は、さにあらず、でした。それは経営者でありつつも「現場の仕事」を大切にしていること、愚直にやることの大事さを持っていらっしゃるから。

自分にとって新しい世界観。こんなに頑張っている方もいるんだ。それに出会えたことに感謝しよう。

【ことば】 ...先生は、月曜日と火曜日を「自分との打ち合わせの日」としているのだって!...その日は完全に携帯を切ってしまうのだそうです...そして「現代は不足が不足している」とも。

著者が実験的に「携帯不携帯」に取り組んでいた際の話。現実的に自分の「今」、携帯不携帯はできないけれど(不携帯によるデメリットが上回っているから)、「不足が不足している」というのはササる言葉ですね。そのための技術開発であり、生活向上なのでしょうけれど、人間の性、「足りないもの」を欲するようです。

あたらしい東京日記


2012/07/12

理解はできますが...距離感はある

たかが英語!
たかが英語!
  • 発売日: 2012/06/28

『たかが英語!』三木谷浩史②
[9/124]
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★☆☆

社内の公用語を英語に、という楽天の取り組みが話題になっています。「外」から見れば、興味のある人もヒトゴトの人も。三木谷社長とはもちろん面識はありませんが、楽天さんとはお付き合いのある自分としては、「ヒトゴトながら興味がある」という感じです。

著者の言うところの「英語化」は、社内での会議、文書等をすべて英語にする、というもの。そもそも英語圏において情報発信がなされるケースの多い業界でもあること、何よりも楽天という日本発のサービスが今後「世界」を舞台に活動することへのメリットをあげています。

縮小するであろう日本の市場を飛び出し、世界を意識する。既に、海外企業の買収、提携を進めている楽天のアクティビティを見ても、そのスピード感や拡大のスケール、「英語化」することでますます広がっていくのでしょう。

そんな展開のために、トップが英断した「社内英語化」は、本書を読む限りでは、トップ主導で行われているようです。当然にいろいろ障壁はあったと思われますが、トップが先頭を切って自ら信じて発信し、実践する姿に、役員、従業員も意識が変わっていることと思われます。普段お話するような楽天の社員の方は、当然日本語なので、対するこちらとしてはあまり意識しませんけれど...

個人的には、母国語あっての英語だと思っています。自分だって流暢に話せるわけではありませんが、子どもに対しても、「まずは日本語を」という方針でいます。著者が言うように、英語が話せることが最終目標ではなく、あくまでコミュニケーションツールであり「たかが英語」なんですね。
コミュニケーションを取るには当然に「話題」がなければなりません。言語は別にしても「伝えたいことがある。それを適格に伝えられる」というテクニックを持たなければ、英語も日本語もありません。

あまりいい話ではありませんが、本書の中で紹介されている「社員の声」を見ても、また通常接する社員の方の話しを聞いても、「伝えたいメッセージ」が日本語としてできているか、微妙な点があるのは事実なんですね。この問題と英語化は無関係なのかもしれませんが、この取り組みについて若干の違和感があるとすれば、そのあたりなんです。

社長のリーダーシップはまさに感銘をうけるものであり、信念を貫いて(信念不抜)突き進む姿には力強さと信じるに足る尊敬の念を感じます。ただ、本書の「社内英語化」プロジェクトの「理由づけ」という内容が、誰に対してのメッセージなのか、今一つつかめなかった点はあります。
楽天という企業が海外市場で戦うために今必要なプロジェクトであり、社員の英語習熟度のKPI(指標)を見える化する、という手法も、経営的には有効な手段なのだと思います。ただ、著者自身は思っていることだと思いますが、本書の中には「英語を学習、習得することによる社員の人間としての成長、その結果としての企業の成長」という流れが見えにくい。

「さすが楽天!」と思いつつも、「今はヒトゴト」という意識が抜けないし、それはそれで「今は」いいのかもしれませんが...社長が意欲持って進んでいくように、数年後には「やっぱり楽天!」となっているのでしょうね。

【ことば】思春期以前にバイリンガルになるということは、コンピュータ用語で言うとデュアルCPUを持つようなイメージだ。

小学校での英語授業開始に対しての著者の意見。「始める時期」に関しては諸説あるので、あくまで意見としては受け入れますが、置き換えがコンピュータなのは「いかにも」という感じで、(僭越ながら)ほほえましい...

たかが英語!


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コンピュータ・書評・お仕事の記録
経理と猫

2012/07/11

熱い思い、それを受け取りましょう

挑む力 世界一を獲った富士通の流儀
挑む力 世界一を獲った富士通の流儀
  • 発売日: 2012/07/05

『挑む力』片瀬京子、田島篤
[8/123]
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

富士通、という会社から(消費者として)連想するもの...コンピュータ、携帯電話、といったところ。ところが、そんな表面的なレベルではなく、世界的なICTの取り組みや、それらの開発の前提となる企業「文化」があったとは...本書は、「革新」に取り組む富士通の「現場」の方の声、それらを集めたものです。

事業仕訳で話題になったスーパーコンピュータ、東京証券取引所のシステム、はやぶさ、などなど、「知ってる」ところにも、富士通はありました。もちろん、これらは最先端の技術開発がなければ成し遂げられない分野だけれど、本書に登場する「リーダー」の方々から伝わってくるのは、技術よりも「思い」の部分です。

世界最大級の光学赤外線望遠鏡の開発では「世界中の人たちの宇宙への夢に近づくため」、らくらくホンの開発では「使っていただく人たちの使い勝手向上のため」、次世代電子カルテの開発では「医師の業務改善、その先の患者さんたちのため」...
それぞれ「その仕事が何に(誰に)役立つのか」というストーリーで開発されていきます。そしてそれに携わった人たちは、当初は「なんで自分が?」という人も中にはいらっしゃいますが、「(その技術の)あるべき姿」を求めて、社内外を含めた大きな成果に向かっていくのです。

もちろん営利企業ですから、「採算」という面はあるでしょう。特に競合が少なくない業界だと思われますので、会社として取り組む案件かどうか、という視点もあったはずです。そこは富士通という会社の「文化」が後押しをします。
「ともかくやってみろ」というトップの姿勢。これが大勢の社員を擁する大会社でありながらも、現場のリーダーの行動指針として貫かれています。これが「開発」に向かう姿勢を正しい方向に導いているようです。つまり単に「短期的な数字」だけを追わない姿勢。

自分のようなICTの世界とは無縁の人間でも知っているような事例も含め、プロジェクトの立ち上げから結果まで、そこに携わった「人間」を中心に描かれています。なので、「技術」が苦手な人も「理系」を避ける人でも、十二分に読める。
むしろ、具体的な参考になることは少なく、ここに紹介された「現場」の方たちの「思い」を共感できる、という点が本書のポイントだと思われます。

「富士通は大企業だし、予算もあるから...」という思いも、読み始め当初は持っていましたが、次第にその「人間模様」に考えの軸が移ってきました。

富士通さんほどのビッグネームではなくとも、何かのプロジェクトに取り組む「人間」として読むと、共感できる部分、あります。

【ことば】「富士通は、人を幸せにするものを作らないといけないんじゃないでしょうか」...どんな事業にも、社会的な責任が求められると思っていた。

らくらくホンの開発にあたり、開発担当者が、上席に伝えた言葉。こんな思いで開発に携わるチームは、本当によいものを作るだろう。富士通のような大きな企業でこのような思いでプロジェクトを進めている。小さな企業は、よりこの「思い」を地道に愚直にやっていくしかない。

挑む力 世界一を獲った富士通の流儀


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鏑木保ノート
せのび道
本読みな暮らし






2012/07/10

あらら...コンサルの参考には...

コンサル日記
コンサル日記
  • 発売日: 2008/07/01

『コンサル日記』斎藤広達④
[7/122]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★☆☆☆

3年前に読んだ『サンクコスト時間術』は自分のバイブルです。著者の本は4冊目ですが、しばらく著作活動を休止されていたそうで、しかも本書は「小説」スタイル、タイトルからの印象も期待値を高めてくれました。

35歳の主人公は、かつて大手コンサル会社で勤めていたけれど、わけあって今は個人でコンサル業を営む。結構ボリュームの大きな仕事をされているので、駆け出しで汲々としているような姿ではない。まさに「日記」のように、案件やそれに関わる人たち、主人公の周りでサポートする仲間たちが描かれます。

が...どうも主人公のキャラクターにいまひとつのめり込めません。独立したとはいえ、「仕事を選ぶ」スタイルのような感じだし、仲間内に仕事内容を話しちゃう性格のようで、口の軽いコンサル、という「できるコンサル」とはま逆の方向のように印象づけられます。そして、「コンサル日記」というタイトルから自分が想像していたのとは異なる場面、すなわち、男女の恋愛に関するストーリーが少なくないボリュームで表現されます。

もちろん、「小説」として楽しめばいいのでしょうが、少なくともある程度の「コンサルとしての」姿を読みたいと思って手に取る人も多いのではないかな。その人たちにとっては(自分がそうであったように)期待外れに終わってしまいそうです。

コンサルティング業務としての成功例、失敗例、それが印象に残らないのです。どうも主人公の「魅力」が感じられないまま、仕事以外のシーンが半分くらいあるので、ふわふわと中途半端な感が...

 折角、実績も筆力もある著者だけにちょっと残念です。 やはり「現場」のことをそのまま伝えていただくほうが、著者からのメッセージが伝わりやすいかと。活動再開されているようなので、小説ではない「次回作」に期待して、待ちます。

【ことば】日々の糧に苦心する連中には革新なんて起こせない...潰れそうな中小企業の資金繰りの手伝いをしていても、世の中を変えられるような凄い仕事はできないぞ

主人公が父から言われる言葉です。確かにそうなのかもしれませんが、個人でコンサルである彼には「反論」してほしかったですね。「何も言い返せない」と結んじゃうと、この小説からのメッセージが何であるか、まったく読めなくなってしまうよ。

コンサル日記

2012/07/09

事例は考えるヒントになる。考えて考えて実行あるのみ

残念な人の仕事の習慣 (アスコムBOOKS)
残念な人の仕事の習慣 (アスコムBOOKS)
  • 発売日: 2010/09/20

『残念な人の仕事の習慣』山﨑将志②
[6/121]
Amazon ★★★☆☆
K-amazon ★★★☆☆

ゴルフ場の朝食をゼロにしたことによって起こったこと、ビジネスホテルに大浴場がある理由、いわゆる「WIN-WIN」の関係になるためには、「アイデア」が必要である。そしてそのアイデアの源泉は、「相手」=お客様、関係者との関係性がポイントである。そして「自分で考える」ことが重要...
ここにあげられた事例は、「はっ」とさせられるものも多い。その思考回路を何とか自分の目のまえの仕事で活かせないかと、考え抜くことが重要である。

若干、そこに「ビジネス」的な発想が加わり、非効率の業務の改善や、(当然ではあるが)将来的な利益、という側面が見え隠れするものの、特にこれからのビジネスにおいて「アイデア」というものが最も重要であることを再認識した。

餃子の王将の事例、半額メニューの実施において、単なる客寄せ宣伝効果のみならず、それによって料理の技術が向上することをも目論む戦術であったり、大手スーパーが実施する買い物袋不要の2円引きを、他の業態、業界で展開するようなアイデアを創出したり。
考えれ見れば、チャンスは目の前にあるのだね。少なくないチャンスが。

一方で、餃子の王将のような取り組みは、ある程度の「体力」が前提として必要になる。そもそもその「体力」が下限に近付いており、「今日明日」の問題に直面しているケースも少なくない。そのあたりに適応できる事例は少なく、より一層の「アイデア」を生み出す必要がある、と再認識....けれど、これって考えてみれば「あたりまえ」かもしれない。ここで改めて指摘されることじゃないけれど。

そのアイデアを生み出すためには、個々人の経験値、発想を生み出す資質を上げることが重要である。自分の考えだけではなく、当然に「相手」のことを理解、共有する考え方がベースとなる。企業の成功事例以外には、その「個人」にスポットを当てた「残念じゃなくなるためには」ということが指南されているのだが、こちらは多少、ご本人の「好み」に合わせているようなイメージが...
「○○円になります」確かに会計時に言われる「~になります」には自分も違和感だけれども、ここで取り上げなくとも...という印象が。

あげていただいた事例から学ぶ点は多い。「残念な人」の事例についても、(反面教師のような使い方で)活かす方法は考えられるだろう。著者が言うように、日常で接している場面も、受け流すだけではなく、「ビジネスに活かす」という視点を持っていれば、チャンスは見つけられる。

【ことば】あなたの選び方のこだわりが、相手からの選ばれ方と比例する可能性があるからだ。なんでもいい加減に選ぶ人は、いい加減に選ばれる。安いものばかり選ぶ人は、安いかどうかで選ばれてしまものだ。

物理的な事情もあるけれども、「安いものばかり選ぶ人」になりかかっている自分に気づく。「安物買い」と「節約」は違う。ただ、値段ばかりにこだわっていると人間が小さくなる感覚は、ある。大きく見せる、というよりは、小さくまとまらない、「賢い」スタイルでありたい。

残念な人の仕事の習慣 (アスコムBOOKS)
 

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nigredoな日々
考えるための書評集


2012/07/06

「リクルート」っぽい。学ぶ点たくさんある

断らない人は、なぜか仕事がうまくいく
断らない人は、なぜか仕事がうまくいく
  • 発売日: 2010/08/27

『断らない人は、なぜか仕事がうまくいく』田中和彦
[5/120]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

「事件」当時にリクルートで、広報室課長。その後「やりたかったこと」である映画業界、現在は、人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサー。自分より9つ上の年代の著者であるけれど、略歴みただけでもかなり精力的だ。

その源は、「断らない」ことだという。新卒で望んでいなかった「人事」配属になったことから始まった考え方で、声をかけてくれた案件に対しては原則「断らない」姿勢を貫いていらっしゃる。当然に自らの業務は増えるけれど、そしてその増えた分に対しての報酬の伸びは比例していないけれど、必ずそこに何かを得て、そして自分を高めてきた。
そんなご自身の経歴を「実績」として、断ることによるチャンスロスを憂い、特に若い世代に対して積極的にやってみることへの重要性を説く。

冒頭に書かれていたように、基本的には若い世代へのメッセージである。自分世代は「対象外」であるが、それこそその理由をもって「断る」ことをせずに読んでみた。何より著者が、リ社の後、映画会社やその他のフィールドで、40代に入ってからも積極的に「新しい」フィールドに挑戦している姿に、勇気をもらえたのが大きい。

「断らない」ことの重要性はもちろん理解する。そして「その場では」経済的なメリットがない案件でも、真剣に取り組むことで、金銭以外のプラスが「必ず」生じることも実感できる(もちろんその「将来的な」メリットのため「だけ」に取り組むわけではない)。
そして著者の奨める「兼任のススメ」も理解できる。自分の枠が、視野が広がること、人脈がひろがること、 時間の使い方を工夫するようになること、体感としても理解できるのだ。

ここでいう「断らない」ということは、すなわち「新しいことへの挑戦」と理解する。著者のいう「これまでやったことのある範囲内でしかやらない」では、まさに自分自身の成長がない。そして年齢がいくつになっても人間は成長できるのだ、

若い世代には時間がある。若くない世代だって、実は時間は「つくれる」のだ。彼らと同じような時間の使い方をしていたらいけないけれど、彼らのもっていない「経験値」を元に、そして時間の価値を十分感じていることを背景に、 スピードアップ、効率的に時間を使えばよい。
若い世代向けのメッセージであっても、オヤジ世代の自分でも十分受け止めた。自分にだって出来るのだ。

一部テクニック的な部分もあるけれど、基本的には「アクション」してなんぼ、というメッセージである。逆に「若い時に十分動けなかった」という反省意識のある世代の方がビビッドに刺激を受けるかもしれない。

この本を読んで、まさに「今」取り組んでいるビジネスに対しての考え方を少し修正しました。こういうのは「縁」だと思うし、それを十分に感じて取り組むことも大事だと思いまして。あとは前を向いて走るだけだ。

人生、どこで何がつながるか、分からない。だったら、どこかで「つながる」かもしれないことを、「断らない」でたくさん経験しておいたほうが、面白い。その先に何か待っている可能性が高まる。今も大事だけど、未来も大事だし、未来があるからこそ今がある。


【ことば】...チャンスは万人に平等に降りてくるものだと思っています。要するに、それをチャンスだと思ってつかみ取るのか、何とも思わずに見逃すかの違いなのです。

それが本当にチャンスなのかは、一度受け入れてやってみるしかない。見逃したら最高でも「ゼロ」。やってみて駄目なら、最低で「ゼロ」。だったらどうすればいいかは明白だ。

断らない人は、なぜか仕事がうまくいく


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BLKSheeP
蔵前トラックⅡ

「厳しさ」を知り、ますます前を向いて


『取締役になったら「初めに」読む本』福崎剛志
[4/119]
Amazon
K-amazon ★★★☆☆

ダイレクトに読者が限られている「ハウツー」である。こんな本を読むのは、自分に知識が「必要」だと迫られているからです。著者がこの本で伝えている先は、まさに「初めて」知る人。最低限の知識を以て臨まないといけない、という内容なので、まさに今、自分にはマッチング度合いが高いわけです。

図らずも本書の中で指摘しているように、取締役、役員という立場については、自分では何も知らなかったなあ、というイマサラの思い。そして、「偉い人」「高給取りの人」というイメージが先行していた部分はありましたが、言うまでもなく、「責任」がついてくるということ。
従業員という立場とは全く別世界の話しで、心構えを新たにした、そんな感じです。

会社から委任された経営のプロである取締役。会社の重要な業務についての意思決定を行い、他の取締役の業務遂行を監督し、代表取締役の選任・解任を行う。この3つがその「役割」であること、本書を通じて何度も触れられていました。特に最初の、業務執行について責任を元に執り行う重要性。これは会社の規模云々ではなく、まさにビジネスに携わるものとしての自覚が大事。

自分がどうこう、というのとは別に、これまでに属した会社の「役員」に対する意識も変わってきました。彼らの(目に見える)パフォーマンスを、従業員と同じレベルで見て時には批判してきたりしたこと、もしかしたら誤りがあったのかもしれません。

会社経営のプロとして委任される取締役、その意識を持つのは大前提として、ここに関わる法務的なことはまったくといって知らなかったのが現実です。この類の本を他に読んだことがないので、比較することはできませんが、イメージとして法律関係は「読むのに困難」なものだと思われますが、「初めて」と銘打ているだけあって、「駆け出し」の身でも十分理解できました。
右も左もわからない、こんなときにこのようなハウツーは、非常に力強い味方です。

【ことば】会社をつくるということは、大変なことです。起業の高揚感と同時に、不安感に襲われても不思議はありません。その不安感のなかには、「取締役」という立場の重さも含まれているのでしょう。

自分の周りにも、「起業して取締役」という方がいらっしゃいます。彼らは起業当時のことを「さらっと」語るのですが、言葉にできないくらいの苦労を乗り越えてきた自信もうかがえます。そんな姿を見ていて刺激をいただいてます。「さらっと」語るのがいかにもかっこいい。

役員の法律知識がよくわかる! 取締役になったら「初めに」読む本




2012/07/05

組合vs経営。このテーマでここまでエキサイティング!

ともにがんばりましょう
ともにがんばりましょう
  • 発売日: 2012/07/03

『ともにがんばりましょう』塩田武士
[3/118]
Amazon
K-amazon ★★★★☆

一時金と深夜手当、地方新聞社における労働組合と会社経営側の凌ぎ合い。めったに見ないテーマだし、自分自身組合がある会社に属したのは20年前が最後なんで、その距離感を埋められるか多少不安に読み始め。

一般的に言われているような「新聞離れ」という環境の中で、一時金の確保と新聞社にはどうしてもつきまとう深夜労働に対する手当の攻防。組合側の要求も、現場で働くものとして十分理解できるし、会社側の事情も汲めるものがある。自分自身どちらにも寄らずにフラットな位置づけで読んでいたが、これがストーリーに惹きつける要因になったのかもしれない。

組合員の代表として会社側との折衝にあたる委員たちは、その会社の社員でもあり、自らの職務もあるんだけど、このストーリーの中では、委員としての活動に完全に焦点を当てている。内向的で人前でしゃべることすらままならない主人公の精神的肉体的な苦痛を通して、委員長はじめ組合の活動が表されるが、その旧態依然としていつつも、ルールに則った進め方や、組合と経営の間の埋まらない溝をどう狭めていくか、という委員長らの手腕、その「汗」「臨場感」がビビッドに伝わってくる。組合活動の事情に詳しくない自分でも、この「闘争」に手に汗握ったのだ。

決裂寸前までいきながら、窮地を救ったものは、すなわち交渉で最も大事なことは何だったのか。それが少しずつ見えてくる過程も心地よい。少々違和感はあるものの、つい涙腺が緩むような出来事、交渉の場で発言すらできない主人公の成長過程、淡い恋の話し、メインのストーリーと小さなスパイスの効き具合も快い。

人前で話せない、内向的な主人公、という設定も秀逸。会議でもひと言も発することができず、いつものことながら自己嫌悪に陥る彼が、最後に見せたパフォーマンス。睡眠時間を削り、他の委員から刺激をうけながら、それでも集中力を以てやり遂げる姿。彼の気持ちの変化、というところに焦点を当てても、魅力的な読み方ができるのだ。
 
組合を描いた小説、というとちょっと距離感を感じたり、自分とは無関係と感じるところもあるかもしれないが、実際に組合活動とは縁のない自分が読んでも、相当に引き込まれた現実、おそらく職場などでの組合に多少絡んでいる人は相当にエキサイティングに読めるのではないかと思う。

テーマとして魅力があるかは個別だけれど、直接は無関係なテーマでもここまで読んじゃう、そんなストーリー展開に著者の底なしのパワーを感じます。他の著作も読んでみたい、読み終わった直後からそう感じました。

【ことば】心身ともにきつい仕事を続けるのは、世の中にはニュースを伝える人間が必要だという強烈な自負からです。

過酷な労働条件のもとで働く人たちを支えているのは、このような自負心、プライドなのだろうと思う。「社会のため」と同時に「自分自身のため」にも、このような矜持であるべきだと思う。どんなビジネスのおいても、自分とそして「相手」がいなければ始まらない話。

ともにがんばりましょう


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畝源 The ブログ


2012/07/04

スケールでかいなあ...(自分にとって)新しい世界が

巨悪 仮面警官VI (幻冬舎文庫)
巨悪 仮面警官VI (幻冬舎文庫)
  • 発売日: 2012/06/12

『巨悪 仮面警Ⅵ』弐藤水流
[2/117]
Amazon
K-amazon ★★★☆☆

「警察小説」というジャンル、らしい。初めての世界です。主人公は「過去のある」警察官。登場するのは、警察、国家権力、裏社会。舞台は日本のみならず中国も絡み...場面が目まぐるしく変わり、登場人物も多数...そうなのです。登場人物がやたらと多い印象が。はじめに「登場人物一覧」が出てくるのですが(24名)、時々ここに戻る必要もでてきたりとか(自分だけでしょうけれど)。

主人公は死んだと思っていた過去の恋人の生存を知ります。ところがまたしても目の前から消えてしまう彼女。連れ去られた背景は何が...そこに暗躍する国家権力とヤクザ集団。日本初の女性総理大臣の過去も一部絡んだり。

ひとつの「情報」をめぐって多くの人が動きます。そしてあれだけいたはずの登場人物が一人ひとり消えていきます(消されていきます)。あまり血なまぐさいシーンは好きではないのですが、そして登場人物が多すぎるのも抵抗があるんですが...
しかしながらこの小説は、読めちゃいます。苦手なパーツがいくつかあるような自分でも、引き込まれてしまう場面はありました。登場人物の背景などあまり小さなこと(ちいさくはないのかもしれませんが...)にこだわらず、どんどん先に行くように読み進めると、ストーリーの展開の早さとうまくマッチングする感じです。スピード感でしょうか。

実際にこの小説に出てくるようなことが起こったら困ります。国の体制が揺らぎます。何を信用したらよいのか不信感にとらわれてしまいます。もちろん「架空」のものとして読みものとして楽しむべきものですが、読み終えた後に地下鉄丸ノ内に乗った時は落ち着かなかった...理由は本書にて。

シリーズものなんですね。しかも最終編。クライマックスから先に読んでしまった...順番は違えど、Ⅰから読んでみたいとも思います。普段ビジネス書や、小説にしても「のどかな」ものを中心に読んでいるモノにとっては、良い意味で刺激的でした。

最終章だけしか(今のところ)読んでいないので、特にこの篇がそうなのかもしれませんが、ちょっと人が死んじゃい過ぎ、なところはあります。裏の社会が絡むのですが、そしてあくまで小説なのですが、現実とのかい離があまりに遠くなると、「この本の中」だけで完結してそれで終わり、っていう刹那的になっちゃいそうな。そのような生々しいシーンが強烈で印象的なのですが、それぞれの人物の「人間味」のようなものも描かれています。そのギャップのせいかもしれませんが、人間ドラマを感じる場面も少なくありません。

 【ことば】 まともに歩けるようになるのは難しいかもしれない、医師からはそう告げられている。かまわなかった。まともでなくとも、足が動くかぎり前へ進める。

実際に身体のことを言っているようですが、それとともに、「生きる」という部分についての意味も含まれています。たとえ障害があっても前に進む努力。一歩踏み出すことで何かが変わること。一歩がないと何も変わらないこと。大事なことが込められているような。

巨悪 仮面警官VI (幻冬舎文庫)

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ミステリー三昧

2012/07/01

年齢問わず参考にできる。むしろ早い方が


『40代からの自分の人生を充実させる整理術』仲井圭二
[1/116]Library
Amazon ★★★★☆
K-amazon ★★★☆☆

多くの会社員にとって、何かと節目になる40代。「サービス残業」当たり前で、むしろ「残業している自分が好き」みたいな風潮もありやなしや。その「感覚」を知らずに「ワークライフバランス」なるものを説いている人も少なくないが、著者は、非常に感覚が「現場」であるようだ。

その感覚を持ちつつも、「会社」軸の考え方=時間の使い方から、「自分」軸にシフトすべきだと説く。早く言えば「残業」せずに、仕事以外の生き方も充実させていけば、きっと「なりたい/なるべき」自分が見えてくる、という主張である。
残業が美徳、残業している=頑張っていると思われる=会社に居続けられる、というストーリーはもはや旧式である。会社に役に立つ人間と「会社に思われる」ことが一種のスキルだった時代もあったのだろうが、今これからは当然に通用しないのだ。自分を高めることをしないと例え「会社」で通用しても、「社会」に対して生きる術を失ってしまう。

人生の価値観をどこに置くか、ということの変化もある。仕事一辺倒で「お金」をもたらせばそれでいいのか。お金と同等もしくはそれ以上に「時間」に価値があることに気づかないと、老いてから取り返しがつかないのは、まさしく「時間」だったりするのだ。

というのが本書からのメッセージだと思われます。これには反対するようなことはありませんし、自分が「会社員」としての人生をこれまで過ごしてきて、違和感を感じていたこととほぼ合致しますので同意できるところが多いのです。
ですが、著者の説く「仕事にかかる時間短縮」や「仕事以外のやりたいことの充実」などは、人それぞれであるのが実情でしょう。要は「人生において幸せを感じるポイント」がどこか、ということが本質であって、その意味で「仕事」に時間をかけている人だっているわけです。ワーカホリックなどの言葉でひとつに集約してしまうと本質が見えないのですが、「仕事」に時間を割くことでストレスを感じることなく、自分を高めることが可能であるならば、「一辺倒」でも問題はありません。

タイトルの「40代からの~」という箇所に惹かれて読み始めました。まさに自分が「ターゲットど真ん中」であると思ったからです。が、内容として特別に「40代」であるべき箇所はなく、著者ご自身が40代の時に感じられたこと、実行されたことを中心に書かれているから、このタイトルなのでしょうか...
マーケティング要素としてつけられたタイトルならちょっと悲しいのですが、もっともっと「40代同朋に向けてのメッセージ」がコンテンツとして欲しかったです。感覚的にはむしろ30代が読んだ方がビビッドかもしれないと思う。時間がポイントですからね、早い方がベターです。

【ことば】...「まったくお金がもらえないとしても、やってみたいか」を自分にたずねてみて。「それでもやってみたい」と思えたら、やる価値がある、あるいは、 やる準備ができているということではないか...

自分ができることで、他の人の役に立つことを徹底的にやりぬくことができるかどうか。この[ことば]のように自分に問いかけてみる。自分が進みたい方向と間違っていないと感じられれば、それをやり抜ければ、金銭的なものだけではなく、自分の価値にきっと帰ってくる。


40代からの自分の人生を充実させる整理術 (Nanaブックス)


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整理と習慣化のための読書録
☆ビジネス書読みあさり☆

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